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ホワイト・ダスト

作者: シグレイン

受験勉強の合間に書かれた小説です。後日書き直します(2015/09/15一部直し)。今はとりあえず上げただけですが,まあオチは変わらないので読んでいただければ幸いです。

 生徒会長の仕事で一番辛いのは、「白いゴミ」の処理だ。


 いきなり話が飛ぶが、生徒会では今年度より生徒からの意見を受け付けるのに、投書を利用している。これは現会長の紫園覇流斗しおんはるとが「生徒の意見をすべて聞き入れる」というスローガンで選挙に臨んだ結果だった。


 話を戻そう。白いゴミの正体は、毎週末、副会長の朝倉リナが意見箱を逆さにする度に生まれる、なぜか女子からのものが多い、投書──ラブレターのことだ。自分で公約としたからには、覇流斗はすべての手紙を一字一句見逃すことなく目を通し、返信を返さなくてはならなかった。というのも、学園はとある経緯で校則が変更され、任期中でも人気がなければ生徒会役員がリコールされることがありうるからである。


 今日の放課後も、覇流斗は、生徒会室の片隅を白い塔が占領する中、その圧迫感と一人対峙し、意見書ラブレターの返信を書き続けなくてはいけなかった。何時間も書いていると、さすがに手が痛くなってきた。右手が疲れて感覚はなくなり、ペンダコもできていた。


 彼は助力を請うことを決意した。こんな時頼れる(こき使える)のは四条才亞あいつしかいない。紫園覇流斗はポケットからスマホを取り出すと、四条にメッセージを送った。


 生徒会室を出ると、その隣の新聞部の部室へと入る。そこには一人ノートパソコンと睨めっこする金髪の青年、四条才亞しじょうさいあがいた。向こうはこっちに気づいていないようだ。


「才亞、助けて~」


 後ろからそっと才亞に近づいた覇流斗は、金髪で隠れている才亞の耳に話しかけた。


「うぉー、びっくりした。いきなり何だよ」


 動揺を隠せない才亞に、覇流斗はニヤリと悪魔の微笑を見せつける。


「いやー、ほんのちょっっっっとお手伝いを頼みたいんだよなあ」

「ああ、聞こえない聞こえない。俺今超絶忙しいから」


 才亞は聞く耳を持たない。耳にヘッドホンをつけて、完全無視を決め込んだようだった。


 こういう時は一度挑発するに限る。


「何、怪しいサイト見るのに?」

「は? んなわけねーだろ。画面見ろよ」才亞はPCのディスプレイを指さした。

「というか聞こえてるなら、ヘッドホンの意味なくね」

「……今ので決めた、絶対やらねー」

「悪い悪い。俺が悪かった。すまん。この通りだ」


 覇流斗は土下座した。必要とあらば、彼はプライドを捨てる。


「そんなことしたって、俺は許さないぞ」


 ここで引き下がったら、土下座損だ。覇流斗には、足が痺れても姿勢を崩すつもりはない。


 だが、才亞は覇流斗を完全無視してPCと向き合って、タイピングしだした。タイピングが一般人より速いと自負する覇流斗が感心するほどの早打ちだった。


 こうなったら根性勝負。覇流斗はひたすら才亞に話しかけることにした。


「なあ才亞……」

「」


 カタカタという音が返事だった。


 それでも覇流斗はめげない。スマホを時折気にしながら、才亞に話しかけるのをやめない。


 そんなこんなで時計の長針がπラジアン進んだところで、


「よっしゃー、締め切り前に終わった。さっさと家帰って寝よう♪」


 才亞は椅子から勢いよく立ち上がった。キャスター付きの椅子が床を滑って、土下座したままの覇流斗に直撃する。


 しかし、今日は四条才亞の厄日だった。


 スマホからとあるアニソンが流れ始めた。


「早く出ないと」


 覇流斗は急かした。土下座で顔が見えないのが幸いだった。またしても悪魔が顔に出ていたから。


「もしもし。こんな時間になんだよ」

「」

「え? 買い物? 何で俺がしなきゃなんねーんだよ」

「」

「五分後にかけ直す」


 才亞はスマホをシャットダウンして机に置いた。


「誰からの電話だったんだい?」

「うるせぇ。覇流斗は黙ってろ。いいか、俺は今、彩子姉の頼みごとを断る口実を考えてて忙しいんだよ」

「へぇ、お姉さんからか」

「ああ。あの野郎、いきなり買い物頼んできやがって」

「で、才亞はやりたくないと」

「俺がスーパーのレジに並ぶとかあり得ないだろ?」

「じゃ、俺の手伝いする?」

「そっちの方があり得ねー」

「そんなこと言わずにさあ、俺と才亞の仲じゃ──」

「断固拒否するから、二度と話しかけてくんじゃねぇ。金輪際口聞いてやんねぇぞ」

「つれないなあ」

「男に優しくする必要なんてねぇだろう」

「……じゃあ、俺、女になろうかな。『あたし、紫苑覇流美。四条君話聞いてくれる?』みたいな」


 ホストになれそうなイケメンが女装すると、どれだけ気持ち悪いかことか。


「気持ち悪いから、やめろ」

「だったら、助けてくれよ~」

「拒否権を発動する!」

「安保理の常任理事国?」

「いや、基本的人権の一つに拒否権があるのを知らねーのか?」

「知らないなあ。……そういえば、口聞いてるね」

「……」

「無視しないでくれ。本当こういうの、尊と才亞にしか頼めないからさ」

「……だったら尊に頼めよ」

「今日、木曜日」

「ピアノのレッスン日か。チッ、こういう日に限って使えねぇな」

「だ、か、ら、こんなこと超絶天才イケメンの才亞様にしか頼めないんだって」

「気持ち悪。だいたい、俺は不良な不良であって、天才じゃないし」

「イケメンは否定しないんだ」

「やっぱ口聞かねぇ」

「すいませんでした。お願いですから、不良な不良の才亞様助けてください」

「いや、何度頼まれても助けねぇし。つーか、お前、生徒会長なんだから、権力行使して無理やり誰か巻き込めば良いだろうが」


 生徒会長の命令に従わなくてはいけない、という校則はないが、他の生徒からの評判を考えると、やはり拘束力を持つ。もちろん、生徒会長が職権濫用しないことが前提となっているが。


「あ、その手があったか! じゃあ、生徒会長権限で四条才亞に紫園覇流斗のヘルプを強制するっ!」

「あ、電話だ」


 もちろんスマホの電源は落ちたままだ。


 才亞はパソコンとスマホを鞄に突っ込むと、部室をあとにして走り出した。


「ちょっ、待ってくれって」


 覇流斗は足が痺れているので、なかなか立ち上がれない。


「ついてくんじゃねぇ。俺の方が走んの速いのはわかってんだろ」


 覇流斗が廊下に出たとき、廊下の向こうから、才亞の声がした。


-*-*-*-


「……撒いたか。く、あぶねぇぜ。校門までついてくるとは、あいつの足をナメてたな」

「何をナメてたのかしら」


 ぜーはーと肩で息する才亞に、聞き慣れた女の声。


「ゲッ、彩子姉! 何でここにいるんだよ!」

「いや、あたしこの学校の生徒だし。今から帰るところだったんだけど」

「それくらいわかる」

「じゃあ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」

「前門に虎、校門に狼ならぬ女豹かよ」

「は? なにそれ? あんたの中じゃあたしは女豹なの?」

「いちいちうるせぇな。俺は急いでるんだ、道を空けてくれ」

「頼みごと聞いてくれたらね」

「いや、ちょっと用事が」

「用事って何かしら? 言ってみなさいよ」

「あー、えーと、覇流斗の手伝いがあんだよ。だから今すぐ──」

「あら、本当にあったの。それじゃあ、しょうがないわね」

「なんで、そんなにニヤニヤしてんだ?」

「覇流斗君、手伝ってくれるそうよ」

「覇流斗?」


 なぜだか覇流斗は校門の外から歩いてきた。


「いやー、ありがとう。やっぱり才亞は優しいなあ」

「何、いつの間に! この野郎、二人して俺をハメやがったな!」

「いや別に、あんたが勝手に引っかかっただけじゃん」

「なんだとー」

「そんなこと言ってると、晩御飯抜きだから」


 育ち盛りには、一食抜くだけで地獄だ。


「……」

「じゃあ、才亞を貸すから、覇流斗君の好きなように使ってちょうだい」

「わかりましたー。彩子さん、協力ありがとうございました」

「別にあたしは何もしてないから、こんくらいお安いご用よ。じゃ、これからバイトだから、これで」

「いえいえ大助かりです。ぜひ、ケーキくらいおごらせて下さい」

「そう。頼みにしてるわ。じゃあ」

「さようなら……というわけで、さあ生徒会室へ行こうか」

「うわー、まじで死にてぇ気分」

「サボって晩飯なくなったら死ねるだろうな」

「……一晩くらい抜いても死にやしねぇが、お前を見殺しにして、俺も死にそうになんのは割にあわねぇし、やるよ。ああ、やりゃいいんだろ、やりゃ。さっさと終わらせて帰るからな」

「そうそう、その心構えさ」

「で、何やりゃいいんだ?」

「目安箱の中身をチェックする」

「目安箱? なんだそりゃ。江戸時代かよ」

「今は平成だし。で、目安箱は、生徒会が生徒の声を聞くために設置してるやつさ」

「ああ、あのやたらと、おまえ宛のファンレターがあるやつか」

「そうそう。これから俺の代わりに返事いっぱい書いてもらうから」

「おいおい、チェックじゃなかったのかよ」

「やっぱり俺一人じゃあ終わらなさそうだから」

「いや別に今日中に終わらせる必要ないだろ」

「それが、もう箱の中がいっぱいだから片づけてください、って副会長がうるさくってね、今日中にきれいにする、って言っちゃったんだよ」

「はー、おまえ、普段、仮面かぶってっからなあ、断るにも断れないと」

「そうそう。全校生徒に慕われる生徒会長を演じるのは大変さ。俺の苦労をみんなに知ってもらいたいぜ」

「だからって、俺に本性出してストレス発散すんじゃねぇ」

「いや、別にいいじゃん」

「で、ファンレターってどれくらいあんだ? 箱いっぱいって言ってたが、百通くらいか」

「それだけだったら、俺一人でも終わるさ」

「じゃあ二百通くらい?」

「少なく見積もって五百通」

「はあ、まじかよ」

「ちなみに全部違う内容の返信を書かないとだめだから。女子の情報網はすごいからすぐにバレる」

「……やっぱ晩飯犠牲にしてもいい気がしてきた」

「えー」

「いや、別に冗談だっつーの」

「そうか、なら、さっさと書こうぜ」

「お、おう。やる時はやらないとな。沽券に関わる」

「俺も選挙公約を違えることになるし」

「そんな公約してたか? いや、俺が忘れてるだけだな。あの頃、あっちの仕事で忙しかったから」

「まあ、裏で票操作するのにちょいとイロイロやったのさ」

「きたねぇ」

「腹黒い俺にはこういうのも全然ありなわけさ」

「あっそ」


 そうこう話してるうちに、生徒会室に到着。


「じゃあ、これからやり方を説明する……」


 Ⅹ分後……。


「何でお前そんなに字きれいなんだよ」

「いや、丁寧に書かないと失礼でしょ」

「そうじゃなくて、俺、お前みたいな達筆じゃねぇから、筆跡真似んの超つらいんだよ」

「ああ、ご苦労さん」

「このご時世、メールにしてくれりゃあいいのに」

「そうすると、メールボックスが満タンになってメールできなくなるから困るけど。今の目安箱だと、満タンになったら投書を自制してくれるから、これくらいで済むのさ」

「何でお前なんかに人気がでるかなぁ」

「仮面をかぶるのがうまいから」

「本性は腹黒いのにな」

「それを隠すのが、賢い生き方さ」

「あっそ」

「まあ、才亞も結構ファンいると思うけどね」

「は? 冗談言うんじゃねぇ」

「結構本気だったんだが。運動神経が良い人間はクラスのヒーロー的な存在じゃん?」

「俺アンチヒーロー主義だから」

「運動神経が良いのは認めるんだな」

「うるせぇ。お前なんて一発……」

「殴り合っても、才亞にメリットはないよ」

「確かに。お前を傷つけたりしたら、女子全員を敵に回すことになるからなあ」

「意外と、女子には優しいんだ」

「力の弱いものには手を出さない主義だ」

「そう言うところが、モテたり……」

「しねぇよ。やっぱり殴ろうか?」

「いや、遠慮しとく」

「で、なんて書きゃいいの?」

「つーか……あれ、何でそれしか進んでないんだ? 俺よりも遅いじゃん。口なんか開けずに、手を動かせよ」

「これが俺能力の限界だ」

「えーと、ここは……」


 覇流斗は才亞に指示を出す。何だかんだで仲がよい二人である。


 ところで、四条才亞が晩飯に間に合わなかったのは言うまでもないだろう。そう、彼は、時間と朝食を食ったのだった。

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