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あなたは美しいが冷淡だ  作者: モモンガもどき
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彼女と出会いたる所以

違う連載の方を終わらせてからと思ったけど…

なんかどんどん文章ができちゃったからとうこうします!笑

本格的連載はsolanum lyratum が完結してからになります!




話をしましょうか。


とっても大切な…愛おしいあの人の話を。













5月。

桜も散り、木々に黄緑がかった若葉が覆うこの季節が俺はわりかし好きだった。

暑すぎず、寒すぎず…晴れが多いことがとても好ましい。

と言っても、俺にとっては気候はどうでもいい。

ただ言えるのは、過ごしやすい気候だとオレの『彼女』さまのご機嫌が悪くないのだ。


「雹。」


図書室の片隅で本の山に埋もれている彼女へと声をかける。

俺の声に、無言のままこちらに目を向けるのはまさに大和撫子を体現したような黒髪の少女。

その美しい顔に人間らしい感情が乗るところを知るものはいないであろう。


「一緒に帰らないか?」


そう続けて雹に話しかける俺を、周囲の人間は驚きと恐れの眼差しで見つめる。

返事などする訳がない。

誰もがそう思っているのだろう。

だが、彼女は俺のことをじっくり3秒ほど見つめ、そのあと目の前の本の残りを数えると、手元の本に目を戻しながら呟いた。


「あと30分待って。」


そのすぅーと馴染むような抑揚のない声は、図書室の静寂の中で違和感なく消えていった。









鷹司雹は入学して一ヶ月しか経っていないにも関わらず、その美貌と様々な噂でとても有名だった。

わずかな微笑みを浮かべるものの、他者と決して馴れ合うことをしない…

「氷の女神」と言われる所以はまさにそれだろう。

他にも彼女には変な異名や噂は山ほどあるが…おいおい話すとしよう。

そしてそんな彼女こそ、俺の「彼女」だったりもする。


「本4冊も借りて重くないか?」


「…私がこれくらいの重さで根をあげるとでも?」


で、ここからが学校の誰も知らない秘密情報。


「そんなこと言ってないだろ?」


「人のことより自分のテストの点数を心配したらどうです?九条時雨くん?」


「うっ…」


口が恐ろしいほど悪い。

それこそ、学校での深窓の美女はどこいった?ってくらいに悪い。


「…一応、俺の方が先輩なんだけど。」


「そうですね。そして、それに比例した頭の中身があるなら何も文句は言わないでしょう。」


そして、彼女はこちらにニヒルな笑みを浮かべてくる。

その表情にはかすかな微笑みを浮かべる大人しい少女の面影はない。


「私の「彼氏」役なんだから、そこのところは頑張ってくれないと。」


そう言うと「応援してますよ、先輩。」と思ってもないことを口にしながら俺の先へと歩き始めた。

IQ200の天才の「彼氏」役なんて、やるもんじゃない。









彼女と俺との出会いは入学式。

1か月前までさかのぼる。


「新入生代表、鷹司雹。」


その言葉と共に1人の少女が立ち上がる。

綺麗な子だなぁ…

ステージに向かって歩いてくる、その美しい少女に俺は目を奪われた。

その場にいるものすべてを凌駕させるような、圧倒的な存在感を持ちながらも、それをなんとも思っていないような涼しげな表情。


「おい、時雨。マイク。」


隣から聞こえる声で我に帰った俺は、慌ててマイクを調整するために彼女に続いて壇上にあがる。

マイクの高さを調節して、スイッチを入れようとしたその時、


「あれ?」


なぜかそのマイクのスイッチが入らなかった。

焦ったように、マイクを弄る俺を彼女はすっと手で制した。


「大丈夫です。」


たった一言。ただそれだけだったが、なぜかさっさと降りろと言われているようだった。

俺がそのままステージから降りるのを見送ると、彼女は自らの声で挨拶を始める。

透き通るようで、とても心地よく馴染む。大きくないのに、優しく響く。そんな声だった。

あの場でいた人で、いったい何人の人が彼女がマイクを使っていないことに気がついたのだろう。


挨拶が終わって、彼女は一礼するとたくさんの拍手の中、ステージから降りてくる。

そして、そのままその横の生徒会役員の席に来ると俺にさっきのマイクを渡した。


「ありがとうございます。」


俺の言葉にただ視線だけを向けると、彼女はそのまま席へと戻っていく。


「あれ?」


俺が手のひらに乗るマイクと共にその紙切れを見つけるのは、彼女を見送ってしばらく経った後のことだった。









「九条時雨。私はあなたの秘密を知っています。バラされたくなければ私の言うのとを聞きなさい。」


『放課後、裏庭の時計前。』

それだけが書かれた紙切れ。

呼び出されたその場所で、鷹司雹は無表情なままそう言い放った。

その黒い瞳には挑戦的な色が浮かんでいる。


「秘密って…俺にはそんな隠すことなんてないし、第一君と俺は今日初めて会ったはずじゃ…」


「7年前。」


その彼女の一言で俺はピタリと動きを止める。

動揺した。


「…何を知ってる?」


ひどく固い声が俺の口から聞こえてくる。


「すべてよ。あなたの秘密、すべて。」


彼女はそう言うと俺にニヤリと笑いかける。


「さぁ、選んでください。私の言うことを聞くか、すべてをバラされるか。」




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