ストーカーは一緒に走る!
冬と言えば! マラソン大会と体育祭! 死ね!
「……」
冬にマラソン大会と体育祭をするふざけた高校のスケジュールのせいで、この日の体育はマラソン。
ジャージに身にくるんで走っても寒い。くちゅんとくしゃみをしながらのろのろペースで走っていると、
「大丈夫? 辛いなら見学した方がいいんじゃ」
「……♪」
彼が私の横に並んで、私を気遣ってくれる。
気遣ってくれるのはありがたいけど、彼に言われたら私は頑張らないといけないのです。
その日の夜、暖房をつけてぬくぬくと彼の部屋を監視しながら漫画を読んでいると、彼がジャージに着替えだす。外を走るつもりなのだろうか?
少し悩んだ末、私もジャージに着替える。マラソンの練習ということで偶然を装って出会って、そのまま一緒に走る。うん、我ながらいい作戦だ。ジャージに着替えた私は、部屋を出て走りはじめる彼を追う。
しかしこの作戦には致命的な問題があった。
「……! ……!」
私の脚力では彼に追いつけるはずがない。あっという間に見えなくなった。偶然を装って出会えない。
このままでは私と彼が出会ったとして、『やあ八咫烏さん。八咫烏さんもマラソンの練習? 俺は今から帰るところなんだ、それじゃあね!』ということになってしまう。
作戦は失敗だったなあと思いながら電信柱にもたれかかって肩で息をしていると、もう往復してきたのか彼が向こうの方から走ってきた。
「やあ、奇遇だね。君もランニングかな?」
「……!」
「そうなんだ。それじゃ一緒に特訓しようか」
「……♪」
彼はそのまま帰ると思いきや、私と一緒に走ってくれることに。
ひょっとして私のためにわざわざ予定を変更してくれたのだろうか、なんてね。
「ふう、いい汗かいた。俺はマラソン大会まで毎日走るつもりだけど、君は? よかったら、一緒に走らない? ライバルいると、より効果的になるって言うし」
「……!? ……♪」
しばらく彼と走った後、自販機でスポーツドリンクのボタンを押しながら彼がそんな提案をする。
まさかまさかの彼からのマラソンデートのお誘いだ。
正直走るのは嫌だけど、彼と一緒に走れるならば5キロでも10キロでもフルマラソンでもどんとこい、とこくりとうなずく。
「わかった。それじゃ、夜の8時にここの公園で待ち合わせしようよ」
「……♪」
走った後も爽やかにそう告げて私にスポーツドリンクを手渡し、アパートの方へ走り去っていく彼を見送りながら、貰ったスポーツドリンクをこくこくと飲む。
それからマラソン大会までの数日間、彼と夜中に公園で逢引してはランニング。
「息が切れなくなったね、本番が楽しみだ」
「……♪」
彼と一緒に走ることで、私は大分効果が出ているようだ。
けれど私のペースに合わせて、彼に効果は出ているのだろうか?
「なんだか、デートみたいだよね」
「……!?」
彼にデートみたいだと言われて恥ずかしくなってターボがかかるが、すぐに追いつかれてしまうのが悲しいところ。
そしてマラソン大会本番、男子より先にスタートして懸命に走っていると、後ろから彼がやってくる。
「頑張ってるね、その調子」
「……♪」
私に声をかけて追い抜いていく彼を見送りながら、例え彼が見ていなくても頑張って走ろうと決める。
「うーん、6位か……」
マラソン大会終了後、さりげなく彼の近くに立っていると、彼が悔しそうにつぶやく。
男子約120名中6位なら、十分すぎる。
それに比べて私は……
「ところで、君は何位だったの?」
「……」
私に気づいて声をかけてくる彼だが、恥ずかしくて順位を教えることができない。
「いいじゃん、教えてよ。笑わないからさ」
「……」
それでも引かない彼に根負けして、おずおずと順位が書かれた紙を彼に寄越す。
私の結果は70位。女子は約80名で、真面目に走らずほとんど歩いていた女子も何人かいたので、実質最下位レベルだ。彼とあんなに練習したのにこの様なんて、彼も私に幻滅したことだろう。
「よく走りきったね。特訓の成果かな?」
「……♪」
けれど彼はそんな私の頭を撫でてくれた。
金メダルよりよっぽど嬉しいご褒美だ。




