ないん。
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「ふぅーっ!」
大きなため息と共にベッドへとダイブする椿。
俺ももうひとつのベッドに腰を下ろす。
「……お前さ、このペンションいつ来たんだよ」
同じタイミングでここに来たと思ったが、タイムラグとかあるんだろうか。
「んーと……つばさくんが来るちょっと前くらいかしら」
椿はうつ伏せの状態から寝返りをうって、天井に向かい声を響かせる。
「へぇ……じゃあ何か分かった事とかあるの?」
「えーっと……ここは北海道」
え? まさか。
「まさか……分かったのそれだけとか、ないよな? ないよな?」
「うっさいわねぇ、まだ受付の女の子としか喋ってないのよ。他の泊まり客は三組いるらしいけど、皆部屋でテレビ観たりして下に降りてこないらしいから」
「なるほどなぁ……」
それで一階で暇してたのか……。
「若槻先生いらっしゃいますか?」
と、ドアの向こうから女性の声が聞こえてきた。
俺は椿と顔を見合わせる。
誰だろう?
「あの……」
「――あ、あぁっ! はい! 今行きます!」
急いでドアに駆け寄る。
「若槻先生でいらっしゃいますよね?」
ドアを開けて第一声、二十代前半の茶髪の女性がそう言った。
「あ……はい。そうですが……」
そこまで有名なのか俺は。俺が言うのもなんだが、この若い層にウケる本なんてラノベとか、古沢さん脚本のリー●ル・ハイとか、色々と倍返ししちゃうやつとか、少しコメディ要素がある本なんかだろう。ということは、俺は結構売れっ子なのか?
「私若槻さんのファンなんです! サインお願いしたいんですが!」
そう言った彼女は両手に抱えていた本をサインペンと共に俺に差し出す。
本のタイトルには、「ひとりぼっち革命/著:若槻翼」とかかれている。若干興味をそそられるタイトルではあるが、どうせひとりびっちの奴が革命を起こすに決まってる。
「ええ……サインですね……わかりました」
俺は差し出された本を手にとって、渡されたサインペンでサインを適当に書く。もちろんサインなんて考えていないので、何のアレンジもないただの本名を書いただけだ。
「ありがとうございます! では! ごゆっくりどうぞ!」
「はあ……ありがとうございます」
彼女はそそくさと本とペンを回収すると、廊下を小走りで去っていった。
「あの人、なんでつばさくんが作家だってわかったのかしら?」
「高木さんに聞いたんじゃないか?」
俺はさっきのファンの女性が開けっ放しにしたドアを閉めながら言う。
「高木さん?」
椿は小首を傾げる。
こいつにはまだ高木さんを紹介してなかったか、多分あの人はこのゲームでは鍵となる存在だろう。大抵ゲームというのは最初に出会った人が物語の重要人物で、途中で死ぬなんてことはなく、優遇される存在なのだ。
「えと、高木さんってのは――――」
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「へぇ……じゃあ明日その高木さんと外に出るわけ?」
「いや、お前もさっき聞いただろ、明日は吹雪だって」
「あぁ!」
椿は納得したように手をポンッ、と叩く。
ふと椿の背後にかけられている時計に目をやると、もう夜8時、夕食の時間が迫っている。
「そろそろ下に降りるか?」
「なんで?」
「飯」
「あぁ!」
椿はもう一度、手を叩く。
どもども、おひさしぶりです。
いやー非常に書いていて楽しいですねこのシリーズは。
自分はこういうジャンルが向いているんでしょうか? 少なくともRPGは向いていないというのは自分でも分析できます。
ノベルゲームの脚本なんか手掛けたい気持ちですね。
さっさとストーリーを進めたい気持ちもあるのですが、描写の筆が進みずらいというのもあって、なかなか手がつけられません。
ではまた……。