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続・怪談男  作者: 怪談男
4/8

釣り

 久しぶりの休日、港でハゼ釣りを楽しんでいた時の話だ。

 朝5時に始めてから30分足らずですでに4匹と、釣果はまずまずの出来だった。その日は気持ちのいい晴れ日で、風もなく波も穏やかで、絶好の釣り日和とさえ言えた。

 雲行きが怪しくなってきたのは、奇妙なモノを釣り上げてからだった。それは一枚の古いTシャツだった。

 最初はただの根掛かりだと思った。それで力ずくで引き上げてみると、緑色のTシャツが浮かび上がってきたのだ。

 まあ、ゴミを釣ってしまうこともそう珍しいことではない。俺はそのシャツを帰りにでも捨てようと脇に放り投げ、釣りを再開した。

 驚いたのは、その直後だった。今度は半ズボンを引き上げてしまったのだ。

 それでも何かと鈍い俺のこと、おぉ上下揃ったな、などと上機嫌になって釣りを続けるのだった。


 それから1時間以上釣果の上がらない時間が続いた。天候も雲が多くなり、心なしか波も荒れてきたような気がした。中々釣れない状況に飽きがきた俺は、何となく手近にあった一本の棒切れを掴むと、上手い具合にTシャツを広げて、半ズボンと重ね合わせてみた。 

 そこで初めて気付いたのだが、この二つの服、どちらも子供用のようだった。

 ちょっと不審に思いつつも、やはり釣りを辞めない鈍さがなんとも俺らしかった。後になって思えば、釣れなくなった時点で家に帰るか、他の場所へ移ればよかったのだ。

 事態が急変したのは5分後ぐらいだった。そして俺はその異常さに心底、心底恐怖するのだった。

 釣り上げたものは一見、海草の類だった。しかし、釣り針に引っ掛かっていたのは、海草などという甘優しいものではなかった。

 大量の髪の毛だった。

 俺は言葉を失い、その場に立ち尽くした。

 そして、毛の塊にこびり付いた真っ赤なヌメヌメした塊が地面に落っこちた時、俺は悲鳴を上げて釣り竿を陸に放り投げ、その場から一目散に逃げ出した。

 シャツとズボン、髪の毛が何を示すのか理解してしまったのだ。

 20メートルほど先で釣りをしていた子供とその父親を見つけるなり、俺はみっともなく助けを求めた。

 父親は最初こそ訝しんでいたが、俺の尋常じゃない様子にただならぬものを感じるとすぐに竿を置いてくれた。


 しかしながら、父親という協力者を得ながらも、俺はまたしても不可解な出来事に見舞われることになる。

 父親を伴って現場に戻ってみると、驚いたことに、無くなっていたのだ。あの不気味な髪の毛や肉片はおろか、子供服までもが消失していたのだ。

 正直意味が分からなかった。俺が見ていたものは幻だったのだろうか。

 半ば呆然としていながらも、ここまで一緒に来てもらった父親に頭を下げた。

「・・・私の勘違いだったようです。申し訳ありません。お子さんも待っているというのに」

 すると父親は驚いた顔をして言うのだった。

「子供? いえ、私は一人でしたよ」

 俺は今度こそ頭が混乱して、軽い眩暈を覚えるのだった。


 じゃあ、さっきからこちらに向かって手を振っている、あの緑色のTシャツを着た子供は一体何だというんだ。










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