俺がその日ツイていなかった所以
さぁ、来ましたねぇ。
これでようやくこの話のメインが揃います!
『嵐は突然にやってくる。』
よく聞く言葉だが、これは「天災は忘れた頃にやってくる」ということわざからきているのだろうと俺は思っている。
まぁ、意味はまさにその通り。
忘れた頃、油断したときにそういったものは起こるということだ。
そう、つまり…
俺は油断していたのだ。
とある放課後。
5月の下旬となり、じめっとした空気を感じるようになってきたこの頃。
とうとうその日、雨が降り出した。
重要なことなのでもう1度言おう。
雨だ。
ただでさえ雨だというのに、その日の俺は厄日なのではないかというくらいツイていなかった。
この際宿題、弁当を忘れたなどの小さな問題は割愛しよう。
なにが1番ついてなかったって?それは…
こんな日に限ってあのバカ会長が生徒会の仕事を頼んできたのだ。
名前だけ貸しているとはいえ、一応役員。人手がないときはそりゃあ、助けるくらいはする。
でも、よりにもよってなぜ今日だ?
もし前日くらいに頼まれたなら、納得してもらえたかもしれないのに…
俺は仕事をなんとか終えると、猛ダッシュで図書室へと向かった。
「失礼しまーす。」
なぜ挨拶しなくてもいいのにそんなことを言って入ったかは…
まぁ、察して欲しい。気持ちの問題だ。
そう、俺は今からご機嫌がMAXで斜めな、ワガママ大魔王さまとお話ししないといけないからだ。
静かに滑り込んだ図書室にはわずかな照明がついているだけで、ほとんど人はいなかった。
そうだろう。もう時間は6時半を回っているのだから。
そのまま視線をずらしていけば、目的の人物はすぐに見つかる。
部屋の隅、窓のすぐ脇にあるテーブル。
そこが鷹司雹のいつもの場所だ。
まだ少し救いがあるとすれば、今日は男子生徒の格好の日であることか。
彼はいつものように本を山積みにして、真剣に目の前の文字へと視線を走らせている。
…真剣にってよりは睨んでる?
というか…なんとなく背負っているオーラが黒い。
「…雹?ごめん、待たせたよな?」
恐る恐る、でも、相手の気に障らないように俺は声をかける。
…が、しかし彼からの反応はない。
「……」
なにも声をかけられず沈黙が続いていく。
どうしよう…どうするべきだ!?
今日は雹が最も嫌う雨だ。しかも予定外の俺の仕事で彼は待たされたわけである。
機嫌は聞かなくてもわかるだろう。
予想通りの真っ逆さまだ。
ただでさえ事務仕事で疲れて頭が周りづらいのに…
などと言ってる場合じゃないのだ!
この魔王の機嫌を損ねれば、どんな恐ろしいことが待っているか…
想像すらしたくない。
…考えろ。考えるんだ。
そう思いながらもじーっと彼を密かに観察する。
ついでにここ最近の会話をフル回転で思い出す。
あっ…
それはたまたまの奇跡か。それとも俺の執念か。
俺はあるひとつの会話を思い出した。
そして、目の前の山積みの本を見て、とある確信を得る。
「雹、待たせたお詫びにプラネタリウムでも行かないか?」
その言葉に彼のページをめくる手が止まった。
「あの新しく近くに出来たとこ。その前か後に、いつものカフェでハーブティーも飲めるだろうし。」
前にポツリと言ったことがあったのだ。
「知ってますか?この間、近くにプラネタリウムができたそうですよ?」
と。
「星が好きなのか?」
と聞いたら、
「そうではないし興味を持ったことがない。」
と言ったから
「神話とか調べてみると面白いよ?」
と言って、いくつか話を聞かせてあげたのだ。雹は
「無駄にそんなこと知っているのに、なんで順位に反映されないんでしょうね?」
と言って意地悪く笑ったが、それ以来図書館で星関係の本を読むことが多くなった。
今、机に置いてある本の中には「宇宙工学入門③」、「星座の神話」…さらには宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」まである。
そしてもうひとつ、ハーブティーというのは今の彼女のマイブームだ。
よく放課後に近くにあるカフェに引っ張って行かれるときに、いっつも飲んでいるのがハーブティー。
5月の頭くらいにコーヒーから変わって以来、ずーと好き好んで飲んでいる。
そんなこんなでなんとかピンチを乗り切った俺はホッとしていたのだ。
これでもう今日は大丈夫だろう…と。
あとは雹の機嫌を損ねないようにしながら、うまく過ごして帰れば今日は終わると。
まぁ、すっかり安心しきって油断していたわけだ。
「時雨!!」
最初その姿を見たときは夢なんじゃないかと思った。
いや、違うな。思いたかったんだ。
しかし、そんな願いとは反対にその声の人物は俺に向かって走ってくる。
俺と同じ色素の薄い、長いツインテールが可愛らしく揺れている。
その甘く、鈴の鳴るような高い声は間違えるはずもない。
「…ろっ…か……」
情けないほど掠れた声が俺の口からこぼれ落ちる。
「時雨!!会いたかったー!!」
そう言うと彼女は傘を放り投げ、俺の胸へと飛び込んだ。
反射的に出した手が彼女を抱きとめると、その勢いのまま俺たちは地面に座り込んでしまう。
目の前にいるのは夢ではなく、本当に本物の彼女で…
どうしよう…
俺は一瞬にしてなにも考えられなくなる。
「六花…なんでここに……」
なんとか紡いだ言葉に彼女はニコリと笑う。
「会いたかったから会いに来ちゃった!ほんと2ヶ月ぶりだよね!」
その姿は俺の知っている無邪気な、なにも変わらない六花で…
泣きたくなるほどに胸が痛かった。
六花は俺の上からすっとどくと、今度はずっとなにも言わず隣に立っていた人物へと歩みを進める。
そこでようやく鷹司雹の存在を思い出す。
「雹!久しぶり!元気してた?」
彼女はそう言うと同じように彼にも抱きついた。
あまりに怒涛の展開で俺の頭は全くと言っていいほどついていけない。
…知り合いなのか?
そんな疑問すら口に出せないほど、俺は今混乱している。
「全く。雨の中なにしてるんですか?」
「えー、雹冷たいよぉ〜」
冷たい言葉を物ともせず、無邪気に彼女は笑っている。
「で?本当の要件はなんですか?貴方がそんな会いたいなんて理由だけで、雨の中待ってるわけがないでしょう?」
そう言いながら、雹は俺の腕を強引に掴むとそのまま一気に立ちあがらせる。
その腕を掴む力から、彼がとても苛立っているのだ感じ取れる。
「やっぱりわかっちゃうかぁ〜」
そう言うと、六花はペロリと舌を出す。
まるで悪戯に失敗した子供のように…
そして、彼女はいつもの笑顔でこう言った。
「私、京都からこっちに引っ越すことになったの!だから、時雨、雹…またよろしくね?」
そう、彼女はいつも無邪気に笑うのだ。
なんの悪気もなく、俺の心を揺さぶって…
ちょっと一応の確認です。
…この小説、変人がいっぱいなんです。(遠い目
そのことを忘れないで構えて読んで下さいね?(苦笑