ストーカーは部屋に入り込める!
『ストーカーに餌をあげないで!』第6部に相当
そのチャンスは、突然やってきた。
「さーて、これからあ3時間くらい近くの古本屋で漫画を読んでくるか!」
隣の部屋……彼の部屋から、そんな声と共に扉の開く音。
どうやら彼は今から3時間ほど古本屋に行くので部屋を空けるようだ。
それにしても彼は一人暮らしなのに、自分の行動をわざわざあんな声でつぶやくなんて、可愛いところがあるもんだ。思わずにやけてしまう。
彼がアパートを出て行ったのを確認した私は、自分の部屋を出て彼の部屋の前に。
この間暗証番号はばっちり控えておいたので、あっさりとロックを外して中へ入る。
「……♪」
念願の彼の部屋に入り込めたぞ。
割と汚いけれど、男の人の一人暮らしってこんなものだろうと予測はしていたし幻滅は別にしていない。
とりあえず私は彼の布団にダイブ。掛布団にくるまってゴロゴロする。
彼の匂いがする。これが俗に言う間接添い寝というものだ。
まだ一人暮らし始めたばかりなので慣れなくて眠れなかったりするけど、彼の布団なら安眠できそうだ……
危ない危ない、寝てしまうところだった。
彼が帰ってきた時に私が布団で寝てたら大変なことになるよ。
布団と言えば、男の人は布団の下にエロ本を隠すらしい。
私は別にエロ本を嫌悪したりはしない。男の人だもんね。
というわけで布団の下を漁ってみようと布団から降りたところで、
「あー忘れ物しちゃった。あれえ? 鍵がかかってないぞ、おっかしいなあ」
最悪の展開。彼が帰ってきてしまった。
慌てながら私はどこかに隠れてやり過ごさないとと思い、押入れに隠れることに。
「……」
押入れからチラりと部屋の中を見る。彼が部屋に入って、乱れた布団を見て不審がっている。
忘れ物を取ったらまた古本屋に行くだろう、少しの辛抱だと思っていたのだが。
「……」
5分経過。彼は部屋でインターネットをしている。
どうしよう、古本屋に行くのやめちゃったのだろうか?
私はいつになったらここから出られるのだろうか。
正直狭くて暗いところ私苦手なのに。蜘蛛とか出て来たらどうしよう。
「……!」
10分経過。彼は部屋で筋トレをしている。
ここで更なる悲劇が私を襲う。尿意だ。
トイレに行きたい、けれど押入れから出られない。
早く、早く部屋から出て行って! と部屋の持ち主に盗人猛々しい非難をおくる。
「……! ……! ……!」
30分経過。あはは、もう無理、漏らす。
好きな人の部屋に忍び込んでお漏らししちゃう。もう駄目、これ死んだ。私終わった。
「さーて今度こそ古本屋に行くか!」
トイレの神様が微笑んでくれたのか、漏らす直前に彼がそう言って部屋を出て行く。
すぐに私は押入れから出ると彼のトイレへ一直線。自分の部屋に戻る余力は残っていない。
「……♪」
溜まっていたものを排出して、何とも言えない解放感。
ここが彼がいつも座っているトイレか、間接的にお尻が触れあった、なんてちょっと下品か。
トイレを無事に終えた私は、彼を追って古本屋へ。