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あなたは美しいが冷淡だ  作者: モモンガもどき
8/18

彼が知りたいと望む所以

次の日の昼休み。

俺は珍しく雹のことを探していた。

基本俺らは放課後、2時間弱の時間を共有するだけの仲だ。

所詮は『恋人ごっこ』。

周りにそうなんだなと認識させるためだけに一緒の時間を作っている。

それが晴れてる時は裏庭、雨の日と彼女の気分によって図書室へと変わるだけ。

だから、俺が彼女に自分から会いにいくというのはこれが初めてのことだった。


「なぁ、雹見なかったか?」


そう声をかけるものの、困ったことに誰1人彼女の居場所を知る奴はいなかった。

この間たまたま出くわした屋上へ行っても見たが、そこにはガランとした空間が広がってるだけだった。

…珍しく晴れたな。

そう思ったのはいつもより空が近いせいか。

それとも単に何もない空間にその青が綺麗に生えていたせいか。

もしかしたら…

たまたまその場所が思いついたのは偶然か。

なんとも不思議な気分になりながらも、俺は残り少ない昼休みを無駄にしないため、思い立った場所へと足を早めた。








「…なんでよりによって。」


「そう言う時雨先輩こそ。よく見つけましたね。」


予想はなぜか的中。

そう言うと雹はかなり高さのある木の枝の上からくすくすと笑いかけた。

雹が今座っているのは、グランドの端にある大きな桜の木の枝の上。

一見したところで、葉に隠れて彼女がそんなとこにいるなんてわからなかっただろう。

いや、実際…俺もなぜここだと思ったのかよくわからない。

ただ空を見てたら漠然と木の上にいそうと思ったのだから…


「珍しいですね?先輩から私を探すなんて。」


「それより…スカートで木の上に登るのってどうなのよ?」


「そんなにスカートの中が気になります?」


「違う!」


何がそんなに面白いのか、雹は俺をからかってはくすくす笑う。

でも、その目だけは何かを悟っているようにじっと俺を見据えていた。


「…話があるんだけどさ。」


「別れ話ですか?」


「ちげぇーよ!…ちょっと聞きたいことがあっただけだ。」


そうおずおずと切り出す俺に、彼女は軽く首を傾げて先を促す。


「…雹は、六花とどういう関係なんだ?」


「昔の同級生といったところですかね?」


「…その…知ってたのか?俺が六花と付き合ってたこと。」


「知ってました。」


淡々と答える彼女に対して、俺はだんだんと居心地の悪い緊張が膨れ上がってくる。


「じゃあ…その秘密っていうのは…六花から聞いたのか?」


一瞬の静寂が俺と雹の間を吹き抜ける。


「…六花はあなたの秘密を知りませんよ。」


一瞬の間のあと、雹は至極あっさりとそう言い放つ。


「時雨先輩…本当に言いたいことはなんですか?」


ニコリと笑う笑顔とは裏腹に、鋭い視線が俺を逃さないというように射抜いている。


「なぁ…雹は…お前は俺のことをどこまで知ってるんだ?」


ざわざわと木々が煩いくらいに揺れている。


「全部…とでも言っておきましょうか。」


その鋭く光る瞳は細められ、とても楽しそうに口の端は弧を描く。


「…颯に言われて、ようやく疑問に思ったことがある。」


「…」


「なんで、俺はお前と付き合おうと思ったのか…」


「私に脅されたから。」


「かもしれないな…」


「どうせ『彼氏役』だから。」


「それもあったのかもな…」


でも、そうじゃない。

そういうことが俺は言いたいんじゃないんだ。


「だってお前は気がついてたはずだ。もし本当に全部知ってるなら、あの脅しは意味がなかったって…」


そうだろう?

だってオレは…


「…じゃあ、逆に。なんでそこで私の言うことを聞いたんですか?」


余裕の笑顔を浮かべ、そう聞いてくる彼女にはその答えはもうとっくにわかっているのだろうに…

なにもかもわかった上で聞いてくるその態度が、なんだかちょっと腹立たしい。

だから、せめてもの反抗に、こちらも悪どい笑みを浮かべ答えてみる。


「興味があったから。俺の『秘密』を知っているっていう人間に。」


そう…事実を突き詰めれば本当にこれだけなのだ。

面白いと思ったのだ。

俺を脅してまで何かと俺に関わろうとする彼女を。

知りたいと思ったのだ。

俺の秘密を知る彼女が何者なのかを。

そして…

暴きたいと思ったのだ。

彼女の知っている、俺すらも知らないその『秘密』とやらを…


「なぁ、俺は昔。お前に会ったことがあるんだろ?」


疑問系ではあるが、聞いているわけじゃない。

だってこれはただの確認なのだから…


「…そうですね。」


「じゃあ、お前は何者なんだ?」


「…それを知ってどうするんです?」


余裕だった笑みは少し質の違う隙のない、不敵な笑みへと変わり、変わらず俺へと突き刺さる。

もう、お遊びは充分だ。

俺はそう、知らなきゃいけない。


「知りたいからさ。何もかも。俺の知らない秘密や、お前が誰なのか。そして、六花のことも。だって俺は…10歳より前の記憶がないんだから。」


その言葉の直後、再び景色はざわめき出す。


「だから、教えてくれないか。そのお前の知ってる『秘密』とやらを。」


口に出したからには戻れない。逃げれない。

そんな俺の決意をよそに、彼女は至極楽しそうに綻ぶような笑みを咲かせた。


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