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第二話:卿は如何にして彼女に惚れたか?

全部魔物だから紳士でも淑女でもないって?おいおいそんなことはないぞ。オレの領地にいる”領民”は筋金入りの紳士淑女のハズだぜ。

なぜかって?そりゃもちろん、オレが治めてるからさ。それで十分だろ。



じゃあなんでこの城にはだれもいないかのかって?まあ確かに客人に挨拶しには来ねえな。

城を管理するのは自動人形がやってるし、城に入る権利を持ってるのはごく一部だ。

それに持ってるやつは領内にいることが少ない。ここにはニンゲンはいないからな。他所にいってくるしかねえだろ。

ああ、安心しろって。

お前も知ってる通り、ニンゲン殺しは許可してねえからよ。多分半殺しくらいにしかしねえだろ。



あ?国に税金を治めろ?ずいぶん話が飛ぶな。それが本音ってか?・・・まあいいや。

だが、そいつはお断りだ。そんな義理はねえ。だいたいオレがわざわざ領主をやっているんだ。

オレはこうして楽しく領主生活をする。おまえらはオレたちにおびえなくてすむ。・・・それでいいだろう?




〜新暦134年 3の月 3日目 ギーグ山の領主との2度目の会談より。〜

















/新暦133年 2の月



さて、この惨状をなんと形容しようか。オーガたちに対して、私たちは確かに友好的に接した。で、交渉の結果なんとか命を拾うことができた。ここまではよしとしよう。では、なぜオッサンは地面に倒れていて、私もフラフラで、唯一の武器である剣は真っ二つで、オーガたちは踊り狂っているのか?・・・それはすべてオッサンのせいだろう。私のせいではない。絶対に。・・・しかしそれにしても


「なんであんららひはそんらに元気らのよ〜!」

「おれだぢは強いからにきまっでる」

「む〜、あんらはだまってなしゃい!」


あ〜、予想外だわ。こいつらがこんなに強いなんて。ていうか私が弱いこともだけど。頭が痛いし脚がガタガタ。そう!すべてはそこで寝てる看守が悪いのよ!

せっかく私が交渉して、命を助けてもらって、さらには物々交換ですませることができたのに!・・・いやまあ、こいつらは追いはぎではなくて、単なる傭兵だったからなんだけどね。それでこれから帰るところなんだとか。

でもこの人、なんで一緒に食事しようなんて言って、しかもなけなしの酒を出すのよ。私の水を酒にすりかえるし、自分はツブれるし寝返りで剣を折るし!

じょーしきを疑うわ!

だいたい「オーガなんて信用できない。背中を見せたくない。」とか言って、「こいつらが酔って寝てるあいだにトンズラする」って作戦を立てたのはこの人のはずなのよね。それでなんで自分も飲み始めるのかしら。どうせオーガが飲んでるのを見て、それで我慢できなくなったに違いないわ。うん、そういうことにしておきましょう。酒にすりかえる相手を間違えたわけではないわ。・・・多分。




これは予定外だ。本当なら、オーガたちとは早々に別れてさっさと村へと行くはずだったのだ。それをこのオッサンが台無しにした。

・・・そろそろ潮時だろうか。こんな体たらくなら、一人のほうが安全ともいえる。だが、いまは山の中だ。ここでは魔物が出る。

次もオーガのような相手とは限らない。まだ出会っていないだけで、もっと強力なモノかもしれない。そう、たとえばドラゴンのような。

・・・確かめたほうがよいだろう。私たちよりはこのオーガたちのほうがこの山に詳しそうだ。それによって決めたほうがよさそうだ。

うまくいけば道案内も頼めるかもしれない。そうなればこのオーガたちは強力な護衛となるだろう。正直不安要素は多すぎるくらいあるが、このままオッサンといるよりはいくらかマシかもしれない。そうと決まれば行動しよう。




「ねえ、ところでこの山から一番近い村でどれくらいの距離なのかわかる?あとできれば魔物はさけて行きたいんだけど。」

「それはわがんね。おれだぢもてきどーに進んできただ。」

「・・・・・・・・・」



・・・なによそれ!どいつもこいつも無能ばっか!いや、私は貴族だからいいのよ?でも傭兵なのに地理が全然ダメってどういうことよ!

それじゃ戦場に着くこともできないじゃない!

・・・あれ?そういえばこいつらやけに身奇麗ね。鎧には泥しか付いてないし、斧の刃はピカピカだし、体には傷なんて見当たらないし。

まさか本当に戦場にたどり着けなかったのかしら。


























結局それから3日もの間、オーガたちと山をさ迷い歩いている。食料はなんとか山で調達できるものの、いいかげん飽きてきた。オッサンはまだ一緒にいる。さすがにこのメンバーで唯一の人間となるのは心配だ。いざというときは身代わりとなってもらおう。

しかし不思議なのは、いまだに魔物とは一切遭遇していないということだ。そのおかげでオーガたちを護衛にする作戦は無駄になっている。4日間もの間、このようなところを歩いていて魔物に襲われないなどありうるのだろうか?普通、街や村から一歩出ればそこは魔物のはびこる異界だ。実際この一年間は兵士よりも魔物から逃げることのほうが多かった。こんな明らかに魔物がいそうな山でそれに出会わないとすれば、可能性は限られてくる。

ケース1。偶然の産物。私の素行がいいからだ。

ケース2。ここは貴族、あるいは王族の庭である。戦乱の世ならともかく、平時に山で狩りをする貴族は多い。それが王族なら、危険な魔物は部下たちが血眼になって探し出し駆逐する。常に管理されることで安全に狩りをすることができるように、だ。

ケース3。すでに魔物にとらわれている。世の中には、魔術を使う魔物もいるらしい。そいつらが何の目的でかは分からないが、私たちに幻を見せている。たぶん弱ったところを食べるつもりなのだろう。





・・・多分私の勘ではケース1ね!そんな偶然を期待してもいいじゃない?

いやべつに今、目の前に立ってる男が初めて会う奴だからとか、明らかに人間ではないからとかで現実逃避してるわけじゃないわよ!

でもね、いきなり現れて、そしてオーガたちをぶっとばして、看守を転ばせて、そして私に近づいてきて、


「お嬢さん、今夜のダンスパーティでわたしと踊っていただけませんか?」


などと口説かれてみなさいよ。思考も止まるわ。


「・・・で、あなたは誰?」


とりあえず話しかけてみる。さっきのはスルーだ。


「ああ失礼。わたしの名前はヴァン・ボルドー・スペリアーニ・クルーエ・・・・」


長いわ。無視しましょ。今のうちに冷静な思考を取り戻さなきゃ。





・・・とりあえず目の前の男?を観察する。昔の貴族の着るような黒いタキシード、真っ赤な髪に長い牙。背は高くてなかなかハンサムな顔立ち。似合ってるからちょっとかっこいい。・・・脱線した。それと、さきほどオーガを吹き飛ばしたとき、たしかに魔術を使った。それも、人間の使えるような微弱なものではない。あれは、魔族かエルフのような者たちしか使えない強力なものだ。オーガ数人を吹き飛ばし気絶させ、さらに看守には華麗に脚払いを決めて昏倒させた。

・・・おそらく逃げ切れまい。背を向けたらダメだ。

しかしまた幸いにも言葉の通じる相手ではある。・・・だが、相手は明らかに私を目的としている。それも相当プライドは高そうだ。

またさきほどの口説き文句から推測する限り、おそらく私を連れ去ろうとするだろう。ダンスはともかく、私を嫁にしたりするのだろうか?

・・・いや、このようなキザったらしい奴に限ってそれはないか。ならば可能性は一つ。おそらくこいつは若い女しか食べないとか、そういう古風な魔物なのだろう。見た目からしてそんなだ。ああ、昔見た芝居で似たような魔物が登場した。あれは結局王子が王女を助けにきてハッピーエンドだったが、私を助けに来るものはいないとみて間違いない。ならばどう「と言うわけで、参上したわけです。」思考中断。会話に移ろう。


「さっきから黙ったままだが、どうしたのかね?ああそうか。照れているのか?」


「は、はい。あなた様のような方にダンスに誘われたのは初めてですので」


うつむき、ちょっとどもりながら様子を伺う。たぶん相手には初心な少女のように見えているはず。

・・・いまさらながら、こんなオーガや40近い男と一緒に山をさまよう初心な少女なんているのかしら?

我ながら怪しさ満点ね。


「いやいやうつむかないでくれたまえ。その可憐な顔を上げて、ぜひとも私と一緒にワルツを踊ってほしいのだ。まるで高原に咲く花のように美し」


・・・いちいちキザね。あとセリフが長い。私の境遇にはまるで興味が無いみたいだし。杞憂だったみたいね。

さっきのオーガといい、この変態キザ魔人(勝手に認定)といい、なんでこんなのばっかり私に集まるのかしら。

あ〜、もうイライラしてきた。この変態と踊るのはイヤね。どうしようか?


「・・・・ということで、どうかね?わたしと踊ってくれないか?」

「ええ、わたしでよろしければ。・・・しかし、私は何日も山をさまよい、見ての通り薄汚れています。こんな格好をあなた様にみられるのは恥ずかしいですわ。なので、近くの街まで送ってくだ「ならば話は早い。城へ招待しよう。今夜はそこでパーティなのだ。君に似合う美しいドレスとを用意させよう。ああそうだ、新しいドレスがいいかね?それなら私の家来に用意させよう。金銀の飾りや数々の宝石を散りばめた最高のドレスを」」


話を聞けーい!無視!?私の話を無視!?あとどんだけ馬鹿なのよコイツ!早とちりしすぎ!だまして街まで送ってもらうはずだったのに。

う〜、作戦失敗。真性のバカをだますのって大変ね・・・。

とか思ってたら既に腰に手を回してるし!なんか呪文みたいの呟いてるしコイツ!

で、足が!足が!


「ううう浮いてる?今私浮いてる?」

「すこし我慢してくれたまえ。城までは少々距離があるのでね」

「またもや無視?いやああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


あ、地が出ちゃった。でも気づいてないみたいだからいいか。

しかたないじゃない。すごいスピードで飛んでるし。怖いものは怖いのよ!

う〜、さっきから冷静な思考が取り戻せない。こんなことが続いてるから当然といえば当然なんだけど、ちょっと悔しいわ。































「う〜、怖かった。気絶するかと思った・・・。」

「ああすまない。君のようなレディーに恐怖を感じさせてしまうなんて、わたしは紳士失格だ!だが許してほしい。それもこの胸を焦がす情熱のためなのだ!わたしのこの熱い気持ちは山よりも高」


またキザな長セリフ!?これで何度目よ・・・。ああ、いけない。いまのうちに冷静な思考を・・・



・・・とりあえず、状況を整理しよう。ここはコイツの城なのだろう。なかなか規模の大きい城のようだ。私の知ってる城のなかでも5本の指に入るくらいの。さらによく手入れされた庭と、意匠をこらした内装。ああ、あのシャンデリアはかなり高価なものだろう。しかしなにより、そこに見える明かりは炎ではないようだ。あれも魔術なのだろう。そういう意味では最も豪華な城かもしれない。

私とコイツ以外に人影は見えない。・・・おかしい。パーティというからには一人くらいはいてもいいだろう。もう夕方だ。この城を維持するにも人が必要だろうに。まあ人間だとは限らないが。そういえば、パーティに来るのは魔物ばかりなのだろうか?たぶん他の奴が手を出そうとしてもコイツは黙っていないだろうが、少し心配ではある。

・・・私はダンスをすることはできる。まだ貴族だったころ、大変なレッスンを受けた。そのためコイツと踊ることはできるだろう。問題はその後だ。コイツが私を無事に解放するとは到底思えない。となればだ。主な可能性は3つくらいか?


1.コイツに食われる。多分高笑いしながら襲ってくる。そんな気がする。

2.他の参加者に食われる。コイツがどっかいったらそうなる気がする。

3.コイツの手でロウ人形にされる。「君の美しさを永遠のものに!」とか言って。・・・一番それっぽいかも。




「全部ダメじゃない!」

「ん?どうしたのかね?着いて来たまえ。控え室はこちらだ。わたしの家来が君をより美しく磨き上げてくれる!そしてわたしの見つけた原石はダイヤの輝きとなりわたしの世界を照らし」


いけない。思考にのめりこみすぎた。・・・どうしよう。本当に冗談抜きに命の危機よね。私はただ貴族に戻りたいだけなのに、なんでこんな風に訳のわからない奴らに絡まれるのかしら。・・・どうやら控え室に着いたみたいね。しかし本当に豪華な城よね。鏡は金の枠だし、床には絨毯。おまけに控え室にはメイドが3人。並の貴族よりよっぽど金持ちみたいね。


「ドウゾイラッシャイマシタ」

「オキガエヲオモチイタシマシタ」

「マズハシャワーシツヘドウゾ」


そういえば初めてコイツ以外の人(人外も含む)を見たんだけど、この人たちは人間なのかしら。妙に抑揚の無い声でしゃべるけど。

・・・まさかこれが私の末路、とかはないわよね?ああ、なんか余計に3番が真実味を帯びてきたわ。

でもまあ、いまは逃げることは出来そうにないからおとなしく従うしかなさそうなのよね。











はい、ありがとうございました。第二話でした。

今回出てきた男ですが、彼は第一話でチラッと出てくる人です。なるだけダサいセリフを言わせてはいる彼ですけど、彼は準主役といってもいいくらいこれから出番がある予定です。おたのしみに。

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