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保健室登校

 シルフィは明日と言ったが、それが叶ったのは一ヵ月後の新緑の季節だった。

 人前に出ようとすると緊張が走り、行く気力が失せるのだという。

「保健室でも校庭の裏側でもいいからよ、ちょっとでも行ってみたいとこを挙げてみ?」

 そんなタツノリの説得がシルフィの心に届いたらしい。

 狭い保健室に俺たちはワイワイと集まっていた。

「懐かしいなぁ。自分がまさか登校拒否になるとは思わなかったもん」とシルフィ。

 この中学は俺とタツノリが3月に卒業したところでもある。俺も懐かしい。二ヶ月ちょいしか経っていないのに不思議な気持ちだった。

「新入り君。お茶かコーヒーでも飲む?」

 保健室の先生が聞いてくる。此花このはな先生は怒ると恐いが、普段は優しくていい先生のようだ。

「あ・・・・・・いいです、すみません」

 おずおずと断ったシルフィに此花先生が言う。

「こういうときは人に任せなさい。それが信頼を築く初めのことだよ」と此花先生。

「でも、でも・・・自分がすればいいことを人にやってもらうのって、何だか悪いような気がして」

「頼んで断られるならそれもひとつさ。俺はカニさんウィンナーが食いたい」とタツノリ。

「むー。難しいなぁ。嫌われたくないっていう気持ちが先行しちゃうんだよね」菜々子も続く。

「こういうときは、だ。お茶かコーヒーが出てきたら、素直に『ありがとう』を言えばいいんだよ」と俺。

「うん。分かった。ありがとう、此花先生」

「明日から教室に出てみる?」と此花先生。

 ビクリとシルフィの顔がこわばった。

「今日は学校に出られたんだ。今はそれだけでいいさ」

 タツノリはポンポンとシルフィの頭を撫でた。

「なんでシルフィは学校に行きたくなくなったの?」と菜々子が尋ねた。

「勉強についていけねーからか?」

 シルフィは首を振る。考えあぐねてから、妹は答えた。

「・・・・・・イジメ」

「マジで!?」

「あっ。でも、生徒じゃないんだ。忘れ物をしたら次の日先生がムチを持ってきて。人前で男子にお尻を叩かせたの。忘れ物をしたわたしも悪いんだけど・・・」

「担任が犯人かよ!? 蹴っ飛ばしてやろうか」

 シルフィは首を振った。

「授業は面白くないけど、部活とかで一緒になるといい先生らしいんだ・・・。わたしのことで、みんなに迷惑かけたくなくって」

「分かった。校長先生や教頭先生に話しておくからね」

「ここだけの話にしておいてっ」

 シルフィは此花先生に懇願していた。中2っていうのは特別な時だと俺も思う。自分で解決できないことでも背伸びしてなんとかしたくなるもんだ。

「先生、ここはシルフィがそれを望んだらっていうことにしてくれないかな」

「・・・分かった。でも人の力は借りられるもんだからね。ひとりで悩まないことだよ」と此花先生が紅茶を差し出した。

 

中2病という言葉がありますが、誰もが持っている黒歴史はあるのでは。成長一歩手前の姿を描いてみました。シルフィも菜々子もリアル中2なので「病」ではないですが、あの頃の生意気盛りって、大人からみると得がたいキラキラしたものがあります。でも帰りたいとは思わない(ほろ苦笑い)。

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