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ストーカーは彼のために怒る!

 バレンタインも終わり、期末テストも終わってしまった。

 ちなみに私の誕生日はホワイトデー。

 チョコは匿名で出しているので彼からの見返りなんて期待できない。

 精々ネットゲームでのお返しを期待するくらいだ。



 しかしあんまり私は焦っていない。

 何故ならバレンタインで彼にチョコを渡したのは私一人。

 つまりライバルはいないということになる。

 彼自身に好きな人がいるという可能性もあるが、彼をずっと見てきた私からすれば、そんな素振りは無い。

 だから最悪高校二年生になっても、まだまだ猶予はあるんじゃないかと。




 思っていた私が馬鹿だった。



「……うおっ!」

 いつものように彼と一緒に学校に向かう。

 彼は自分の下駄箱を開けるとそんな声をあげる。何か入っていたのだろうか?

 しかし残念ながら私のストーキング・アイを持ってしても下駄箱に何が入っていたのかを知る事はできなかった。

 その後も普通に授業を受けていたのだが、どうにも彼の様子がおかしい気がする。

 何だかすごく嫌な予感がする。あれはまるで、ラブレターを貰った男子の挙動。

 そして放課後、いつもは真っ先に帰るはずの彼が、屋上へ向かった。

 まさか。嘘だよね?




「あの、私と付き合ってください!」

 しかし、彼を追って放課後に向かった私を待ち受けていたのは嘘でもなんでもなく、彼がクラスの女子生徒に告白されているという現実だった。

「……!」

 そんな、バレンタインの時はチョコを渡していないはずなのに。

 わずかな時間で彼に惚れた? それともチョコを渡せなかっただけで、恋心は前からあった?

 屋上へのドアの隙間から告白劇をうかがいながら混乱して吐きそうになっていると、

「その、一日、考える時間をくれないかな」

「わかった。また明日、同じ時間に返事を聞かせて」

 彼がそう言ってこちらに向かってくる。急いで私はその場から逃げ出した。




 逃げるように彼より先に部屋に戻った私は、

「う、え、おおおえっ」

 トイレでおろおろと昼食を戻し、ぼろぼろと涙を流す。

 いつか、いつかこうなる日が来るんじゃないかって思っていた。

 私が勇気を出せずにいるうちに、彼が別の人と付き合ってしまうんじゃないかって。

 でも最近私は彼とそこそこ仲が良くなっているし、彼に浮いた話もないし、

 そんなことにはならないだろう、なんてタカをくくって甘えていた。

 今の関係もそこそこ楽しいからと告白できない自分を正当化していた。

 ははは、その結果がどうだ、ライバルはしっかり勇気を出して告白したじゃないか。

 ストーカーした挙句先を越されるなんて、人としても女としても負け犬だ。

 そんな風に胃を空にして、涙も涸らしていると、彼が帰ってきてネットゲームにログインする。




『俺、告白されたんだ』

『そうなんですか』

 反射的に私がログインすると、開口一番彼は私にそんな事を報告する。

 勿論今日の放課後の出来事だ。

『どうすればいいかなあ』

 彼は私に助言を求める。

 そうだ、ネットゲームでの私は彼にかなり信用されている。

 だったらそれを利用して、この告白を断るように仕向ければ……



『詳しい事情はわかりませんけど、深淵さんもその人の事を好きなら付き合えばいいじゃないですか』

 そんなズルいこと、私にはできないよ。相手の人だって、一生懸命勇気を出したんだし。

 馬鹿だなあ私。ストーカーするくらい彼に執着していたのに、恋のライバルを蹴落とすこともできないなんて。本当に馬鹿だなあ。

『フレグランスさんは、好きな人が別の人と付き合ったらどうするの?』

『諦めますよ、勿論』

 諦めることが、私にできるんだろうか? 彼が告白を受け入れたら、結局私はあの時告白を断るように仕向けておけばよかったって、未練がましく後悔するんじゃないだろうか?

『フレグランスさんは、好きな人に告白しないの?』

『なかなか勇気が出ないんです。今年中にはと思ってはいるんですけど』

 もう、勇気を出しても遅いんだろうけど。




 翌日。死刑を待つ囚人のような気持ちで、放課後に彼が告白の返事をするのを待つ。

 正直言って、私は彼が告白を受け入れると思っていた。

 大抵の彼女がいない男子高校生なんて、そこそこ可愛い女子に告白されれば付き合うものだと思っていたから。

 無口で根暗で貧相な私と違って、告白した女子はそこそこ可愛いしそこそこ社交的だし。



 けれど昨日と同じく屋上で待っていたクラスメイトに彼は、

「ごめん、俺には好きな人がいるから、君とは付き合えないよ」

 そう言って諭すように告白をはねのけるのだった。

「……そう。ごめんね、突然こんな告白なんかしたりして困らせちゃって」

「あのさ、フッた側がこんな事聞いちゃ駄目なのかもしれないけど、何で俺?」

「スポーツ万能で、前から気になってて、体育祭の時に惚れちゃった感じで」

「そっか。本当にごめん、きっといい人見つかるよ」

「うん」

 断られた女子は、特に悲しむこともなく校舎の中へ戻って行く。

 隠れてその様子を見ていた私は安堵の息を漏らす。

 あのクラスメイトには申し訳ないけど、よかった。

 でも、好きな人がいる、という彼の発言に胸が痛くなる。

 彼の好きな人って誰なんだろう。断るための方言なのだろうか、それとも……

 もやもやした気持ちになりながらも、アパートへ戻ろうとする彼に続く。

 しかし彼が途中で学校に引き返そうとする。何か忘れ物でもしたのだろうか。



 彼と共に学校に戻り、教室の前まで来たところで中から女子の笑い声が聞こえる。

「聞いた? 『本当にごめん、きっといい人見つかるよ』だってさーフラれたーショック」

「なんかギラギラしてるから余裕でOKすると思ったけど、意外と誠実なんだね」

「つうか他に好きな人おるって誰やろ、ウチとか?」

 その会話を聞いて瞬時に理解する。

 彼への告白は、ドッキリだったんだ。よかった、ライバルはいなかったんだ……って、




 ふざけるな!

 プツンと頭の中の何かが切れたような気がしたときには、既に私は教室の中にずかずかと入り、



 パァン!

「……いったぁ……何すんのよ」

 彼に嘘の告白をした、彼の気持ちを踏みにじろうとした女子生徒にビンタをかましていた。

 私だって、ずっと吐いたり、泣いたり、彼の相談に親身になって答えたり、悩んだのに。

 彼だって、昨日ずっと悩んでいたのに。私に相談するくらい悩んでいたのに!

 お前は、私だけじゃない、彼の気持ちを踏みにじったんだ!

「……こ……んなこと、もう、やめて」

 怒りに震えながら、かすれた声で精一杯そう呟くと、私は泣きながら教室を出ていく。



『深淵さん、元気出してください!』

『え、何でいきなり心配されないといけないの?』

『な、なんとなくです!』

 あの女子の会話は近くにいた彼も多分聞いていただろうから、彼も少しはショックを受けたはずだとその晩フォローをする。

 これから自分がどういう目にあうかも知らずに。

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