つまの恨み
先月、マグロの刺身が特売だったのでお刺身コーナーを眺めていたところ、大量にパック詰めされたつまが目に入りました。500グラムと記載されていて、180円。しかも半額になっていました。
四人家族でこれはやりすぎだと思うだろう、どうだ? 試してみるか? という量のつまに感動して即購入。つまの付け合わせにマグロも買い物かごに入れて、ウキウキと帰宅しました。
梨鳥はマグロの刺身も好きだけどつまが大好きなのです。つまでご飯三杯イケる。いつもはちょろっとしかないからモリモリ食べたりしないけど、今日は心行くまでつまをモリモリ食べる!!
想像だけでハッピー!!
しかし、給仕をするものの宿命なのか、いつも家族よりワンテンポ遅れて食卓につく梨鳥を待っていたのは、マグロがたんまり残ったつまの無い器でした。
旦那が意味わからんくらい一人で食ってた。
めっちゃあったんですよ。つま。
衝撃で口もきけませんでしたね。手品かな? って思いました。
つまをあんなにモリモリ、ご飯三杯はイケるみたいな感じで食べる奴がこの世にいるとは思わなかった。
しかも独り占めするってどういう事なんでしょう。この卑しい男が、わたしの夫? あのつまのかけらが付いた汚らしい唇に今までドキドキしていたなんて……と、かなり腹が煮えました。
でも梨鳥も大人ですからね、つまで逆上する真似なんてできませんよ。
でも、でも、え? 意味わからん。なんで真っ先に平らげたのがつま?
「つまーーーーー!? ハァーーーーー!?」
と、野太い大声が出てしまうくらいは許してほしい秋の終わりのことでした。
それでですね、今日スーパーに買い物へ行ったらまたマグロ短冊が安く売っていたんですよ。
マグロはスーパーのシャビシャビのやつでも塩をすりこんでしばらく置くと、まず味の水分が抜けて少しマシになるって少し前に知ったので、試してみるかと、買い物かごに入れました。
そしてつまを探しました。今度はもっと買っていこうと思い、探すのですが並んでいなくて、店員さんに尋ねるとわざわざパックしてくれると言ってくれたので、1000グラム頼みました。
店員さんは「え……、100?」と聞き返してくださいましたが、いいや、1000です。
買い物かごの中のマグロとバランスが合わないではないか、というのは百も承知。
以前500グラムを一瞬で消し去られた苦い記憶が梨鳥を強くしました。
梨鳥はあの日のつまをどうしても取り返したかったのです。旦那もさすがにこれには手も足も出まい、と思いました。
かくして、ボウル(大)いっぱいの白いフワフワが食卓に並びました。
梨鳥はそれを眺めてすごく満足だった。
つまマウンテンに恐れおののく旦那。
しかも、今日はなんか煮物がうまく出来て皆そっちばかりに箸を動かすではないか。
マウンテンが全然崩れん……。しかも塩すりこんで少し置いたマグロ、めちゃオイシイご飯三杯はイケる。
お腹がつまとは別のもので満たされていき、ふと気が付くと、うそやろ、こんなに食べられないという山盛りのつまが、旦那にちょっとづつ押されて、梨鳥の真ん前に移動していた。
いやいや、なんで今日は食わんのだて。食えよ! 食え!! と、結局険悪になったのでした。
子供が爆笑してたのが唯一の癒しです。
明日の昼ご飯に期待。
と、例のごとくここからが本編になるのですが、最近肩に力が入っていたのか、次々と煌びやかな活躍をする周りに張り合おうとしていたのか、好きな事を好きに言ったり(書いたり)、くだらない事を垂れ流して書いたりするのを無意識に避けていた事に気が付きました。
本当に些細なきっかけだったのが、素敵な賞に受賞された方に「おめでとうございます。頑張ってください」といった内容のお祝いの言葉を(もちろん本心なのですが)贈ったのですが、やっぱり「凄いな、羨ましいなあ!」という気持ちが勿論あって、自分なんて……って拗ねていました。
けれど、梨鳥が「凄いな」と思っている方が「あやかりたい」と、素直に仰っているのを見て、ハッとしました。
あんまり素直過ぎてドロドロしちゃうのもいけないけれど、こういう、自分もそうなりたいって気持ちを出したり表明したりする事って、とても見ていて気持ちいいなと思ったのです。
なんとなく自分の見栄に気づいた感じでした。
そういうものが作用して諸々筆が止まってしまっていたり、新しいお話が折角自分の元に来てくれているのに、「コレじゃだめだ」なんて突っぱねて、結局何も生めていない。
だから手始めに、わたしはわたしのくだらない日常を今夜書いたのでした。
少しでも楽しくなっていただけていたらいいな。
ではでは。




