出版社目録妄想篇
さて、毎年、本屋さんには、取次会社というところから、「出版社目録」というものが支給されます。
全国の出版社名と、その連絡先が載せられた本で、出版社に直接本の注文をする際に、いつもこの本を利用するのですね。
先日、この目録をパラパラとめくっていると、妙に気になる名前の出版社をいくつか見つけました。
社名というのは、会社の看板。とても大切なものでございます。
たとえば、週刊少年マガジンやなかよしを発行している「講談社」。その名前からは、講談という芸事が、娯楽の主流だった頃からの歴史の重みを感じます。
「かいけつゾロリ」シリーズの「ポプラ社」。その名前からは、児童書専門らしい、かわいらしさがある。
出版社の名前というものには、世間に対してどんな出版活動をしていくのか?そんな創業者の覚悟と願いがこめられているのです。
ぼくが見つけた、妙に気になる出版社の名前はこんなのでした。
「和尚ジャパン」
一瞬、ワールドカップのサッカーフィールドを駆け回る、11人の和尚を想像してしまいました。
いや、当然そんな会社ではないでしょう。たぶん仏教本専門の出版社です。しかし、「和尚」と「ジャパン」の組み合わせに、妙な味わいを感じてしまいました。
他にも、こんなものがありました。
「動くゲイとレズビアンの会」
出版社名です。思わず後ずさってしまうような迫力があります。同性愛に対する差別と戦う真面目な団体のようです。
これが「ゲイとレズビアンの会」では、それほどのインパクトはありません。やはり「動く」という単語が強い。
「動くぞ!」という強い意志が伝わってきます。
しかし、これだと少し近寄りがたい、怖いイメージもついてしまいそうです。もう少し変えることはできないかでしょうか。たとえば、こんなのはどうでしょうか?
「歩くゲイとレズビアンの会」
急に健康的になりました。しかし怖さは無い。これはよいのではないでしょうか。ただちょっと年寄り臭いかもしれませんが。
・・・何を書いているのだ?おれは。
閑話休題。
他には、こんなのがありました。
「暗黒通信団」
中二病かと思いました。
しつこいようですが、出版社名です。実在する出版社です。ちゃんとした年齢の、いい大人達が設立した、ひとつの株式会社の名前です。
なのに・・・すごく頭が悪そうな感じがするのは、ぼくだけでしょうか?
こんな会社名で、はたしてちゃんと働けるのでしょうか?
たとえば、この会社の営業のひとが、取引先の会社に挨拶に行くとき、相手の会社の受付で何と名乗るのでしょうか?
「暗黒通信団の田中です」
と言うのでしょうか?
はたして受付嬢はまともに対応してくれるのでしょうか。
「はあ?」
と言われるのではないでしょうか。
一体どんな本を扱っているのか?電話してみようかなと一瞬思ったが、やめておきました。逆探知とかされて、店のFAXやメールに、何か暗黒的なものを送信されるのは嫌だからです。
最後に一番ひどいと思ったのを紹介しましょう。
「あれこれ」
ふざけている。
この出版社の社員も、なんとも思わないのでしょうか。これも取引先に挨拶する時、どうするのでしょうか。
「あれこれの田中です」
と言うのでしょうか。それで先方は素直に理解してくれるのでしょうか。下手したら、会社名ではなく、漫才のコンビ名だと勘違いされるのではないでしょうか。
婚約者の両親に挨拶しに行く時とかもどうするのでしょうか。恋人の父親に、
「君は、どんな会社で働いているのかね?」
と聞かれたら、こう答えるのでしょうか。
「あれこれで働いています」
「・・・・・・?それは、いろんな会社を渡り歩いてきたということかね?」
「いえ、あれこれ一筋です」
「???では、いま働いている会社はなんて名前かね?」
「あれこれです」
「社名を聞いているんだよ」
「だからあれこれです」
「・・・・・・君は私の話を聞いているのかね?」
「だからあれこれですってば」
このあたりで、おそらくぶん殴られるんじゃないかと思います。