表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏神はオレンジ色  作者: うわの空
落ちこぼれ
5/10

女の人

 わたしは、おちこぼれの神さまです。



 人間ひとにすがたを見られてはいけないのに、わたしのすがたは人間にも見えてしまうのです。なぜそうなったのかは分かりません。生まれたときから、そうでした。

 わたしは『びんぼうがみ』です。わたしとかかわった人間は、びんぼうになってしまいます。わたしが、そうなってほしいと願っているわけでもありません。なのに、わたしにかかわった人は次々とびんぼうになって、そしてわたしを捨てていきました。


 当然のことだと思います。だって、わたしにかかわったら不幸になってしまうんだから。



 わたしのウワサはどんどん広まっていきました。目に見えるびんぼうがみなんて、かんげいされるはずがありません。

 みんなでわたしのことを指差してわらったり、……こわい人だと、わたしをなぐったり、けったりしました。

「貧乏神なんて存在するから、人間は不幸になるんだ」

 と、ずっと言われつづけてきました。



 そのうちわたしは、話せなくなってしまいました。

 声はでるのに、人間の前で話すのが、とてもとてもこわいのです。

 わたしが話すとバカにしたように笑ったり、おこったりする人も多くて、それがこわくて、わたしは声をだすのをやめました。


 そして、ものかげにかくれて、くらすようになりました。

 だれかに見つけられると、すぐにいじめられてしまいます。

 だからわたしはいつも、たいようの光もあたらないような場所で、だれにも見つからないようにじっとしていました。

 それでも人間に見つかってしまうときがあります。そんなときはいっぱいなぐられたり、笑われたりしました。




 あの日もわたしは人間に見つかってしまって、逃げているところでした。

 けれどどこに行っても、わたしが存在いてもいい場所は見つかりません。


 わたしは道ばたに座ると、だれにも見えないように顔をかくして、泣いてしまいました。そのあいだもずっと、みんなの笑う声がきこえてきます。それは、とてもこわくて、さみしくて。



「……どうしたの? 道に迷ったの?」



 やさしい女の人の声がふってきたのは、そんなときでした。「お母さんとお父さんは?」という声に、泣きやんだわたしはようやく顔をあげました。


 そこにいたのは、ふわふわのかみの毛がよく似合っている、女の人でした。顔が少しだけ赤くなっていて、この人もきんちょうしているんだと、わかりました。

 神さまには、お父さんもお母さんもいません。わたしがだまっていると、

「自分のおうち、どこだかわかる? お名前は?」

 女の人はこまったように、そう聞いてきました。声をだすのがこわくてだまっていると、女の人はわたしの頭をなでました。


 だれかにやさしくしてもらえるのは本当にひさしぶりで、わたしは泣き出しそうになるのをこらえました。


「……お家がどこにあるのか分からないなら、おまわりさんに訊きに行こうよ。お姉ちゃんも一緒に行くから」

 女の人はそういってくれたけど、わたしに家なんてありません。わたしが首をふると、女の人はしばらくしてから、

「……私の、――お姉ちゃんの家に来る?」

 そう言いました。


 わたしはびっくりして、女の人の顔を見ました。ふわふわしたかみと、ふわふわした笑顔が、そこにはありました。



 この人は、わたしの貧乏神しょうたいをしらないんだ。



 どうすればいいのかわからなくて、わたしがだまっていると、女の人はスーパーの袋から棒のついたあめをとりだして、わたしにくれました。

 何かをもらうのもひさしぶりで、わたしはどきどきしながらそれをもらいました。

「行こっか?」

 女の人がやさしい声でそういって、わたしは思わずうなずきました。


 その人の家にわたしが行ったら、どうなるかは、わかってました。



「あいつ、貧乏神を拾っちゃったよ」



 そんな声が、どこからともなく、聞こえてきました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ