ストーカーはいじめられる。
問題です。
いつも無口で根暗でちんちくりんでぼっちな女の子が、クラスの女子グループに楯突いてビンタしました。
その後彼女はどうなるでしょう。
答えはいじめを受けるでした。
今日も彼に続いて学校に向かった私は、カバンから上履きを取り出すとそれに履き替え、履いていた靴を代わりにカバンに入れる。こうすれば隠される心配も無し。
教室に入る。椅子の隅に画鋲があったのでそれをのけて机に座り、突っ伏す。
クラスの女子が私を見て笑っている気がする。
しかし我ながら馬鹿なことをしたものだ。
こうなる事は予想できていたのに。
でも、自分のしたことを後悔してはいない。あそこはきっと、怒らないといけない場面だった。
今はまだ軽い悪戯程度ですんでいるので、彼に私がいじめを受けているということはばれていないだろう。
好きな人に、いじめを受けているなんて知られたくはないからそれでいい。
知られないうちに、自分で解決してみせる。でもどうすればいいんだろうか。
「ちょっとよろしいですの?」
昼休憩、トイレからの帰りに愛顔お姉様に声を掛けられて空き教室までついていくと、そこにはなぎさちゃんがいた。
「……単刀直入に言うよ。いじめられてるよね」
「……!」
「その、学校の掲示板を見ていたら、桃香さんの悪口がやたらと書き込まれていたので不思議に思って少し調べさせてもらいましたの」
そういえばこの高校にも、裏掲示板というものが存在していた。私も彼も利用していないから存在をすっかり忘れていたが、愛顔お姉様の口ぶりからするにあのクラスメイトが私をとことん中傷したのだろう。
「悪いけど俺は男子だし、愛顔さんも隣のクラスだ。八咫烏さんの味方はするけど、正義の味方よろしく八咫烏さんのいじめを簡単に解決させることはできない。でも方法くらいなら示すことができる。いじめを解決させたいなら簡単だ、君がヤクザの人間だってばらせばいい、何なら親に泣きつけばいい。途端に君をいじめていた人達は君を怖がるようになるだろう、復讐だってできるだろうね」
彼の言う事は尤もだ。実際私の小中時代は浮いていたし周りに恐れられて、ある事無い事噂もされていたが、いじめを受けるなんてことはなかったのだから。
「……」
しかし私は首を振る。そんなことをしたって根本的な解決にはきっとならないし、ここに来て嫌いで嫌いで仕方のない家の力に頼るなんて、そんな人間に彼と結ばれる資格もないだろう。
「だよね、今のは本当に最後の手段だと俺も思うよ。もう1つの方法は、君がいい加減に龍巳君に告白して結ばれることだ。龍巳君なら間違いなく君を守ってくれるし、腕っぷしの強い龍巳君の彼女をいじめようなんて人もまずいないよ」
「……!?」
唐突に出てくる彼の名前にびっくりして顔を真っ赤にする。ば、ばれてる?
「申し訳ありません、ついつい桃香さんの好きな人が気になって調べさせてもらいましたわ。好きな人の隣の部屋に引っ越すなんて、やっぱり気が合いますわね」
少し微笑みながらそんな事を言ってのける愛顔お姉様。まさか私の知らない所で調べられていたとは、恐るべしお姉様。
けれど問題はそこじゃない。私が彼に告白して結ばれる?
「……」
うつむいてプルプルと震える。告白して結ばれる自信があったら、とっくの昔に告白しているというのに。二人とも私をわかっていない。
「一緒に文化祭の準備をしたり、修学旅行に部屋で一緒に遊んだりしているところを見てきたけどさ、龍巳君も八咫烏さんと一緒にいて、すごく楽しそうだったよ、活き活きしてたよ。正直お似合いのカップルだなあって思ったよ。龍巳君あの図体で初心だから八咫烏さんに告白できないだけで、二人は両想いだと思うな」
「桃香さんは十分魅力的ですわ。絶対に大丈夫です、私が保証しますわ」
二人はそう言って私を奮い立たせようとするが、
「……」
「お、おい!」
「桃香さん!?」
私は無言でその場から走り去る。
二人とも、他人事だからって適当な事を言っているんだ。
こんな、こんな気持ち悪いストーカーが、彼に好かれているわけないじゃないか!
結局二人の意見に耳も貸さずに教室に戻って授業を受けて、放課後にすぐに帰る彼と共に帰ってネットゲームをする。彼にいじめの相談なんて勿論しない。彼がログアウトしても、現実逃避するかのようにカタカタとネットゲームに興じる。
私なんかに色々協力してくれる二人を邪険にした天罰でもくだったのだろうか。
数日後、催しそうになった私は授業が終わると教室を出てトイレに向かう。
ここんとこ、下駄箱に虫の死体が入っていたり、いじめの主犯格が私を見ては指をさしてニヤニヤと笑っていたりと段々とエスカレートしてきている気がするが、まだ私は耐えられる。
個室のトイレに座って最近のストレスを発散させるかのようにくつろいでいると、
バシャア!
「きゃっ……え? あ……え?」
一瞬何が起こったのかわからず、素っ頓狂な声を出してしまう。
数秒ほどしてずぶ濡れになった自分の身体と、トイレの外から聞こえる下品の笑いに、ようやく水をかけられたのだと理解した。
は、ははは……辛い。
今までいじめにあった事なんて無かったし、上履きとか画鋲とかの悪戯くらいなら大丈夫だったけど、これは辛い。トイレから出ることが出来ず、ずぶ濡れのままずっと茫然としていると、ポケットが震える。
水に濡れても壊れなかった携帯電話には、彼からのメールが届いていた。
『どうしたの? 途中から教室いないけど』
時間を確認すると、何と授業を丸1つサボってずっとトイレで過ごしていたようだ。
『なんでもないですすぐきょうしつにもどります』
彼にも心配されたし、授業に戻らないと。
濡れ女と化した私はふらふらと教室に戻る。
普段は目立たない私であったが、
「うわ、何やってんのあいつ?」
「床が濡れるんですけど」
こういう目立ち方はノーサンキュー。なぎさちゃんの方を見ると、こんなに早くエスカレートするとは思っていなかったのだろうか、こちらを直視せずに、悔しそうな、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ちょ、ちょっとどうしたの?」
「……」
「とりあえず、ジャージに着替えなよ。……あ、今日体育無いから持ってきてないか。俺のがあるから貸してあげるよ」
「……」
気づけば彼が私に声をかけ、すぐに自分のジャージを持ってきて私に手渡す。
コクコクとうなずいた私は更衣室に向かって、彼のジャージに着替える。
念願の彼のジャージに着替えることができたけど、全く嬉しくない。
彼に迷惑をかけてしまった。
彼のジャージに着替えて授業を受けた私は、
『ありがとうございますじゃーじはせんたくしてかえします』
彼にメールを送る。変換するだけの気力がない。
『龍巳君、教室に入ってきた君を見てすぐに行動を起こしたよね。周りの視線なんか気にせずに、颯爽とジャージを貸し出して。なかなかできないよあんなこと、好きな人でもなければね。エスカレートするいじめを止められなかった俺が偉そうに断言なんてちゃんちゃらおかしいけどさ、絶対に二人は両想いだから』
なぎさちゃんからのメールを見ても、今の私には何の効果もない。
彼のジャージのまま、放課後に彼の後に続いて部屋に戻る。
監視カメラの中の彼はネットゲームにログインしたが、
「……あっ、うっ、あっ、いっく、えっく、……! ……おえええええっ」
私は彼の隣の部屋で、無様にも泣いて嗚咽を漏らす。




