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あなたは美しいが冷淡だ  作者: モモンガもどき
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俺がその名に揺れる所以

放課後。俺、九条時雨は重々しく腰をあげた。

正直、今アイツに会いたくない。


「じゃあ、また放課後に。」


スカートをひらりと翻しながらそう言った、甘く絡みつく声が頭から離れない。


最近の俺は振り回されてばかりだ。

ゆるりゆるりと面倒なことはうまく避けながら、それなりにやってきたつもりだ。

そこにやってきたイレギュラー。

いや、すべての元凶は颯か。

アイツが俺に名前だけでいいから生徒会に入れなんて言ったから…

それを生返事で返してしまったから…

入学式の日彼女に接触してしまったから…

考えたところであとの祭り。

平穏は失われ、俺はやかましい喧騒の中へと放り込まれてしまった。

それは諦めよう。逃れようのない事実だ。

だけど…


「なぁなぁ、また鷹司ちゃんのとこ行くの?てか、いい加減馴れ初めのひとつくらい教えろよ〜。てか、どこまでいったのぉ〜。」


全ての元凶、颯は休み時間のたびに俺に絡んできている。

めんどくさい…というか、いい加減諦めてほしい。

鷹司雹と俺が付き合っているという話をきいて、颯はあっさりと応援する側へと回った。

なんでだ?お前アイツのこと好きだっただろ?というか、ショックで倒れた奴は誰だよ?

まぁ、実際は応援するという名目で俺から鷹司雹のことを聞き出そうとする。

馴れ初め?そんなものある訳ないだろ?

俺とアイツは本当に付き合ってるわけじゃない。


「ねぇ、本当にデートとかキスとかもしたことねぇーの?」


その言葉に俺の体はビシリッと固まった。

あっ、やべぇ…

颯はそんな俺の反応を目敏く見逃さなかった。


「時雨く〜ん?」


これは確実に…言わないと解放されないだろう。


「キスまでなら…」


「マジか!?」


飛びつく勢いで颯が食ってかかる。


「え、いつ?どこで?」


「…プライバシー。てか、話したからもういいだろ?この後約束あんだけど。」


「え、あぁ、悪い。」


颯はそう言うとあっさりと引き下がる。


「…お前さ、仮にもアイツのこと気に入ってたんだろ?よくそんな俺の話聞きたがるなぁ。」


そう言ってやると颯はキョトンとした顔をしてから、ニカリと笑い返した。


「なんか相手が時雨って聞いたら納得したんだわ。普通によかったって思えた。…お前、六花ちゃんと別れてから元気なかったじゃん?ようやく時雨も立ち直ったかって安心したんだよ。」


「えっ…」


意外な人物の名前に俺は目に見えて狼狽えた。

心臓をギュッと鷲掴みにされたかのように、体が熱を持ち苦しくなる。


「まぁ、お前にばっかめっちゃかわいい彼女ができるのはムカつくけど!ほら、鷹司ちゃん待ってるんでしょ!行けよ!」


そう言って、颯は固まる俺を教室の外へと追い出す。

俺は何も反応できないまま、騒がしい廊下へと身を投じた。

周りのどんな雑音も、意味もなく俺の耳にはゆっくりと聞こえてくる。


そうだ。裏庭に行かないと。

しばらくしてから、ただ呆然とそう思った。








「…なんか魂抜けてますよ?そんなにキスがショックでしたか?」


「………えっ?」


ぼんやりとした思考の中、その一言で一瞬に現実に戻った。

目の前にはそっけないようで、俺を気にかけている鷹司雹の姿。

ぼーとしてた?てか、キスってなんの…

そこであれほどまでに会いづらいと思っていた彼女が目の前にいるという状況に、今更ながら気がつく。

顔が一気にカッと熱くなった。

鷹司雹はそんな俺の様子を見て、1度驚いた顔をすると、一気に噴き出すように笑い出した。

珍しいことにお腹を抱えながら、声を上げて笑っている。


「…なんだよ!」


「…はぁー。いえ…ふふふ。あんまりにもリアクションがおかしかったんで。」


「…」


「なにを考えてたか知りませんけど…今更思い出して真っ赤になるなんて、かわいいですね。」


「あれは!あのとき、お前が…」


そこでまたあのときの感覚を思い出してしまって顔がガッと熱をもつ。

突然襲った柔らかな熱。

見せつけるようにゆっくりと、味わうように離された唇。

そして…

触れているとき、隙をついてぬるりと侵入してきた艶かしい感触。


「なんですか?まさかあれがファーストキスとか言いませんよね?」


「…まぁ。」


「…ならベロチューくらいで狼狽えないでくださいよ。」


「まさかそっちは初めてですか?」


「…」


俺の沈黙を肯定と取ったのか、彼女はニヤリと笑った。

すると一気に距離を詰め、またあの甘い声で囁いた。


「ファーストディープはいただきました。」


そう言うと見せつけるように、可愛く舌をペロリと見せる。

そんな仕草にすらドキリとしてしまう自分がなんとももどかしい。

俺の反応を見て満足気に笑うと、彼女はすっと身を引いた。

そして、何もかもわかっているかのように口を開く。


「いいじゃないですか。ファーストキスは大切な幼馴染とできたんだから。」


俺は大きく目を見開く。


頭の隅で誰かが笑った気がした。

雨上がり。紫陽花に囲まれた日本庭園。

白いワンピースを着た、幼い少女が…







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