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麗人の秘密  作者: 北瀬野ゆなき
【第一章:麗人と人々】
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04:親友

 大広間の中央で観衆の目を惹き付けながら舞い踊る二人の恋人達。


 そんな二人の姿を眩しそうに、そしてどこか切なそうに見詰める者が居た。

 それは、つい先程までジュリウスと談笑していた彼の親友、マクシアンだ。


「ああ、ジュリウス。君は……」


 正確には、彼が見ているのは「二人の姿」ではない。彼の目線の先に居るのはジュリウスのみだ。

 当然エミリーヌの姿も視界には映っているものの、今のマクシアンの意識にはその姿は入って来ていない。

 と言っても、別に彼がエミリーヌのことを嫌っているとかそういうわけではない。ただ単に、それ以上にジュリウスに対する想いの方が大きいというだけのことだ。


「君は相変わらず、美しいね……」


 マクシアンはずっと以前からジュリウスに想いを抱いていた。

 それはまだ幼い時分、家柄や年頃が近いことから互いに友人となるために紹介されたジュリウスの姿を初めて見た時のこと。

 今のジュリウスとは異なり髪は短かったため、マクシアンも遠目に見た時には少年かと思ったものだった。しかし、近くに寄った彼はすぐにジュリウスの放つ少年の格好をしただけでは隠しきれない色香に気付くこととなった。

 いや、それはまるで少年のような格好をしているからこそ、逆に如実に顕れるという側面もあったのかも知れない。

 そのジュリウスの姿は当時のマクシアンにとって、この世で最も美しい存在に見えたのだ。


 マクシアンは一目でジュリウスに惹かれ、夢中になってしまった。

 しかし、話すうちに彼はジュリウスが男性として振る舞おうとしていることに気付くこととなる。そして、歳不相応に聡明だった彼は悟ったのだ。

「彼女」は男性として見られることを望んでおり、それに沿わなければ、きっと「彼女」の傍に居ることは出来ないのだ、と。

 故に、彼はジュリウスに想いを寄せながらも、その想いを隠しながらあたかも男性の友人に対するように振る舞ってきたのだった。



 男性として振る舞うジュリウスと友情を育みながら、マクシアンはやがて心の中に密かに一つ誓いを抱くようになる。

 それは、悲劇の運命に束縛され、男性として生きることを余儀なくされた「彼女」を救うという誓い。


 しかし、「彼女」を救うことを望みながらも、男性として見ているように振る舞わなければ「彼女」の傍に居られなくなってしまうかも知れないという事実に臆し、マクシアンは積極的な行動を躊躇していた。

 自らの誓いと現状との板挟みに悩みながら、彼はジュリウスの親友としてあり続けてきたのだ。


「いつか……いつかきっと、君をその呪縛から解放してみせるよ」


 臆しながらも、悩みながらも、マクシアンはジュリウスを救う日を夢見る。

 そして願わくは、女性としての人生を取り戻した「彼女」の隣に立つのが自分であれたら、きっとこれ以上の喜びはないに違いない。

 その自らの誓いを再確認するかのように、マクシアンは誰にも聞こえない程の小さな声で呟くのだった。






 ……実際には男性であるジュリウスにとっては、マクシアンの願いは余計なお世話としか言う他ない。

 男性として生きることを余儀なくされたも何も、ジュリウスは元々男性である。女性としての人生を「取り戻す」ことなどあり得ないし、そのようなことなど彼は想像すらしていない。


 当然、親友であるマクシアンからそんなことを思われているとは、ジュリウスは夢にも思っていない。

 彼から見たマクシアンは、何故か周囲から女性と思われてしまっている自分を、正しく男性として接してくれる貴重な友人の一人だ。

 もしも彼が周囲と同様に自分を女性として見た上に想いを寄せ、挙句の果てに「女性に戻す」などということを考えている事実に気付いたとすれば、二人の間の友情にも確実に罅が入ることだろう。

 その点では、想いを隠さなければジュリウスの傍に居られなくなるというマクシアンの考えは、ある意味正しい。

 前提を色々と間違え過ぎていて、何の救いにもならないことだが。




 † † †




「マクシアン様」


 壁際に立つマクシアンに声を掛けてくる者が居た。

 彼に声を掛けてきたのは、翠色の髪を腰まで伸ばした少女だった。

 彼女の名前はリリーシア=セーヴラン。セーヴラン男爵家の一人娘でエミリーヌの親友でもある。彼女はエミリーヌを通してジュリウスやマクシアンとも親しい間柄にあった。

 リリーシアとエミリーヌは同い年で、ジュリウスやマクシアンからは二歳程年下だ。しかし、穏やかで大人びた彼女は実年齢よりも少し上に見られることが多い。こうしてマクシアンと会話していても、同い年かリリーシアの方が年上に見える。

 外見は似ていないが、エミリーヌが歳相応に無邪気な一面を持っている分、二人が並べばまるで姉妹のように見るものも多い。


「リリーシア嬢か、エミリーヌ嬢と一緒に来ていたんだね」

「はい、彼女はジュリウス様の姿が見えた途端に走って行ってしまいましたので、置いて行かれてしまいましたが」

「エミリーヌ嬢はジュリウスのことが大好きだからね」

「ええ、本当に」


 苦笑しながら告げる彼女もまた、ジュリウスに憧れる少女の一人である。

 しかし、彼女は同時に親友であるエミリーヌのことも心の底から応援しており、一歩引いた場所から二人の姿を見守っていた。


「お隣、よろしいですか」

「ああ、もちろんだよ」

「それでは、失礼します」


 リリーシアはマクシアンの横に立ち、彼が向いている方へと視線を向けた。


「………………」

「………………」


 二人はしばらく無言になり、大広間の中心で踊るジュリウスとエミリーヌの姿を眺める。

 周囲の者達も踊るのをやめており、たった一組だけ踊る彼らはこの空間の主役となっていた。


 ジュリウスの隣にはエミリーヌが居る。

 エミリーヌの隣にはジュリウスが居る。


 ジュリウスはいつも浮かべているような微笑みだが、付き合いの長いマクシアンの目にはそれが他の者の前で浮かべる取り繕ったものではなく、心底からの笑顔であることがよく分かった。

 エミリーヌは満面の笑みを浮かべている。こちらは見るからに心からのものだ。


 幸せそうに踊る二人の姿が、外から見るマクシアンとリリーシアの目に眩しく映った。

 その様はとても似合いの恋人達のそれであり、二人の間には余人の入る隙など微塵も存在しない。


「二人は……」

「え?」


 ジュリウス達を見ていたマクシアンが、ぽつりと呟いた。

 同じ方向を向いていたリリーシアは、唐突な言葉に少し驚いてマクシアンの方へと振り向く。しかし、マクシアンの視線はジュリウス達の方を見たままで、リリーシアの方へ向き直りはしなかった。


「二人は、このままで良いと考えているのかな」

「それは………」


 マクシアンの言葉の意味は、リリーシアにもすぐに伝わった。それは、リリーシア自身もこれまでに何度か考えたことだったからだ。

「女性同士のカップル」である──と二人は思い込んでいる──ジュリウスとエミリーヌ。今はそれほど問題はないとしても、彼らの将来を考えれば、その道は決して平坦ではないということは想像に難くないと二人は心配していた。

 リリーシアは再び広間の中央へと目線を向けた。


「少なくとも、エミリーヌは本気でジュリウス様のことを想っています。

 それに、私が見る限りジュリウス様の方もおそらくは……」

「……そう、だね」


 二人の姿を眺めながら告げられたリリーシアの言葉に、マクシアンは痛みを堪えるように答える。

 ジュリウスに女性に戻って自分と愛を育んで欲しいと望むマクシアンにとって、二人が本気で想い合っているという事実は決して認めたくないことだ。しかし、その一方で幸福そうな二人の姿を見れば、応援したい気持ちが生まれてしまう。

 好きだからこそ共に居て欲しい、好きだからこそ幸せになって欲しい、相反してしまう二つの想いが彼の心を締め上げる。

 複雑そうな表情で返されたその言葉には、万感の想いが籠められていた。


「………………」

「………………」


 二人の間の会話が途切れ沈黙が訪れる。


 直前に話していた会話の内容から空気が重くなり掛けたが、それを嫌ったマクシアンは空気を変えようと敢えて明るくおどけた口調でリリーシアへと話しを変えるように話し掛けた。

 それは、自身の心の痛みを誤魔化すためだったのかも知れない。


「ところで、宜しければ一曲お付き合いを……と言いたいところだけど、今はちょっと勘弁してくれるかな。リリーシア嬢。

 流石に、この状況であそこに割り込むような度胸はないからね」

「ええ、ダンスのお相手なら喜んでと申し上げますが、あそこに踊り込むのは私も無理です。

 周りから白い目で見られますし、あの二人と比較されるのも荷が重過ぎます。

 そんなことが出来るのは余程自分に自信がある人か……」


 そこまで言って、何かに気付いたリリーシアが唐突に明後日の方向を向いた。彼女の表情が呆れたように変わる。


「……あるいは、周囲の目に気付かない方くらいかと」


 リリーシアの仕草を見たマクシアンも遅れて彼女と同じ方向に視線をやり、その理由に気付いた。二人が振り向いた方では、一組の男女が中央へと足を進めていた。


「例えば、あの方のように」

「おやおや、王子様のお出ましか」

女性だと勘違いしているだけなので、ボーイズラブには当たらない……ですよね?

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果たしてこの作品をどんなジャンルに位置づけるか、それが問題だ。
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