表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・怪談男  作者: 怪談男
1/8

人面魚

 今からざっと20年ほど前、『人面魚ブーム』が起きたことをご存知だろうか。

 そもそも人面魚とは、人の顔面に似た特徴を持った魚のことである。魚と言っても、人面魚と呼ばれた魚の大半はコイであった。

 それから数年、人面魚ブームも下火になっていた頃、通っていた中学校付近の寺の池で人面魚が発見された。その大発見に町中が再び熱気を取り戻し、地元テレビ局も取材に来るほどの騒ぎになった。

 しかし、校内では別の理由で盛り上がっていた。

 発見された人面魚とそっくりな顔を持つ男子学生がいたのだ。

 その男子学生Tは元から明るく目立ちたがりな性格だったため、大人たちが危惧するようなイジメには発展することは終始なかった。むしろTは自身の顔をネタにして喜んでいる節さえあった。

 まあ、このTの話だけなら、ただの青春の楽しい1ページで終わりそうなものだが、事態が動いたのは人面魚の発見から半年後のことだった。

 ある日の早朝、人面魚が死んで浮いているのを、通りがかった寺の住職が見つけたそうだ。

 人面魚の死を俺が知ったのは、それから数時間後の朝のホームルームだった。中学生と言えば、生物の死すらネタにする年頃だ。皆がTをからかうのも自明の理というものだった。

「Tもやばいんじゃないの」「T、死ぬのかよ」。けれどそんな悪口を言いもするも、人の好いTの死を願う生徒は誰一人としていないことは分かっていた。

 だからTが自殺したとき、涙を流し悲痛そうに語る担任の表情を何度見ても俺たちは中々受け入れることができなかったのだ。人面魚の死からちょうど一週間後のことだった。

 あのコイと同じように、冷たい寺の池に浮かんでいたそうだ。その死に方といい、時期といい、彼の死の裏には人面魚の影があったことは間違いない。

 ここからはただの推察になるが、俺たちが人面魚をネタにしてからかっているうちに、Tは自分と人面魚を重ね合わせてしまっていたんじゃないだろうか。そのため人面魚が死んだ時も、どこにでもあるただの生物の死として割り切ることができず、自らの死として引きずってしまった・・・。

 ともあれ、遺書も発見されなかったため、死の真相は本人の知るところでしかない。しかし、もしも俺の推察が真実の一端でも捉えていたのなら、Tという一人の少年は、あの突如人々の前に現れた人面魚によって殺されたも同然だ。

 

 だって、元々あの寺の池には、魚なんていなかったのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ