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明日へ向かって

「あ? 中学の卒業はできるぜ」

 タツノリはちょっと思案してから答えた。

「試験だけは行かなくちゃならねぇよ? オール0点になりたくなかったらさ」

「そんなもんか」

「そんなもんって言ってもな。それだけで人生の先々厳しいぜ」

 タツノリが顔をしかめる。

「小学校と中学校は義務教育だけどよ、高校は自分で選ぶもんだ。その前の中学でオール0点取ったってことになったら、どんだけ選択範囲が狭まるか分かるだろ」

「なんとか学校に出てほしいよ、俺は」

「兄貴としてはそうだよな。なんなら俺がシルフィに会ってみようか? 第3者が入ってうまくいくケースもあるからよ」

「すまない。今度アイツが作るお弁当にカニさんウィンナーをたくさん入れるように言っておく」

「そりゃありがてぇ。まかせとけ」

 タツノリは笑って胸を叩いた。


 菜々子とシルフィの部屋にタツノリがやって来た。

 シルフィはいつもと変わらない様子で冗談を言ったりしてタツノリと打ち解けたようだ。

「でも、でもね。やってみたいことはあるんだ~」

 シルフィはちょっと笑った。

「あれ。シルフィ、あたしには内緒にしてたの?」と、菜々子が頬をふくらませる。

「ごめん、菜々子姉ちゃん。お父さんの仕事がちょっと気になってるんだ」

「親父の?」

 意外な言葉を聞いた。

 親父は無口な人だ。だから、会社で何をしているのか俺もよく知らない。シルフィは何を知っているんだろう。


【記憶フィルタ解除】


 また、あの真っ白な空間だった。

 シルフィは頭を下げた。

「・・・あなたのお父さんは船舶の航行に関するプログラムを今、組んでいるんですよ。それを継承した未来のシステムにちょっとした不具合が生じているので、直したいのです」

 話を聞いているうちに、ふわりと闇が訪れた。あたりが暗くなり、アダムスキー型の円盤が光を帯びている。


【記憶フィルタ生成】


 男の声がした。

「20万年後のしきたりにのっとり、自己紹介を。ぼくはブラックセブン。君は広沢良樹君だね」

 俺はぎょっとした。

「なぜ俺の名前を!?」

「探すのはちょっと苦労したよ。まだこの時代はスターラントになっていないから紙媒体まで遡らなくてはならなかった。事務作業もいいところさ」

「用事があるのは私ではないのですか?」

 シルフィが俺の前に立った。かばおうとしているようだ。

「ピコピコハンマーの許可が下りてね。それをシルフィ、君に伝えたかった」

「なに?」

 俺の頭はハテナマークで一杯だ。

 未来にはピコピコハンマーを使うにも許可がいるのか? どんな未来だ。

「戦争のなかった未来だよ。技術戦なのでね」

 ブラックセブンが答える。

「この時代には君の担任として入ったほうが良さそうだね。みんなで文化祭を盛り上げよう。良樹君、また会おう」

 

【記憶フィルタ変更を確認・・・了承】


 シルフィの声が聞こえた。

「分かりました。ふぅ、この時点タイムポイントセクタで戦闘にならなくて良かったです。ブラックセブンさんもまた後で」

 にっこりと彼女が笑う。 なんだ、笑えるんじゃないか。

 あれ?


 空間が再び白さを取り戻した。


「お兄ちゃん。わたし、一日だけなら行けるかも」

「おー、えらいシルフィ。よく言った」

 タツノリが拍手している。

 菜々子は「あんまり無理しなくていいよ?」とちょっと心配そうだ。

「そ、そうか。良かった」

「明日」

 シルフィは決意したようだった。

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