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適当なノリで適当な冒険を  作者: 行方 行方
のヴぇるげーむ
6/9

SIX。


 ガタンゴトン。と、俺の体はリズム良く揺らされて目を覚ました。

 俺の周囲に目をやると、そこはがらりとして誰もいない電車の中だった。端の席に座っていた俺は、少し記憶を遡って椿に無理にゲームに飛ばされた事を思い出す。

 そう、椿。

 ……そうだ。あいつは? 椿はどこだよ。

 この車両にはいない。ということはもう一個隣の車両か……? また俺より先に目が覚めてそこら辺を探索してるとか?

 椿なら十分ありえる。

 俺は寝起きの体をぎこちなく動かして隣の車両へと移動した。

 が、人影がひとつも見当たらない。

『えー、まもなく平和駅ぃー、平和駅ぃー。お出口は左側です』

 孤独な車内にアナウンスが虚しく響く。

 窓の外を見ると、うっすら霧が立ち込め、おまけに窓が曇っていて外はよく見えない。多分朝方なんだろう。

 ……平和駅? 知らない場所だ。

 俺のファッションはチェックのシャツにクリーム色のトレンチコート、ジーンズとなかなか小洒落た格好をしていた。このゲームの主人公の服装なんだろう。

 それに、この電車は暖房が効いていて少し暑いほどだが、この服装ということは、この電車の扉が開いたら恐らく結構寒い地域に足を踏み入れることになるってことだろう。


 数分揺られた後、プシューという電車の停車音。

 少し間があり、アナウンス通りに左側の扉が一斉にに開く。と同時に一気に電車内の温度が下がり、冷たい風が俺の頬を刺激してきた。

「くっそ……案外さみいな……」

 俺はトレンチコートのポケットに手を突っ込んで下車。

 まず最初に目に入った駅名標には夕張と記されていた。

 ――メロン。

 いや"夕張"って言われてそれくらいしか連想できる物ないだろ。

 夕張――夕張市、夕張町、夕張村。特にピンと来る所は無い。

 まさに無人駅、と言った感じがする。自動改札機が目に入ったが、ランプが付いていない。こういう状況ってあるのか? 停電中? なう?

 改札に近寄って、近くに誰もいないのを改めて確認する。ゲームだし、改札なんて無視してもさして問題無いだろ。問題無いだろ。

 問題無いよな?

 ここは翼選手華麗に改札をスルー、非常に綺麗な立ち振る舞いです。良いですねぇ。

 駅は地上と比べ高い位置にあり、俺はその階段を降りようと一歩。

 すると――。

「あ――。若槻さんじゃないですか! そろそろ到着すると思って迎えに来てたんですよ」

 階段の下から突然曲がり角を経由して現れたその男。暖かそうなセーターを着て、オールバックに無精髭というダンディズム溢れる格好をしているその男は、陽気な口調で俺に声をかけた。

「あ……あぁ、どうもー……」

 誰だこいつ……。

 内心そう思いつつも階段を下る。

「ささ、こっちに車ありますんでついて来て下さい」

 あぶねーな。これがゲームじゃなかったら間違いなく怪しいおっさんだよなこの人。

 階段から降りると街並みが視界に入る。アパートや小さな商店、家など比較的背が低い建物が建ち並んでいた。あたりは霧がかかっていて遠くまでは見えない。

「若槻さん、夕張に来たのは初めてで?」

「え、ええ、初めてです」

 俺は前に歩く彼の背中を見て言った。

「ならわからない事も多いでしょう。――あっ! 申し遅れました、僕、高木於菟と言います。以後お見知り置きを」

 於菟――"おと"とは珍しい名前だ。

「はあ……それで、今から向かう場所、なんてのは」

「あれ? 電話のほうで説明しませんでしたっけ? 取材に来たいと言ったのは若槻さんのほうだったんじゃ……」

 取材? このゲームの主人公設定何歳だよ。俺まだジャンルすらわかってねぇよこれ。ホラー系か? ホラーだったら勘弁してくれよマジで、超苦手なんだよ。

「取材……はあ、取材、ですよね。わかります」

「ええ、取材ですね」

 何の取材に来たんだよ俺! わっかんねぇよ!

「ちなみに……高木さんは今日なんの取材かご存知で……?」

「そりゃあもちろんですよ! 僕が地元の案内役でしょう? 何仰ってるんですか若槻さん」

 ご存知ですよねもちろんね、うん。ですよね。

 くっそ……こんなんじゃ今から行く場所とか俺の年齢職業なにひとつわかんねーよ……。

「あぁ、この角曲がった先の駐車場です」




   〓 〓 〓 〓 〓




 黒塗りのセダン。周囲から見れば明らかにヤクザだ。おまけにドライバーがオールバック無精髭野郎ときてる。これは完全にヤクザだ。後部座席に乗ってる俺もまだ疑ってるからな。

 街並みからだんだんと離れて山道のヘアピンカーブをくねくねと走っていく。もしかして俺は拉致されてるんじゃないのか、途中で殺されて山に棄てられるんじゃないのか。

 そんな妄想がよぎりながらも。

「若槻さん、もうすぐですよもうすぐ」

「――ああ、どうも」

 空返事をして窓の外に視線を向けると、丁度雪が降りはじめていたところだった。

 そうして俺は、まだ行き先もわからないまま、怪しい男の乗ったセダン車に誘拐されるのであった。

 しっくすせっくす!!!!!!!!!!!!

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