ストーカーにホームランボールが飛んでくる!
『ストーカーに餌をあげないで!』第15部に相当
「……」
準備体操をしている彼を眺めながら私も準備体操をする。
前屈をしようとするが身体が硬すぎる。周りから見れば真面目にやれと思われるかもしれない。
これでも私なりに頑張っているのだ、努力しろとか酷い事を言わないで欲しい。
まあ、結果の出ない努力を言い訳にするような人間にはなりたくないけれど。
「うし、それじゃあ二人組になってキャッチボールをして肩を温めろ」
また空気の読めない体育教師によって私は余り者になってしまう。
言葉のキャッチボールが出来ない私がキャッチボールなんて出来るはずがないということですね。
この間同様、彼がキャッチボールをする様を眺めていたが、
「なんだ、余ったのか。それじゃあ先生とやろう」
空気の読めない先生によってそれも邪魔されてしまう。
「……」
「もっと、大きく振りかぶって投げると飛距離が出るぞ」
彼とキャッチボールがしたいのに体育教師とキャッチボールをする羽目に。
脳内で悪い男に捕まった悲劇のヒロインを気取って彼という王子様が助けに来てくれないかなと妄想していると、
「いでっ! 誰だ、今投げたやつは!」
「すいません、手が滑っちゃいました」
なんと彼が本当にボールを体育教師にぶつけて助けてくれる。
「まったく……おっと、先生はベースやらバットの準備をしないといけないから」
彼に退治された悪い体育教師は試合の準備のために去って行き、私はその後彼がキャッチボールをするのを眺めることができた。
彼が時折こちらを向いて悩んでいるような気がするが、何なのだろうか。
ひょっとして一人寂しくぽつんと立っている私を気にかけているとか。脈アリ?
……流石に出来過ぎな話か。彼は誰にでも優しいんだ、きっと。
「よーし、それじゃあ男子集合しろ、試合をやるぞ」
キャッチボールを眺める時間は終わり、お次は試合を眺める時間だ。
野球はあんまり好きではない。
ルールはよくわからないし、退屈だし。
昔親に連れられて野球観戦をしたこともあったが、地元のチームが弱すぎて酷い思い出だった。
サッカーは彼が走り回る姿をずっと見ることができるが、野球だとそうはいかない。
彼はセカンドというポジションのようだ。彼の華麗な守備を見ようと思ったのに、ボールが彼の方へ全然飛んでこない。
不満を募らせながらも応援していると、ようやく彼が打つ番のようだ。
野球のルールはよくわからないけど、ホームランっていうのがすごいのは知っている。
確か観客の方までボールが飛んで行って、観客が嬉しそうにそれをキャッチするのだ。
彼のホームランボールが欲しいなあとお願いしていると、彼が来たボールに対してヘルメットが外れんばかりのフルスイング。
心地よい快音と共にボールが天高く舞い、
「……! ……♪」
なんと私のところに落ちてきた。
頑張って私はそれをキャッチ。
これ、ホームランだよね? ホームランボールだよね!?
「ファール」
審判が何かよくわからない事を言っているけどまぎれもなくこれは彼のホームランボール。
こっそりジャージのポケットにそれを仕舞う。勝手に彼のサインを書いて部屋に飾ろう。
その後も彼はヒットを打ったり、敵の打ったボールをダイビングキャッチしたりと大活躍。
彼のプレイを見ていると、何だか野球が好きになってきた。
弱かった地元のチームも数年前の話だし、今はきっと強くなっているだろう。
帰ったら、また野球の試合を見よう。
「……」
弱い。




