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貧乏神はオレンジ色  作者: うわの空
落ちこぼれ
8/10

あったかい

 みやこちゃんのお家を出ていく勇気もないわたしには、十円玉や五円玉を探すことしかできませんでした。


「みゃーこちゃんは、しゃーわせになるの」


 何度くりかえしたって、みやこちゃんが幸せになることはありません。

 わたしのコトバはコトダマではなくて、ただの口ぐせになってしまいました。



 みやこちゃんは、食べ物を買えないくらいびんぼうになってしまったとしても、わたし追い出すことはしないのかもしれない。そう思いはじめていました。

 みやこちゃんは少しずつやせてきていて、それでもわたしのためにあめを買ってきてくれます。

 自分が情けなくて、しかたありませんでした。

 ただでさえ迷惑なびんぼうがみなのに、コトダマすらつかえないなんて。

 わたしは神さまでも何でもなくて、めいわくばっかりかけるただの他人こどもなんだ。


 このお家から出ていかなきゃいけないのに。

 じゃなきゃ、みやこちゃんは幸せになれないのに。


 なのに、一人ぼっちになるのが怖くて仕方ありませんでした。




「ね、みかん。みやこちゃんはさ、お金がなくても大丈夫なんだよ?」

 遊んでいるわたしの後ろから、みやこちゃんは優しい声でそう言ってきました。

 


 大丈夫じゃない。

 みやこちゃんは、大丈夫じゃないのに。


 

 わたしは首をふると、「……みゃーこちゃんは、しゃーわせになるの」と呟きました。みやこちゃんの手も握らずに言ったそれは、ただのヒトリゴトでした。

 わたしはみやこちゃんの顔が見れなくて、見るのがこわくて、トイレの中に閉じこもりました。


 むねの中に何かがつっかえてるみたいで、けれどそれが何なのかは分かりません。

 わたしはひんやりとした床の上に座って、いろんなことを考えました。



 わたしがちゃんとコトダマをつかえたら、今頃みやこちゃんはどんな生活をしていたんだろう、とか。

 

 わたしがびんぼうがみじゃなくて、せめて普通の人間だったら、とか。


 みやこちゃんとわたしは会わないほうがよかったんじゃないか、とか。



――何度言っても叶わないお願い事みたいに、何度考えても変えられないことばっかりでした。




 みやこちゃんと最初にあった日のことを思い出しました。

 あの時ふんわりと笑ったみやこちゃんは、いまでもふんわりと笑っていて。

 けれど今は、無理して笑っているのかもしれない。

 わたしの、ために。





 ざあざあふってる雨を見ながら、わたしは外に出ることを考えていました。

 それは十円玉をさがしに行くためでは、なくて。


「みかん。今日は雨も降ってるし、外に出ちゃダメだよ」


 わたしの考えていたことを知ってか知らずか、みやこちゃんがそんなことを言いました。雨の日は外に出ないように、とはいつも言われているけれど、この日のみやこちゃんはすごくしんけんな顔をしていました。そんな顔を見て、何も言えなくなってしまったわたしは素直にうなずくと、みやこちゃんが買ってくれたおもちゃで遊びはじめました。

 みやこちゃんは、わたしの横に棒のついたあめを三つ置いてから、お仕事に行きました。

 あめは、イチゴ味と、ブドウ味と、わたしの大すきなオレンジ味でした。



 わたしはブロックを組み立てながら、あめをなめながら、どうすればいいんだろうと考えました。

 コトダマもつかえないわたしは、本当にただのびんぼうがみです。

 どう考えたって、みやこちゃんを幸せにしてあげることはできません。


 ブロックを組み立てると、そこにどうぶつの人形を並べて、小さなどうぶつえんを作りはじめました。シマウマ、トラ、ライオン、ゴリラ、イヌ。


――人間じゃなくても、せめてどうぶつに生まれていればなあ、と思いました。

 そしたらきっと、もっと。


 ……神さまが「どうぶつに生まれていれば」なんて考えるのは、おかしいでしょうか。



 わたしはゾウとキリンの人形を持つと、それをどこに置こうかと悩みました。入口から一番ちかいばしょに置くか、それとも、シマウマのとなりに置くか。そのときでした。

 

 体が一瞬うしろにひっぱられて、それからあったかくなりました。


「ただいまー!」


 みやこちゃんの声が耳元で聞こえて、それでようやく、だきしめられたのだと気付きました。




 ねえ。みやこちゃんはどうしていつも、そんなにあったかいの?




 むねにつっかえていた何かが口から出そうで、――けれどそれは口からではなくて、目からボロボロとこぼれてきました。わたしはみやこちゃんには気づかれないように、声を出さないように必死になって息を止めました。けれど、


「……みかん?」


 心配そうな顔でわたしの顔を覗き込んだみやこちゃんは、わたしの顔を見て驚いてから、さっきよりも強く、わたしの体をだきしめました。




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