彼がそっと微笑む所以
新生活の準備の都合投稿ペースが落ちるかもしれません。
というより、現に落ちてます>_<すみません。
あと少しで1章終わる予定ですが…最後詰め込みきれるのか。
今から少し不安ですね。最後の爆弾が誤爆しないことを祈ります。
「なぁ、テスト結果出たぞ。」
「そうみたいですね。」
「いや、そういう返しを期待してないから!…合格か?」
そう問いかければ、彼女は窓の外から俺の方へと視線を流した。
いわゆる流し目ってやつ。
去年まで中坊だとは思えないほどの色気をまとった仕草も、今の俺には関係ない。
…いや、嘘。
ちょっと動揺しました。
ほんのちょっとだけど。
「…微妙ですね。」
「はぁ!?10番以内のなにが微妙なんだよ!!」
雹はしばらく俺を視線に捉えたあと、つまらなそうにそう呟いた。
それと同時に視線はもう俺から外れ、窓のどこかへと向けられている。
ちなみに弁解のために言っておくと、普段の俺の成績は10〜30以内をうろうろしてる感じ。
人生初めての最高得点に対するその仕打ちはあんまりだと思う。
「…1位じゃないじゃないですか。」
「いや、俺の成績からいけば全然いい方だから!お前基準で考えるなよ!」
そこまで言ってヒートアップしてしまった自分に少し恥ずかしくなった。
落ち着け、俺。
コイツはまだ不合格とは言っていなかった。
天邪鬼な雹の物言いはわかりづらいが、この場合少しは教えてくれるんじゃないだろうか?
そんな俺の思考を知ってか知らずか、彼女が俺の方へと向き直る。
窓から入ってきた風が彼女の髪をいたずらに揺らしていく。
「水族館。」
「…はぁ?」
おい、それがなんなんだ?
「連れてってくれたら、教えてあげましょう。」
そう言った雹はニヒルな笑みを浮かべた。
今度はなにをたくらんでいる?
そう疑ってしまうくらい、この笑顔にはいい思い出がない気がする。
「…それはつまりどういうことだ?」
「私とデートしてください。」
そう言って微笑む雹。
もしこれが本当の彼女…いや、ただの可愛らしい女の子なら俺は普通に喜んだだろう。
だが、考えろ。相手はあの雹だぞ!
「別に知りたくないならいいんですよ。そのまま一生悩み死んでください。」
「おい、言い方がなんか物騒だぞ。」
「別に、ただ真実を述べただけですが。」
そう言うと雹は俺の方へとずいと顔を近づけてくる。
「どうしますか?行きますか?行きませんか?」
「…教えるって全部か?」
「そうですね。ほぼ全部。とりあえず、あなたが何者なのかは確実にわかると思いますよ?」
そう言って雹は挑発的に微笑んでくる。
本当に…コイツはこういった駆け引きが上手いと思う。
というより、絶対にそれ以外の答えを選ばせてくれない。
「…わかった。行く。」
そう言うと、雹はすっと俺から距離を開ける。
そして、くるりと俺に背を向けながら口を開く。
「さすが時雨先輩。そう言ってくれると思ってましたよ。」
そう言って彼女はちらりと俺のほうに振り向き微笑んだ。
「今日はもういいです。約束は今週の土曜日。よろしくお願いしますね。」
そう言って軽やかに立ち去る彼女を見つめ、俺は呆然としていた。
おいおい。それは反則だろ…
一瞬見えた花咲くように可憐な笑顔…
今まで見たどんな顔よりも綺麗で、魅力的な表情は窓からの光でキラキラと輝いていて…
「…ダメだ。考えるのはよそう。」
俺はそう呟くとくるりと、自分の教室へと足を動かす。
俺は気がついていないのだ。
最近、放課後以外にも自分から雹の元を訪れていることも。
ふと視線に入る彼女を目で追いかけていることも。
そして…今、俯いて歩いている口元には嬉しそうな笑みが浮かんでいたことにも…
全てはただの気まぐれであり、ただの偶然なのだから。
すべての物に始まりがあれば終わりがある。
果たして、これは始まりなのか、終わりなのか。
そんならしくないことを考えてしまったのもまた偶然のひとつ。
「時雨〜!どこ行ってたの?」
「ちょっと野暮用。」
「なんだよ!冷た〜い!!」
そう言ってベタベタまとわりついてくる颯を引っぺがして、俺は教室へと入る。
窓側の自分の席へと向かう途中、俺の視界にあるものがチラリと映った。
「ん?中田。お前が持ってるそのCDって…」
「あぁ、これ?この間出た新作だけど…時雨好きなの?」
「…うん、今度貸してくんね?」
「おっ、珍しいな。いいぞー!」
「さんきゅ。」
たまたまCDが目について、たまたま借りたいと思っただけ。
そう、これもたまたまだ。
梅雨入りを告げたにしては、珍しく続く晴れに思わず微笑んだのもたまたま。
こっちを見てニヤニヤと笑う颯を見て、居心地が悪くなったのもたまたま。
そう、ちょっとした偶然が世界を少しずつ変えていく…
そして、そんな偶然がなぜ起きているのか、俺は知らない。
それに気がつくのはもっと先でいい。
俺の中でなにかが変わりつつあることに、気がつくのは今でなくてもいい。
この時はそう思っていた。




