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適当なノリで適当な冒険を  作者: 行方 行方
あーるぴーずぃー
1/9

一。

   ■ ■ ■ ■ ■


 締め切られたカーテンの隙間から細い陽の光が差し込む。

 長四角のテーブルにディスプレイが並んで二台。それを見つめる男女が一組。

「夏休みずっとゲームしまくるのってほんと最高ね!」

「外に出る用事も無いしな、別に」

 その二人の会話とマウスのクリック音が部屋に寂しく響く。

「んじゃ、もう一回いっとく?」

「うっし」

 そう言って二人はほぼ同時にヘッドセットを装着する。

「それでは早速……準備はいい? つばさ」

「準備完了だ、つばき」

 クリック音が数回。

 後に、ピッピッピッと電子音がしたかと思うと――。

 ふと津波のように湧き上がってくる吐き気。

 それがピークだったに到達し、「ダメだ……っ!」と思う頃には、意識を失っていた。


   ■ ■ ■ ■ ■


 目を覚ましたその場所は――どこだろう。

 チクチクと肌を刺す感触に、森の中かと思い。

 あお向けの体を起き上がらせ、周りを見回せば、そこは藁の山。例えるならば中世ヨーロッパの街外れの家の隣の馬小屋の馬に与える藁を格納しておくような小屋である。例えるならばというか、思いっきり今言ったことそのままだ。

 しかし。

 ゲームジャンルの選択を椿に任せてはいたが、RPGを選ぶとはかなり意外だ。椿はてっきりパズルゲームにしか興味が無いものかと思っていた。

 ぐいっ、と体を起き上がらせ立ち上がる。

 ここはどこなんだろう――という疑問はもう浮かばない。


 もうお察しの通り――ここはゲーム世界の中。

 椿がゲームを開始したと同時に、二人揃ってこの世界に来たのである。

 あのヘッドセットから流れる電子音には催眠効果があり、睡眠状態になる。……つまり、ここは夢の中のようなものであり、この世界の体感時間で一秒は、現実世界の百万分の一にも満たない。

 ――と、三日月椿の父であり、この技術の発明者である三日月うんたらかんたらさんは言っていた。名前は覚えてないが、だいぶ長い名前だった気がする。

 この発明の被験体? か何か知らないが、そういうお試しキャンペーンに選ばれたのが、何を隠そう俺と椿だ。

 この世界の体感一秒が現実の百万分の一ということなので、この世界でカップラーメンを作ったとしても現実世界では一秒も経過していないという事になる。

 ……まてよ、つまりカップラーメンを作る時だけこの世界に来てできたら現実に戻ればいいんじゃないのか? そういうマジックショーでお金が稼げるんじゃないのか?

 そんなつまらない発想はどうでもいい。

 それはともかく、このバーチャル世界から元の世界に戻る方法はもちろん――――。


 ゲームクリア。


 その一択だ。

 俺は藁の山を掻き分け掻き分け、小さなこの小屋の外へと出た。

 新鮮な田舎の空気といった感じで、実に清々しい気持ちにさせてくれる。

 俺は大きく身振り手振りとつけたラジオ体操のような深呼吸をして、一回転をするように辺りを見回してみる。

 周りは森に囲まれていて、この小屋がある半径数百メートルだけその森からぽっくり切り抜かれたような風だった。

 遠くに森への入り口のように木と木の間が開けた場所があり、その手前に民家がある。レンガで作られた洋風だ。

 もちろん、RPGなんだから民家がぽつんとひとつ点在していれば訪れるほか無い。

 俺はその王道に素直に従って、家の方向へと足を速める。

 その家の煙突からは煙がもくもくと昇っていて、その様子からすると家の中に人がいるのは確定的だ。

 数十秒歩いた先、ドアの前に着いて軽くノックしてみる。

「あのー……どなたか、いらっしゃいますかー?」

 いるのは分かってんだぞ! 出てこい! と刑事っぽく言いたい衝動を必死でこらえる。

 と、ドアが軋んだ音を立ててゆっくり開く。

「やあやあやあ、つばさ君」

 聴き慣れた声。それは、椿だった。

 藁小屋にいないと思ったら……。

「お前……もう目覚ましてたのか、起こしてくれたっていいだろうに」

「いや、あたし起こしたよ? 初期装備の木の棒で殴ったりもしたけど、つばさくん全然起きないもん」

「それは流石にやり過ぎだろ! 意識失ってる奴に追い討ちかけて永遠の眠りにつかせるようなこと平気でやってんじゃねえよ!」

「あっ――パン焼いたよパン」

 俺のツッコミなんかまるで無かったかのように、「入って入って」とまるで自分の家のように椿は俺を中へ招き入れた。家の中の家具はすべて木製で、真ん中にテーブルを囲んで四つイスが配置されている。

 そして、キッチンのほうから焼き立ての良い香りと共にパンが運ばれてきた。

「ほい」

 そう言って椿が手渡してくれたパンを一口。

「ん……案外美味いな」

「褒めてもヨダレしか出ないよ?」

「ただの食いしん坊じゃねぇかよ」

 それからパンを平らげるのに一分はかからなかった。


「さあ、こっちこっち」

 椿に案内され、寝室に移動する。

「じゃあ、つばさ君っ」

 腰に手を当ててベッドの上に仁王立ちする椿を俺は部屋の角から眺めていた。

「恒例の――アレ、いきましょうか」

「え? アレ?」

 アレってなんだ?

「そうびかくにんっ!」

 そんなのやったの今回が始めてだろうが。装備確認なんてやった事ねえし、第一装備なんて俺ロクな物持ってないだろ、絶対。

 ポケットやらベルトやらをまさぐって、ベッドに放り投げる。

 椿もそれにならう。


 かくして、恒例行事である第一回"そうびかくにん"が開始された。


 おう、1だが

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