女の人
わたしは、おちこぼれの神さまです。
人間にすがたを見られてはいけないのに、わたしの体は人間にも見えてしまうのです。なぜそうなったのかは分かりません。生まれたときから、そうでした。
わたしは『びんぼうがみ』です。わたしとかかわった人間は、びんぼうになってしまいます。わたしが、そうなってほしいと願っているわけでもありません。なのに、わたしにかかわった人は次々とびんぼうになって、そしてわたしを捨てていきました。
当然のことだと思います。だって、わたしにかかわったら不幸になってしまうんだから。
わたしのウワサはどんどん広まっていきました。目に見えるびんぼうがみなんて、かんげいされるはずがありません。
みんなでわたしのことを指差してわらったり、……こわい人だと、わたしをなぐったり、けったりしました。
「貧乏神なんて存在するから、人間は不幸になるんだ」
と、ずっと言われつづけてきました。
そのうちわたしは、話せなくなってしまいました。
声はでるのに、人間の前で話すのが、とてもとてもこわいのです。
わたしが話すとバカにしたように笑ったり、おこったりする人も多くて、それがこわくて、わたしは声をだすのをやめました。
そして、ものかげにかくれて、くらすようになりました。
だれかに見つけられると、すぐにいじめられてしまいます。
だからわたしはいつも、たいようの光もあたらないような場所で、だれにも見つからないようにじっとしていました。
それでも人間に見つかってしまうときがあります。そんなときはいっぱいなぐられたり、笑われたりしました。
あの日もわたしは人間に見つかってしまって、逃げているところでした。
けれどどこに行っても、わたしが存在もいい場所は見つかりません。
わたしは道ばたに座ると、だれにも見えないように顔をかくして、泣いてしまいました。そのあいだもずっと、みんなの笑う声がきこえてきます。それは、とてもこわくて、さみしくて。
「……どうしたの? 道に迷ったの?」
やさしい女の人の声がふってきたのは、そんなときでした。「お母さんとお父さんは?」という声に、泣きやんだわたしはようやく顔をあげました。
そこにいたのは、ふわふわのかみの毛がよく似合っている、女の人でした。顔が少しだけ赤くなっていて、この人もきんちょうしているんだと、わかりました。
神さまには、お父さんもお母さんもいません。わたしがだまっていると、
「自分のお家、どこだかわかる? お名前は?」
女の人はこまったように、そう聞いてきました。声をだすのがこわくてだまっていると、女の人はわたしの頭をなでました。
だれかにやさしくしてもらえるのは本当にひさしぶりで、わたしは泣き出しそうになるのをこらえました。
「……お家がどこにあるのか分からないなら、おまわりさんに訊きに行こうよ。お姉ちゃんも一緒に行くから」
女の人はそういってくれたけど、わたしに家なんてありません。わたしが首をふると、女の人はしばらくしてから、
「……私の、――お姉ちゃんの家に来る?」
そう言いました。
わたしはびっくりして、女の人の顔を見ました。ふわふわしたかみと、ふわふわした笑顔が、そこにはありました。
この人は、わたしの貧乏神をしらないんだ。
どうすればいいのかわからなくて、わたしがだまっていると、女の人はスーパーの袋から棒のついたあめをとりだして、わたしにくれました。
何かをもらうのもひさしぶりで、わたしはどきどきしながらそれをもらいました。
「行こっか?」
女の人がやさしい声でそういって、わたしは思わずうなずきました。
その人の家にわたしが行ったら、どうなるかは、わかってました。
「あいつ、貧乏神を拾っちゃったよ」
そんな声が、どこからともなく、聞こえてきました。




