ありがちな時間モノを
スペースオペラのはずがタイムマシン物に。
タイム・ポイント・セクタ・・・多次元宇宙論(宇宙は何層かに分かれている)に基づく「今ここ」。バチあたりなことを言えば、ジーザスのいなかった、アドルフ・ヒトラーのいなかった歴史も存在し得るという論。打ちでの小槌もあるかもしれない。乱開発も核開発も無く、その代わり魔法が発展していたりするセカイがあるかもしれない。そんな夢のある論を使わせていただいた。
タイムライン・・・時間はあみだくじのように無数の分岐で何層にも渡り成り立っているとすれば、このお話では、その分岐の果てに到達した20万年後の「ピコピコハンマー」な宇宙戦(?)艦時代と西暦2126年とを糸電話で結んだようなものと想像していただきたい。
時間航行エリア・・・タイムマシンが移動可能な次元宇宙。たとえば今この先に地球破壊爆弾や天変地異などで人類が滅びてしまったりすると20万年後にピコピコハンマーな未来は存在しない。シルフィがやって来たのは平和と戦争を模索し続けた先の結果、武器はピコピコハンマーホログラフの技術勝負に変わった未来になる。
生体テレパス・・・人体に流れる電気を読み取り、様々な詳細内容を知ることができる。22世紀のこの時代、機械(腕時計など)も未来を先取りいろいろと変化しているようだ。
タイムラック・・・幸運。タイムマシンが航行可能な未来では、時間の流れの中で発生するもの(塞翁が馬?)と捉えるためその「時」を区切る感覚があるようだ。
その朝まで俺の生活は並みのよーなものだと思っていた。
広沢良樹。(ひろさわよしき)グーグルの姓名判断では、何百番目あたりによくある名前らしい。
〇×高校1年C組。4月の上旬にさしかかるこの季節、桜は正門に降りそそいでいる。
「やべっ。今日は遅刻か!?」
ふと校舎の時計を見て、のんびり歩いていた俺は慌てた。周りには、同じように駆け込み始めたお仲間がいる。
競争をするように走り、門に駆け込んだ瞬間。
ふわり。
門をくぐり抜けたはずの足が宙をつかんだ。
「へっ・・・?」
陽光。あるいは七色の虹?
俺の目がおかしくなったのか、周りにあるものが何も見えなくなった。
真っ白な、どこに何があるのかよく分からない場所。そこに俺はいた。
えーと・・・。俺の名前は広沢良樹。妹が一人。両親は、父親がなんとかリストラを免れて一生懸命働く会社員、母親はパート務め。
ちょっと病んでいた母親が心療内科に通ったこともあって「パニックに陥りかけたらこうするの」と教えてくれたことがある。
混乱しているときは、まず自分のこと、そして家族のことがきちんと言えるかどうか。
それが第一。
よし。家族のことは分かる。ひとまず大丈夫だ。
【あのー・・・】
長い銀髪を風になびかせながら少女が現れた。タマゴ型の乗り物も付いている。
俺は今遅刻ぎみに登校しようとしていた。
それは間違いない。
この白い空間は何だ。
親にも先生にも習ったことがない。
【あのー・・・。心拍数が上がっているので動揺しているようですが。すみません、タイムライン選択時にあなたをマシンの時間航行エリアに引っ掛けてしまったようです】
銀髪の少女が語りかけてきた。
タイムライン?
聞きなれない言葉に、俺の頭は混乱する。
【すみません。タイムマシンの扱いに慣れていなくて。今は2126年で良かったでしょうか?】
2126年4月21日。AM8時23分。
俺は叔母さんに贈ってもらった腕時計で時間を確かめた。この4月は高校入学の記念にと、とっても奮発してくれた精巧な作りの時計だ。
「ああ、今は2126年だよ。それより、なんで俺の心拍数が分かったのかな」
この腕時計にもいろいろな機能はある。心拍数や体重、身長を測ることもできるが、一分ほどの時間がかかる。
相手がその機能を宿す何かを持っていたとして、瞬時に計ることはできない気がした。
【すみません・・・この時点での生体テレパスは認められていなかったのですね。失礼しました。つい心配だったので】
うさん臭い。とってもうさん臭い。しかしこの白い空間で人といえばこの少女しか見当たらないようだ。
俺は少女の次の言葉を待っていた。
【あ。ええと・・・私はシルフィです。このタイムポイントセクタからだと、20万年後のひとつの未来からやって来たことになります。お名前は】
「広沢良樹」
俺は仏頂面で答えた。
嘘だとしか思えなかった。しかし、瞬時にして消えた正門と桜はどこに行ったのだろう。
足を置いてもなにかふわふわとした感じで、いまいち立っている気がしない。
幽霊にでもなったような気分だった。
【説明がややこしいのですが・・・おや、私の用事はあなたのお父様にあるようですね。喜ばしいタイムラックが発生したみたいです】
「なんだって?」
【それはまた後ほど】
少女はタマゴ型の機械からすたすたと俺に近づいた。そうして、ひもで吊りおろした5円玉を取り出す。
【はい、あなたは眠くなーる、眠くなーる】
こら。おちょくってるのか? そんなもので・・・。
俺は少女に怒ろうとした。
まばたきをした、その途端。
ふさぁぁっ、と桜が舞った。
「お兄ちゃん、遅い。遅れちゃうよ!?」
俺は目を覚ました。
何だ? とても目覚めの悪い、いつもの遅刻ギリギリの夢を見ていたように思う。
「はい、お弁当」
なぬ!?
俺は耳を疑った。制服に着替えて今日の学用品をまとめ、部屋を出る。
リビングにお弁当が置いてあった。
俺には双子の妹がいる。最初に生まれたほうが菜々子、後に生まれたほうがシルフィ。って・・・あれ!?
そうそう、双子にしておいてほしいと頼まれて、母が引き取った叔母の子?
あれれ・・・!?
記憶が何かおかしい。
「お兄ちゃん」
まずい、学校に遅れそうだ。
「さんきゅ」
俺は、なにか記憶の違う気がする妹のシルフィにとりあえずの礼を言い、弁当を持って学校に向かった。
2126年という、想像しうる未来と20万年後というギャグテイストを内包したストーリーが、作者の中でもちょいとイマイチ。今流行りと思われるネタを精一杯入れていこうとしすぎたかもしれない・・・。