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麗人の秘密  作者: 北瀬野ゆなき
【第四章:麗人と刺客】
17/28

17:論功行賞

 ラクシュルス大公国との戦争に勝利したオルレーヌ王国の特別編成軍は王都に凱旋した。

 とは言え、北部で徴兵された兵達は王都までは戻らずにそれぞれの領地に戻っていったため、全軍が凱旋したと言うわけではない。


 早馬の報せによって事前に戦争に勝利したことは国民に広く知らされていたため、民達は国を救った勇士達の姿を一目見ようと列を為し、王都のメインストリートは大変な賑わいとなった。

 熱狂したのは平民は勿論、貴族でさえも一緒だった。


 中でも一番の注目は、やはり敵の総指揮官を正々堂々一騎打ちで打倒したジュリウスであることは言うまでもないだろう。

 ジュリウス親衛隊を始めとする令嬢達の殆どは、彼がお目当てである。

 元より多くの人気を集める人物がそれだけの功績を挙げたのだから、無理もないことだった。

 吟遊詩人達は早くも漏れ聞こえたジュリウスの活躍を歌にし、街のあちこちで披露している。



 王都の入口から軍の行列が姿を見せた時、周囲からは大きな歓声が湧き上がった。

 列の先頭に立つのは、此度の軍を率いた公爵家ゆかりの総指揮官とその側近や護衛だ。

 続いて、別働隊を指揮したエヴリヤック侯爵の隊がその後に続く。


 以降の者達に対しては、最初に上がった程の大きな歓声は上がることは無かったが、一度だけ最初の歓声を遥かに凌ぐ大きな歓声が上がった瞬間があった。

 勿論、今一番の時の人であると言える、ジュリウスが姿を見せたためだ。


 馬に跨り薄っすらと微笑みを浮かべた彼の姿は煌びやかで、まるで英雄譚の一枚絵のようだ。


 荘厳さすら感じられるその姿を見た者は、老若男女を問わずに見惚れ熱い溜息を吐いた。

 特に、歳若い令嬢達などは感極まってそのまま気絶して倒れ込み、辺りを騒然とさせるのだった。


 一部に騒ぎを起こしながら、一行はゆっくりと王城へと向かっていった。




 † † †




 王都入口の凱旋は兵士も含めた行列で行進を行っていたが、王城に入ることが許されるのは貴族の身分にあるものだけである。

 よって、それ以外の者については王城の前で既定の報償を受け取り解散となった。


 王城の中に入った者達は、論功行賞を受ける者達だ。

 通常であれば、領地の配分などが行われることが多いためこのように短期間で論功行賞が行われることはないのだが、此度の戦争はラクシュルス大公国の侵攻を防いだだけであって、特に新たな領土を得たわけではない。それ故に、報償は主に勲章や金銭によって与えられることが最初から決まっており、短期間での決着が可能になったのだった。


 王城の入口で馬を厩に預けた一行は、案内の者に従って謁見の間へと足を進めた。


 彼らが謁見の間に入ると、高官達が左右に列を作っており、正面の段の上に設けられた玉座の横には王太子であるデュドリックの姿もあった。

 一行は玉座のある段の手前まで足を進めると、総指揮官を先頭にエヴリヤック侯爵、そしてその次の地位にある者と地位の順番に三列に並んだ。

 伯爵子であるジュリウスは、この中では上から数えた方が早い順位にあるため、列の比較的前の方に並ぶこととなった。


「国王陛下、御入来」


 部屋の右側の扉が開き、侍従が高らかに宣言を為す。

 それを受けて、部屋の中に居る者達はその場で跪き頭を垂れた。

 深々と頭を下げた彼らの視界には映らないが、扉から豪奢な衣装を纏い宝冠を被った壮年の男性が入室し、玉座へと腰掛けた。


「一同、表を上げよ」


 玉座に座る男性の指示を受け、平伏していた者達が顔を上げる。

 彼らの視線は一様に玉座へと集中した。

 そこに座るのは、このオルレーヌ王国の最高権力者である国王──ディミトゥリ=アーク=オルレーヌだ。

 デュドリックの父親でもあり、年齢こそ違えど顔立ちはとてもよく似ている。


「此度の戦におけるそなたらの活躍、まことに大義であった。

 勇敢なるそなたらの奮戦のおかげで、この国の平和は保たれた。

 その功績は万言を尽くしても足るまい」

「勿体無いお言葉、恐悦至極に御座います」

「うむ」


 ディミトゥリの労いの言葉に、戦功者を代表して総指揮官が礼を述べた。ディミトゥリはその様子に満足そうに頷くが、続いて告げねばならない言葉を思って僅かに表情を曇らせた。


「本来であればそなたらの功績に領地や爵位を以って報いたいところなのだが、

 此度の戦は防衛戦、我が国が新たな領土を得たわけではないし、占領したわけでもない。

 何れラクシュルス大公国との間で講和が為されるであろうが、おそらくは賠償金のみで決着となろう。

 それゆえに、心苦しいがそなたらへの報償も金銭によって為さざるを得ん。

 それについては容認して貰いたい」


 申し訳なさそうな国王の言葉だが、悪く捉える者はこの場には居なかった。

 何故なら、ここで跪いている者の大半が、名誉こそが最上の褒美と考えていたためだ。

 と言っても、名誉があれば実利は要らぬと言う無私の高潔な精神の持ち主ばかりというわけではない。名誉を得ることが最終的には実利に繋がるためである。


 そしてそれは、箔を付けてエミリーヌに婚姻を申し入れることを目論むジュリウスも同様だった。


「それでは、これより論功行賞を始める」


 ディミトゥリの宣言に、戦功者達の間に緊張感が高まった。

 この場で一人一人の名が読み上げられ国王自らの手によって表彰が為されるのだが、流石に居並ぶ戦功者達の全てを表彰対象とするには時間が掛かり過ぎるため、この場で名を読み上げられるのは一部の特に大きな功績を残した者だけだ。

 逆に言えば、この場で名を読み上げられればそれだけで大きな名誉となるのだ。

 また、名を読み上げられるのは功績の大きい順となるため、皆、自身の名が呼ばれることを、そして出来ることならばなるべく早く呼ばれることを切望している。


 とは言っても、第一に名を呼ばれる者は総指揮官となるのが既定路線である。

 大抵の場合、勲功三位辺りまでは軍全体の指揮を執った者達と最初から決まっているため、小隊指揮官である各貴族達の争いになるのはそれより後だ。


 そう考えていた者達は、ディミトゥリが最初に挙げた名に驚愕することになる。


「ローゼンベルク伯爵が長子、ジュリウス=ローゼンベルク」

「!?」


 軍の総指揮官を差し置いての勲功第一に、まさかの小隊の指揮官でしかないジュリウスが選ばれたためだ。

 しかし、驚きを露わにしたのは一瞬であり、すぐに皆理解を示した。

 本来勲功第一に選ばれるべき総指揮官も、自身の勲功が下げられたことすら顧みず、最初から納得の表情で頷いている。

 敵の総指揮官であり剣技においてはラクシュルス大公国にこの人ありとまで言われた公子、ヘトヴィヒ=フォン=ラクシュルスを一騎打ちにて凌駕したこと。それは今回の勝利を決定付けた事実であり、勲功第一と見做されても全く不思議ではない大きな戦果だったためだ。


「ハッ!」


 呼ばれたジュリウス自身も一瞬驚きに硬直したが、すぐに気を取り直して短く返答すると前に進み出て跪く。

 ディミトゥリは玉座を立つと壇上から降り、ジュリウスが跪いているそのすぐ前まで足を運んだ。


「ラクシュルス大公国の総指揮官たるヘトヴィヒ公子を一騎打ちにて打ち取ったこと、見事なり。

 その功績を称え、そなたに紅薔薇十字勲章を与える」


 その言葉に、再び室内にどよめきが走った。

 紅薔薇十字勲章、それはオルレーヌ王国において国家に多大なる益を齎すような特に大きな功績を残した者だけに与えられる勲章だ。

 過去にも数えられる程しか授与された者はいないという、希少な勲章である。


「ありがたき幸せにございます」


 畏まるジュリウスに対して微笑むと、ディミトゥリは侍従から受け取った煌びやかな勲章をジュリウスへと渡した。

 ジュリウスは恭しくそれを受け取ると、感慨深い思いでしばしそれを眺めた。


「また併せて、金貨と白馬を与える」


 続いて述べられたディミトゥリの言葉に、ジュリウスは内心で踊り上がる程の喜びを感じた。

 オルレーヌ王国産の馬は栗毛が殆どで白馬は非常に貴重であり、極々限られた者しか得ることが出来ない憧れの存在なのだ。

 その希少さは白馬に乗っているというそれだけのことで周囲の耳目を集めるほどのものだ。


 今回の功績を以ってエミリーヌにアピールしたいジュリウスとしては、願ってもない副賞を得られたと言って良いだろう。


 勲章と目録を受け取り振り返ったジュリウスは、盛大な拍手が鳴り響く中を列に戻るのだった。

 彼に敵対心を燃やすデュドリックですら、この時ばかりは若干悔しそうにしながらも惜しみの無い拍手を贈った。



 その後は順当に総指揮官、エヴリヤック侯爵と順に表彰され、論功行賞は終わりを迎えた。

 功績を評価された者は歓喜を、惜しくも表彰から外れた者は落胆を、それぞれ抱きながら王城を退出するのだった。

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