ストーカーはクッキー食べてもらえる!
『ストーカーに餌をあげないで!』第4部に相当
「……」
家庭科室で、エプロンと三角巾を着用した彼がレシピを読んでいるのを眺める。
今日は調理実習でクッキーを作る。
恋する女の子的にはとても大事なイベントだ。
自分の作ったクッキーを彼に食べてもらいたいのもそうだし、
彼の作ったクッキーも食べたい。
私の料理の腕は可もなく不可もなくといったところか。
レシピ通りに作った結果、なんともつまらない、業務用スーパーで売られていそうなクッキーが出来てしまった。
少しはオリジナリティを出した方が良かったなと思いながら、彼の作ったクッキーはどんなものかと覗いてみると、
「……!?」
思わず顔が引きつってしまう。
なんだろうあれ、ダークマターだろうか。
遠巻きに見ているのに異臭が漂ってくる。
彼はそのクッキーのような何かを口の中に入れ、すぐにヤバい顔になって流しに吐き出す。
どうやら彼の作ったクッキーは見た目もヤバいし味もヤバい代物のようだ。
でも、食べたい。
怖いもの見たさの精神が働いているのかもしれないし、やっぱりダークマターとは言えど彼の作ったクッキーだ、食べたいに決まっている。
人の食べられるものじゃないと判断したのか、彼はクッキーを入れた袋をゴミ箱に入れようとする。
「……」
彼がゴミ箱に入れたら後でこっそり回収しようと目をぎらつかせながらそれを眺めていたのですが、残念ながら彼はゴミ箱に入れずにカバンにそれを仕舞ってしまった。
「……」
カバンに仕舞ったのなら、彼がいない間にクッキーをちょっと摘み食いしようと考えていたけれど、なかなか彼は隙を作らない。
そうこうしている内に、彼はカバンを持ったまま教室を出て行ってしまった。
私もそれを追うが、走っていく彼に私の脚力では追い付けない。
しかし、カバンの中に入れていても臭うあのクッキーのおかげで、何となく場所がわかってしまう。
……私は犬なのだろうか、彼の後を追うわんこ。
犬なら喋ることができなくても、朝のニュースで可愛がってもらえるのになあ。
ああ、でも助けを呼べなくて結局死んじゃったんだっけ。やっぱり喋れないって大変だ。
それはさておき、追いついた先の空き教室で彼は頭を抱えていた。
きっとあのクッキーを捨てようと考えたが、産業廃棄物にしか見えないそれを果たして燃えるゴミに出していいのか迷っているのだろう。
ゴミの分別も考えるなんて流石は彼だ。
結局彼はクッキーを捨てることなく教室に戻り、私も彼の隙をついてつまみぐいしようと虎視眈眈と狙っていたのだが、
「……! ……!」
なんと休憩中、彼はクッキーを全部自分の口に詰め込んだ。
自分の作ってしまったものは自分で処理しようと考えたのだろうか、なんて漢気に溢れているんだ。
でもクッキー食べたかったなあと残念がるが、顔色を紫に変えてゾンビのようになっている彼を見て食べなくてよかったと安堵する。
安堵している場合じゃない、このままじゃ彼が死んでしまうかもしれない。
足取りもおぼつかない彼がふらふらとこちらに近づいてきたので、私は自分のクッキーを机に置く。
余程口直しがしたかったのかそれを見つけるや否や彼は躊躇いなくそれを奪取して全て口に詰め込む。
私のクッキーを咀嚼して毒が中和されたのか正気に戻った彼。
「……♪ ……♪ ……♪」
彼にクッキー食べてもらえるし、彼の命も救えたし、クッキーの神様ありがとう。