ありがちな高1・将来のハナシ
「ほぇ・・・」
4月の午後の昼下がり。タツノリと俺は弁当を食っていた。
「お前が昼メシ持ってくるなんて珍しいんじゃね? 作ったのか」
「いや。ほら、俺の妹のシルフィな。あいつが珍しく弁当を作ってくれたんだよ」
「ああ。銀髪のほうの妹な」
「そ。登校拒否してるほう。家にいて何が楽しいんだか」
「そう言うな。俺だって勉強がなけりゃ家で暮らしたいよ。それか、とっととバイトでも何でもいいから仕事してー。今日だって物理あるだろ。それが日常の何に役立つってんだ」
「物理かぁ・・・」
妹のシルフィが言っていたヒッグス粒子理論も「物理」に入るんだろうか。
【ええと・・・お兄ちゃん。今は、常温核融合で原子力を無害化することができるかどうかを考えている時代だけど・・・ヒッグス粒子が見つかりそうでしょう? 無害なエネルギーとするなら、重力構造を解明してエネルギーに変える方法もきっとあると思うんだ。原子力よりそっちの方が難しくて地球が何個あっても今のわたしたちじゃあふっ飛ばしかねないから、まだ使えないのかもしれないよ。友だちがね。必ず次の無害なエネルギーを見つけて使えるようにしてみせるってメールくれたんだ】
ヒッグス理論。文系も理系も中途半端で、タツノリの言うように仕事でもしたほうがいいのかなぁと考えている俺には想像もつかない。
「ヨシキさあ、お前は何になりたい」
俺の弁当からカニさんウインナーを失敬し、タツノリが聞いてくる。
「将来かぁ」
まだ高校1年になったばかりだ。タツノリは二つ上のお姉さんがいるから、ちょうど高3になったところだし、いろいろ考えることがあるのかもしれない。
「姉キは公務員目指してるよ。それで採用が無かったら、何か手に職を付けられる専門学校を目指すんだって。でも、給料は高卒や専門だと安いからどうしようかって考えてるらしい」
「なるほど。そうなら、やっぱり大学は目指したほうがいいよな」
「四年間・・・就職活動も含めたって二年ちょいは自由な時間がもらえるしな。親のことを考えると国公立を先に考えるしかないんだけどよ」
「国公立は5教科のセンター入試だったっけ? 苦手だなぁ」
「私立ならどこかには入れるだろうけど、それにしたって自分の好きなことは何か、得意なことは何か考えながらやっていかなくちゃなんねー」
「タツノリはどうなんだよ」
「考えたくない。だからヨシキ、お前に聞いてみてる」
「ぷっ、わがままなやつ」
口をすこしへの字に曲げたタツノリを見て、俺は噴出した。
俺の得意なこと。よく分からないけれど。あの地震があったとき、ちょっと考えたことがある。こんなときに俺はのんびりと受験なんてしててもいいのかって。何か手助けできることがあれば、すぐ助けにいくべきなんじゃないかって。
【・・・そりゃあワガママだぞ、ヨシキ】
あのときも諭すように、タツノリは言った。
【ボランティアのイロハも知らない俺らが今ぽっと行ったところで、あっちにとっちゃいい迷惑かもしれない。ネットで知ったけどよ、被災地でピースサインをして写る学生ボランティアもいるらしいんだ。被災者のひとがOKならいいけど、ちょっと不謹慎かもって思ったな。お前はお前ができる一善を積み上げていけばいいんだ】
「分からないけど・・・何か、人の役に立つことが出来たらいいなって思ってる」
「そっか。そりゃあ選択肢があって困るよな。野球選手とサッカー選手だけが仕事じゃねーし」
複雑な笑顔でタツノリは校舎の窓からグランドを見ていた。
妹たちはどうなんだろう。
帰ったら、すこし聞いてみたくなった。