連載になるかもしれない、ネタ。3
ここまでくると、連載か?
湯浴みを終えた、就寝前のひと時。
火照った体を冷ますために、バルコニーへと足を運んだ。
月が綺麗な、夜。
昼間の熱気が嘘のように、清涼な風が髪を乱す。
「風邪をひく」
突然かけられた声。
しかし、驚きはない。
この部屋に、無断で入れる者など、ただ1人しかいない。
「陛下・・・ 今宵は、こちらでお休みですか?」
ここに来るなど、珍しい、と笑う。
後宮に数多控える側室の、隣こそがこの方の寝所であろうに。
「王妃の、妻の隣では眠らせてもらえぬのか?」
子をもうけた王妃など、気遣う必要もないであろうに。
この夫は、定期的にここを訪れる。
わたくしに気遣っているのか、体面を気にしているのか。
それとも・・・
「わたくしが、どうして否を申しましょうか」
我が子に、苦情を進言されたか。
潔癖のきらいのある我が子は、父王の好色を毛嫌いしている。
後宮など、解散してしまえ、と声高に言う。
手を引かれてテラスより室内に戻れば、その暖かさにホッとした。
思いのほか、体が冷えていたらしい。
「1杯、付き合わぬか?」
そう言って差し出された、ワイン。
それに、夫がここを訪れた、本当の理由を悟った。
淡く微笑み受け取って、夫からの杯を受ければ、どこか安堵の表情。
これは、わたくしが、了承を返す時の合図。
注がれたワインに口をつけ、夫の言葉を待つ。
「新しく、側室を迎えようと思う・・・」
珍しく、言葉を選ぶように逡巡していたが、結局、何も飾らぬままに告げられた。
思った通りの内容に、知らず口角が上がった。
「陛下の御心のままに」
躊躇いもなく返した了承に。
それを見た夫の、なぜか顔に浮かぶのは、苦笑。
「オマエは、いつも、ただ、そう言う」
聞き分けの良い、良すぎるわたくしに、夫は不安になるという。
わたくしが、この国に嫁して、この国の王妃になって早10年。
その間に、既に20人もの側室を新たに娶った夫。
側室を迎えるたびに繰り返されてきた、この、やり取り。
「わたくしは王妃。陛下の、唯一の妻でございます」
公式の場に、国王と並び立つのは、ただ1人の王妃のみ。
外交の場に、国王とともに訪れるのは、ただ1人の王妃のみ。
後宮から出られぬ側室など、気にする必要もない地位に立つ、王妃という身分。
公的に国王の妻と認められるのは、王妃ただ1人。
「王太子は、そうは言ってはくれなんだ」
先に告げた王太子には、激しい嫌悪を向けられたという。
母上のお気持ちを、もっと考慮すべきだと、激しくなじられたという。
愛しい我が子の言い分が、夫に一瞬の逡巡をもたらしたのだと知った。
「そなたは、本当に、嫌ではないのか?」
何をいまさら、と笑う。
嫌だと言ったところで、この夫が側室を迎えるのをやめるとは思えない。
「わたくしより他に、陛下のお子を宿す者が出てこぬ限りは」
事実、嫌ではないのだが。
そう、うそぶく。
「その側室の姫君にも、陛下のお子が宿ることはありませんもの」
種の無い夫との、奇跡の子は、わたくしの愛しい子たちだけ、なのだから。