彼女を腹黒いと思う所以
なんか…最初の思っていた方向からどんどん変人色が強くなってるような…
果たして、ちゃんと恋愛ものになってくれるのか!?笑
『俺と鷹司雹が仲が良いらしい』という噂ははあっという間に広がった。
というのも、相手が鷹司雹だということもあるし、彼女があまり人と馴れ合わないというのも理由のひとつだろう。
「時雨!」
廊下を歩いていると、向こうから見慣れた男子生徒が駆け寄ってきた。その見た目はまぁ、いわゆるイケメンと言える部類だろう。
「生徒会長が廊下走っていいのか?」
「いいんだよ!今は緊急事態だ!」
そいつはそう言うと、俺の肩にどかっと腕を回す。
…正直面倒な予感しかしない。
「なぁ、お前どうやってあの鷹司雹と仲良くなったんだよ?」
「…颯、そんなことを聞きに来たのか?」
予想通り、全くもってめんどくさい。
「そんなことってなんだよ!かなり重要だぞ!」
そう言うと奴は俺に向かってニヤリと笑いかけた。
この男、神宮寺颯はこの学校の生徒会長であり、俺に付きまとっては面倒に巻き込んでいくとんでもない奴だ。
そのルックスの良さと少し軟派だが、誰とも仲良くできる性格。そしてよくわかんないカリスマ性で学校中から指示を集めている。
そして、無類の女好きだ。
「別に、たまたま知り合って、たまたま話する程度の中だよ。」
「いや!それがおかしいだろ!俺なんて、いくら話しかけたところで『そうなんですか。』って微笑まれて終わりだぞ!」
俺のウンザリとした発言も、全くもって聞く気配すらない。
「いいか!あの鷹司雹だぞ!確かにたまに男装してて、性別もどっちかよくわかんねぇけど、あの美人だぞ?深窓の方だぞ!?仲良くなりたくないだと?いや、それはない!」
まぁ、女が絡むととても残念な発言をするのはいつものことだから、俺は颯の言葉を適当に聞き流す。
てか、なんで語るのに反語使ってんだ?
「なぁ、頼む!その人脈を使ってどうか俺と鷹司雹との橋渡しになってくれないか?」
散々語った会長さまは俺から離れたと思いきや、手を合わせて頭を下げ始めた。
どうやらガチの頼みならしい。
「…めんどくさい。」
「そこをなんとか!確かにあのおしとやかな微笑も嫌いじゃないけど、俺は彼女の花咲く笑顔が見たい!そのためにも頼むよ、副会長さまぁ〜」
俺はそんな颯から視線を逸らすと、窓の外へと目を向ける。
めんどくさい…
ちなみにこいつが持ってきた今まで史上最高に面倒くさい案件は、この学校の副会長の任である。
「…なにバカなこと言ってるんですか?私にその人と仲良くするメリットなんてひとつもないじゃないですか。」
ですよねー…
放課後。いつもの裏庭に現れた鷹司雹に颯のことを試しに話せば、予想通り辛辣な言葉が返ってきた。
今日は女の子の格好をしているから、口調も女言葉だ。
その場合、なぜか機嫌が悪くなりやすく、S度が1.4倍ほど上がる。
「第一、なんでそこで彼女だと言わなかったんです?そういう輩を片すための噂でもあるのに。」
そういうと彼女はベンチの上で颯爽と足を組んだ。
スカートから覗く太ももが眩しくて、これが野郎の脚の可能性もあるのかと思うとちょっと幻滅する。
「いや、なんかそれ言ったらうるさそうだったし…」
「うるさくても、周りに知れ渡んないと意味がないんです!…まったく。使えない。」
今日はご機嫌斜めならしく、口の悪さも倍増しているらしい。
ほとんどの人間は鷹司雹は毎日格好が男女違うということ以外、いたって優秀な良くできた生徒と認識している。
人に立ち入らせはしないものの、話しかけられれば微笑を浮かべ、親切風に話を聞く彼女はそう見られるのは当然なのだろう。
だが、実際は…
めっちゃ気分屋でワガママな、変人お姫さまだ。
「生徒会長ってあのとても軽薄そうな顔だけの人ですよね?あの人ったら私のこと勝手に女だと信じ込んで、さらには性格まで勝手に妄想しちゃって…ほんと笑えるくらい愚かだわ。」
そう言って誰もが想像しないくらいゲスく笑う彼女を遠い目で見つめてみる。
いや…姫じゃなくて女王さまか。
そんなくだらない思考に入っている俺は末期なのだろう。
「とにかく!その変な男に私を近づけないで下さいね!さもなくば…」
そういうと彼女はものすっっごい妖艶な笑顔を作る。
それこそ、次の言葉の意味を理解してなければ惚れてしまいそうなくらいに。
「私もいろいろやらなきゃいけなくなるんで。」
「なぁー、しぐれぇーー」
「無理ったら無理。」
「なんでぇーー」
昼休み。またしても俺は颯にしがみつかれている。
「会長〜、諦めなよぉ〜」
周りのクラスメイトもここ3日毎日来ても、俺が手伝ってあげないことに無理だと察してきているらしい。
「だってさぁーー」
「普通に考えて、行き帰り一緒にいる男女ってそういう仲だろ?」
「なぁにぃ!?俺はそんなこと聞いてないぞ、時雨!!」
いや、言ってないし。
しかも、それは向こうから命令されてることだからやってることで…
「なんでそんな大事なことを言わないんだよぉ〜俺たち親友だろぉ〜」
「いや、こんな厄介ごとしか押し付けない親友いねぇーだろ。」
ガクガクを肩を揺すってくる残念な会長さんに至極真っ当な意見を述べる。
「そんなことよりさぁー、「グホォ!」実際ガチで付き合ってんの?」
「なぁ、どうなの?」
クラスの男子が颯を引き剥がすと同時に、俺に食いつくように質問してくる。
これだから…コイツに関わるとロクなことがない。
と、そこに…
「すみません。」
聞き覚えのある、涼しげですっと馴染む声が聞こえてきた。
嫌な汗が背中を伝う。
まさか…
「鷹司雹!」
その声から一瞬にして教室の入り口に立つ鷹司雹を見つけると、奴はそこまですっ飛んでいく。
「どうしたの?鷹司ちゃん?珍しいねぇ〜2年の教室くるなんて!」
突然の噂の人の登場に、教室がざわざわと賑わい出す。
「ちょっと、時雨先輩に用事が…」
そう言った鷹司雹はひょっこりとドアから教室を覗きこむと、俺に向かってヒラヒラと手を振る。
今日は男の格好の日らしい。
「どうしたの?」
居心地の悪いから鷹司雹をさっさと帰したかった。
俺は席を立つと、彼のところまで歩いていく。
「これ、この間お忘れになったもの返そうと思って。」
そこには俺がどこかで失くしたはずのタイピンが…
「えっ…あ、ありがとう。(いつ盗ったんだよ?)」
「いえ、ないと困ると思ったので。(さぁ、なんのことでしょう。)」
上部のやりとりとは裏腹に、目だけでお互いに探り合う。
そんな俺たちの横で、颯はわなわなと震えている。
「ねぇ…時雨と鷹司ちゃんってどういう関係?てか、なんで時雨のタイピン…」
あからさまに固い声が奴から漏れる。
おい、バカ!そんなこと聞いたらコイツの思う壺だ!
そう思ったところで、とうに手遅れだった。
「えぇ、どんな関係って…」
そういうと、今まで1度も他の生徒の前では崩れたことのない微笑が、一気に頬が染まった恥じらいの顔へと変化する。
さらに追い討ちをかけるように…俺の服の袖を掴むと、頼るように俺を上目遣いで見つめてきたのだ。
…やられた。
誰も見たことのない可愛らしい表情をし、男に甘えてくる女。
周りから見れば明らかにそういう関係だ。
しかも、コイツは肝心なことを俺に言えとせがんでいるのだ。
おいおい…せめて女子の格好してる時にしてくれよ。
そんな虚しい呟きを胸に落としながら、俺は小さくため息を吐く。
「…まぁ、つまり。お前らの想像通りの関係だ。」
そう言った直後、パニックを起こしたように騒ぎ出したクラス。
現実逃避するように鷹司雹に目を向ければ、一瞬悪い笑みでニヤリと笑った。
別に…それらしいことを言っただけで、勘違いしたクラスメイトたちが悪い。
ただそれだけだ。