敵とシルフィ
記憶フィルタ・・・未来人がその時代で自然に溶け込むために作られた「仮の生活」の記憶。主人公ヨシキはシルフィを妹だと思っているし、周りの人々も昔からシルフィを知っている。しかしその記憶は「仮」である。
残留思念・・・人が残す「思い」の物質。まだ2126年には発見されていない。
「残留思念を確認。敵がわたしの後を付いてきたようです。すみません。はい・・・はい。できるところまで対処してみます」
なんだか中学生らしくないコトバを聞いてしまった。
シルフィと菜々子の部屋からだ。寝言にしては仕事口調すぎる。
「シルフィ、入るぞ」
俺はちょっと心配になって妹たちの部屋に入った。中学生からひとつの部屋を二人分に分け、カーテンを引いて使っているこの場所に入るのは初めてだった。
「あ・・・」
俺は夢を思い出した。
タマゴ型の機械に乗ってシルフィがやって来たときのことだ。
「すみません、あなたに敵との接触があったので、記憶フィルタを外しました。大丈夫ですか?」
「敵?」
「黒い長い髪の男のことです。彼も未来から訪れているのですが、敵艦の大将なのです。名前はブラックセブン」
「へ・・・?」
ワケが分からない。
「すみません・・・また記憶フィルタをかけますね。心配してくれてありがとう、お兄ちゃん」
気が付くと、ちょっと寂しそうな顔をしたシルフィがいた。
菜々子が風呂から戻ってくる。
「お兄ちゃん。シルフィを学校に行かせようったって、急にはムリだよ。こういうのはゆっくりやらないと」
髪にタオルを巻いてハブラシを噛みながら言う。器用なヤツだ。しかし、なにか話を勘違いしている気がするけど・・・あれ?
「お、俺はシルフィがちょっと心配になっただけだ。だけど、何かあったら言えよ、シルフィ。力になるからな」
俺はそっと二人の部屋を離れた。