ストーカーにシュートが飛んでくる!
『ストーカーに餌をあげないで!』第3部に相当
「……」
今日の授業は、隣のクラスとの合同体育。
準備体操をしながら彼を眺める。
彼は体も柔らかい。彼を見習って私も長座体前屈をしてみるも、膝から数センチでギブアップ。
体育の授業は嫌いだ。
私自身運動神経皆無だから辛いというのもあるが何より、
「よーし、それじゃあ二人組作って、サッカーボールのパス回しだ」
私のような孤独な人間に襲いかかるこの死刑宣告。
体育会系の教師には二人組の作れない人間の苦しみがわからないようだ。
次々と二人組を作って行く周りの人間をおろおろと眺めているうちに、一人ぽつんと余ってしまった。
友人とパス回しをしている彼を眺めながら、グラウンドにぽつんとたたずむ私。
誰も気にかけない、空気な私。
周りを見てみると、男女で二人組を作っているところもそれなりにいる。
ああ、妬ましい。
「……!」
そんな感じにダウナー一直線だったが、彼の蹴ったボールがコロコロとこちらに転がってきたのに気づいて目の色を変える。
「ごめーん、ボール取ってくれない?」
転がってきたボールを足で止めると、彼がこちらを向いてにこやかに手を振りながらそう言う。
「……! ……♪」
彼に話しかけられた。それだけで私はアッパー一直線。
目を輝かせながら彼に向かってボールを蹴り、ボールは無事に彼の元へ。
彼とパス回しができた、体育の授業最高だ。
なんと僥倖な事か、その後も度々彼の蹴ったボールがこちらへ転がってきて、私は彼と何回もパス回しを楽しむことができた。
「お前運動神経いいのに、コントロールないんだな」
彼の本来の相方がそう言って彼を笑うが、コントロールの無さに感謝。
「よーし、体も温まってきたとこで、試合すっか。とりあえず女子からな」
楽しいパスの時間も終わり、クラス対抗で試合がはじまる。
運動神経皆無、存在感皆無、自己主張もしない私は当然のようにスタメンには入らない。
サッカーなんて面倒くさいだけだし別に悲しくはない。
自分のクラスのサッカーなんてどうでもいい、グラウンドに座ってサッカーを眺めている彼を眺める。
しかしその至福の時も終わりを告げる。途中で私もサッカーをする羽目になってしまった。
やる気はないので、コートの中、彼の近くに陣取ってぽつんと突っ立っていたのだが、
「真面目にスポーツしてる女の子って、可愛いよな」
彼のそんな発言を聞き逃さなかった私はすぐにギアチェンジ。
コートの中を縦横無尽に駆け回り、場を乱す大活躍だ。
ボールは1回も触れなかったけど。
私なりに本気を出してみたのだが、彼は評価してくれただろうか?
……なんてね、私の事なんて見てないか。あー今の私最高にピエロ。
そしていよいよ私にとってのメインイベント、男子のサッカー試合だ。
彼はセンター(サッカー用語はよくわからないが多分攻める人と守る人の間にいるのでそうだろう)のようだ。
つまり攻めることも守ることもできる、リーダー的存在なのだろう。流石は彼だ。
最初は主に守る方に徹しているのか、自陣の方で相手のボールを奪っては攻める人にそれをパスする。
素人目にも活躍していることはわかるのだが、やっぱりシュートするところが見たいな、と心の中で願う。
するとサッカーの神様がそれに応えてくれたのか、試合後半になり敵チームが疲れを見せた頃、彼が今がチャンスだと言わんばかりに攻める役に。
思わず切りこみ隊長にスカウトしたくなるようなドリブルで敵をかわし、カッコいいフォームでシュートを放つ!
バァン!
「……〇×△□」
私の顔に。
いきなりボールがこちらに飛んできたと思ったら次の瞬間には物凄い衝撃が私を襲い、そのまま地面にパタリと仰向けに倒れる。
いくら空気な私とは言え流石に周りがざわめく。
まずい、これじゃ彼が悪者になってしまう。
普段私のことなんて気にもとめてない女子達が、女子にボール当てるなんて最低だと彼を吊し上げてしまう。そんなの嫌だ。
痛みに耐えながらも私は起き上がり、
「……♪」
精一杯虚勢を張って笑ってみせる。
授業が終わった後念のため保健室で診て貰ったが、幸いにも外傷もなく中身も無事のようだ。
顔に傷がついたら彼が責任取ってくれるかな、なんてちょっとズルい事考えてみたり。