ストーカーは手堅く音ゲー。
『ストーカーに餌をあげないで!』第22部に相当
「……」
今日は音楽の授業。彼がティンパニーを叩くのを眺めながら木琴を叩く。
私は音楽が得意な方ではない。
喋ることができないから音痴とか言う以前の問題だが、リズム感もそこまでよろしくない。
……でも彼よりはマシかな、多分。
リズムもへったくれもあったもんじゃない、ただただ連打しているだけだ。
カラオケの時は別に下手では無かったのに、おかしいったらありゃしない。
他の人から見れば五十歩百歩なのかなあ。
放課後、彼の後をついていくとゲームセンターへ到着。
今日の音楽で彼の中の何かが目覚めてしまったのだろうか、
彼はどうやら音ゲーをするつもりらしい。
リズムに合わせて踊るタイプのゲームに向かうと、コインを入れて上級者向けの曲を選ぶ。
え、絶対無理だよ。自分のリズム感の無さ自覚してないの? 笑い者になっちゃうよ?
と心配する私であったが、彼の足さばきを見て考えを改める。
すごい反応スピードだ。
次々と流れてくる矢印、私は目で追うだけでいっぱいいっぱいなのに、
彼は持ち前の動体視力で全ての矢印に対応。
彼のダンスに、私は見惚れるしかなかった。
『Failed』
まあ、結果は大失敗なんですけどね。足さばきはすごかったけど全然タイミングあってないです。
あんなに運動神経すごいのに、音楽センスって大事なんだなあ。
「なんだあいつ、自身満々に上級者向け選んだ癖にしょぼいな」
「ださーい」
周りで彼のダンスを見ていた心無い人間がそう笑うが、
「……♪」
彼等はわかっていない、この萌え要素を。
普段は運動神経抜群でかっこいい彼が音ゲーで大失敗、しかもかっこつけて上級者向けを選ぶというこのシチュエーションがいかに素晴らしいか、喋ることができたらあのチンピラに語ってあげたい。
彼のダンスを見ていたら私もやりたくなってきた。
ボタンを叩くタイプのゲームの前に立ってコインを入れ、一番簡単な曲を選ぶ。
私は彼の二の舞にはならないのだ。
流石に簡単すぎたようで私でも楽々できる。
ポン、ポン、ポンとリズムに合わせてボタンを叩くうち気分は高揚。
曲をクリアし、次はもう少し難しい曲にチャレンジしようかなと考えていると、
「何あいつ、一番簡単な曲やってドヤ顔とか」
「自分の事リズム感あると思ってんのかね、ウケルんですけど」
先程まで彼を笑っていた二人が、今度は私を笑う。
私はいたたまれなくなって、気づけばトイレへ駆けこんで、
「……! ……!」
ぽろぽろと泣きだす。自分でも打たれ弱いにも程があるとは思っているが、こればかりは生来だ。
一度泣きだすと全然関係ないことまでネガティブに考えて負の連鎖。
どれくらいトイレの個室を占拠して泣いていただろうか。
目元を赤く滲ませたままトイレから出て彼の姿を探す。
丁度彼がゲームセンターに入ってくるところだった。用があって出ていたのだろうか。
服がさっきより乱れている気がする。喧嘩でもしたのだろうか?
「……! ……♪」
彼は私と同じゲームにコインを入れると、私と同じ一番簡単な曲を選ぶ。
先程まで悲しんでいたのが嘘のように歓喜。彼とお揃いだ。
彼と一緒なら、誰に笑われたって平気。
そんな気分で彼のプレイを眺めるのだった。




