文化祭
ポン、ポンポン。
軽快な花火の音と同時に、うちの高校の文化祭が始まった。今日は何と、シルフィだけじゃなくて菜々子と親父、母さんまでついてきてくれるらしい。
無口な親父はあまりこういう機会に接することがないらしく、ここ数日珍しく楽しみにしているようなのが俺にも分かった。
母さんの状態も今は落ち着いていて、こういう人の多いところに出ても大丈夫だろうと医者が言ってくれたらしい。
まだ客が来ないので、俺はのんびりとスーパーボールすくいのビニールプールの前に待機していた。
ぴこっ!
何かにかるく頭を叩かれ、俺は振り向いた。
「タツノリ!」
「へへ。練習練習。隙がありすぎだぞ、ヨシキ」
きらきらした金色のスーツに身を包んだタツノリがピコハン(ピコピコハンマーの略)を持って立っていた。
「あんまり客が来ないな」と俺。
「まあ、始まったばっかりだしな。そのうち増えてくるんじゃね?」
「そうだといいな」
俺とタツノリが話していると、担任の黒七先生が近づいてきた。
「良樹君」
「はい」
「今日は妹さんたちとお父さん、お母さんが来るんだって?」
「はい。珍しく一家、揃ってます」
「それは良かった。文化祭を楽しんでもらわないとね」
黒七先生は微笑んだ。そして、タツノリからピコハンをすっと取り上げた。
「な、何するんスか、先生!」
タツノリが驚く。
「ははは。最初の戦いはこのぼくにやらせてくれないか」
「それはないっス」
ちょっとしょげるタツノリ。
「まぁ初回くらい、いいじゃないか。おっと、来た来た」
俺は教室の入り口に手を振った。
親父と母さん、菜々子とシルフィが教室の中を興味深そうに見ている。
こっちこっち、と手を振ると、家族みんなが気づいて笑顔になった。
「良樹!」
母さんが微笑みながらやって来る。母さんのうれしそうな顔を見たのは久しぶりだ。
「母さん」
「菜々子たちに付いて来て良かったわ。すごく面白そうね」
「俺らのところは縁日だけど、ほかにもいろいろあるから楽しんでいくといいよ」
俺もつられて微笑んだ。
「君がシルフィだね」
黒七先生が妹を見て言った。
「はい。ここに来られて良かったです。それは何ですか?」
「ピコピコハンマーで相手を先にたたいたほうが勝ちのゲームだよ。記念すべき初回はぼくが相手をする」
「わたしもやりたいなぁ。シルフィは?」と菜々子。
「はい、ぜひ」
「じゃ、先は譲るね。頑張って!」と菜々子は片目をつむってみせた。




