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Private Kingdom 15

15、

 「強姦レイプされたんだよ。その組織の連中に…さ」

 と、メルは言った。


 それに返事もせずに、俺はイシュハが用意していったお茶を飲む為、テーブルの椅子に座った。

 ティーポットに入れられた茶葉が踊っているのを見届けて、ティーカップに注いだ。

 イシュハはご丁寧にミルクまで用意していたが、俺には不用だ。

 だが、俺と違って、セキレイは酒飲みのクセにミルクティに角砂糖を三つも入れる。

 彼が豚になったら絶交だ。

 ん、さすがにいい茶葉だけあって、美味い。いつも飲むティーパックとはえらい違いだ。

 まあ、そんなことよりも…メルなのだが…


 メルの言ったことが本当であっても、衝撃を受けるほどでもない。

 大体おかしいだろ。メルだって相当遊んでいるのにさ。

 バージンでもありもしないクセに、強姦されたからって落ち込むタマかよ。

 ま、キリハラとメルの言う事を真に受けたとして、イルミナティ・バビロンがロクでもないってことだけは承知してやろう。

 しかし、せっかく「senso」の秘密を探ろうって思ったのに、これじゃ期待できそうもないじゃないか。

 こっちは早くセキレイを還してやりたいって思っているのにさ…


「ちょっとアーシュ。なに優雅にお茶を飲んでいるんだよ。レイプされたかわいそうな僕を慰めようってと思わないのか?」

「レイプされて落ち込んでいる人が、昼間から恋人のベッドに寝てないだろう。あなたの恋人だって心配している風もなかったしさ。ま、確かに好きでもない奴とセックスするのは嫌だろうけどね、この学園じゃ取引のセックスなんて日常茶飯事だろ?特に高等科の性の規律は緩い。それでも許されるのはすべてが秘密裏に行われるからだ。犯す側も犯される側にも何らかの徳があるんだろうけどね」

「得なんて無いさ…僕にもお茶を用意してくれないかい?」

「…どうぞ」

 俺はティーカップにミルクとお茶を入れて目の前に座ったメルに差し出した。

「砂糖はいる?」

「入らない」

 メルは紅茶をゆっくり飲み始めた。

 …充分落ち着いているじゃないか。俺が心配することなどないだろう。


「レイプされて落ち込むあなたじゃないよね。他に何かあるの?」

「確かに、好きでも無い奴と無理矢理やるのは、身体は痛いし、プライドも傷つくけどね。問題はそこじゃなくてさ…イシュハが言ったろ?イルトに逆らえない従属関係って奴だ」

「…」

 ふ~ん、そう。そっちの傷が大きいわけ。

 だが、それについては俺も充分興味があった。

 

「あれって、アルトが心を許している奴にだけ発動するんじゃないの?」

「そうだと思っていたんだ。イシュハと付き合って僕も充分認識していたからね。だけど、こちらの好き嫌いに関係なく、精神力の強いイルトには、逆らえないって身を持って知ったんだ。…正直、ショックだった。あれだけの精神力をもてば、もうイルト(普通)とは言えまいがね」

「ホーリーのあなたでさえ、意思を曲げられたの?そりゃ、とんでもないね…そいつが今のイルミナティ・バビロンのボスって言う事か…なんて言うの?そいつ、最上級生?イシュハに聞けばわかる?」

「好奇心もほどほどにしないと、いくら君でも、傷つくことになるよ」

「何?俺がそいつに逆らえないって?この俺が?」

「君は強いし、選ばれし者かもしれないけど…未熟な子供だよ。まだ14にもならない君が、奴に楯突くのは勧めない」

「じゃあ、メルは自分を傷つけた奴をこのままほおっておくわけ?」

「一年経てば、あいつらはここから卒業する」

「それまでメルはそいつらに従うわけ。嫌な奴とセックスを強要されても我慢するわけ。それ変だと思わねえ?…俺、全然納得いかねえんだけど」

「…」

「俺はさ、エドワード…ベルの叔父さんでここの卒業生ね。彼にイルミナティ・バビロンっていう存在を教えてもらったんだ。先生達に秘密裏で、アルトの生徒たちで魔法を高めあい、『senso』を解明していく秘密結社『イルミナティ・バビロン』。キリハラだって学生の頃はその組織の一員だったんよ。すげえかっこいいじゃん。…俺ね、セキレイを両親の元に還したいの。だから還す為の『senso』をどうしても見出したいの」

「…アーシュ」

「メルに近づいたのだって、セキレイを還したいって思ったからだよ。でもメルと寝るのは俺が望んだんだ。メルが好きだからね。誰でも良かったわけじゃないよ。好きな人とセックスするのは気持ちの良いことでしょ?好きな人は大事にしたいって思うでしょ?だから俺の好きなメルに、好きでもない奴と寝て欲しくないわけだ。わかるだろ?」

「わかるけど…」

「メル、俺の事、強いって言ったじゃん。選ばれし者だって、王だって言ってくれたじゃん。俺は誰にも負けやしないよ」

 メルは今にも泣きそうな顔をして俺に近づき、俺を優しく掻き抱いだ。


「それで…あんたをやった奴は誰?」

「…言えない」

「何故?」

「言いたくないからだよ」

「言わなきゃ俺、復讐できないんだけど」

「だから言ってる。アーシュは何もしなくていいんだって…。何度も言うけど、アーシュはまだ13にも満たない子供だ。僕は年少の君を守る義務がある。君があいつらに関わるのを僕は求めてないんだよ」

「じゃあ…」

 俺はメルの腕を引っ張り、無理矢理ベッドへ連れて行く。

 メルをシーツに押し付けて、仰向けになった身体の上に跨った。

 バスローブの紐を引き抜き、メルの両手首に巻きつけて、自由を奪う。

「何だよ、アーシュ…やめろよ」

 お互いの口唇をあわせ、舌を絡ませる。メルは本気で逆らったりしない。

 甘いキスを充分に味わって、ゆっくり離れた。

「だって、無理矢理じゃないとあなたは白状しないじゃないか。いい?良く聞きなよ。あなたが言いたくなくても俺はイルミナティ・バビロンの情報を必要としている。それを得る為には、あんたが犯られた記憶を覗けば済む話だよね」

「…」

「俺はあんたと何回も寝てるから『senso』の接続は容易く繋げる。入れなくても刺激を与えるだけで、あんたの頭の中を覗けるってわけ。どう?」

 喋りつつ、メルの肌に直接触れて、メルの感じる場所を刺激する。

 メルは何も言わず、口唇を噛んでいる。


「…なんつってね」

 そう言って、メルの身体から降り、メルの傍らに寄り添った。

「人の意思って言うのは難しく、本当は好きなのに、嫌いなフリをする奴もいるし、嫌がったり抵抗する者を無理矢理自分の意に従わせたりするのを好む奴も多いけどさ。俺は根本的にそういうのは嫌いなわけだ。望むのなら真正面から来いって話。メルは多分俺が何をしても許すんだろうけどさ、それでもメルが俺を欲しいと思った時にセックスしたいって思うんだよね。これってガキの考える哀れなポエムなのかな?」

「…いや。アーシュは正しいよ」

 メルは横になった俺の顔を撫で、「…好きだよ」と、呟いた。

 俺の手を取り、その甲に深く口づける。


「…僕を犯した奴は…イルミナティ・バビロンのボスは三年のジョシュアって言う男だ。とても強い精神力を持っている。それに抵抗できなかった僕自身が弱かったんだ。彼に好意を持っているはずはないって思っていたのに、どこかで惹かれていたのかもしれない…そう、思わせるほど、感じさせられた…」

「…ふ~ん。メルがそこまで言うのならすごい奴なんだろうね。益々そそられるね。ね、その話イシュハは知っているの?」

「彼には言ってないよ。ジョシュアは彼の再従兄弟はとこで、幼馴染みでもあるからね…言えないよ」

「そりゃまた複雑だな」

「イシュハは彼がイルミナティのボスだって知らない。逆にジョシュアを心配しているんだ。ジョシュアの家庭事情も結構複雑らしいからさ。だから、僕の事で彼を悩ましたくはない」

 メルって思ったよりも随分繊細だ。よほどイシュハがお気に入りなんだな。

 ちょっと妬けるかな。


「OK!わかった。この件は俺に任せてくれる?」

「アーシュ」

「メルにもイシュハにも迷惑がかからぬように細心の注意を払い、そして俺の目的に辿り着くように…仕掛けるからさ」

「…君って子は…」

「まあ、メルは高みの見物をしておいで。じゃあ、セキレイが怒っていそうだから、今日はこれで帰るよ」



 急いで中等科の宿舎に戻って、自分の部屋に駆け込んだら、案の定セキレイとベルが二人揃って仁王立ち。俺を睨みつけていた。

「遅いっ!何してたんだよ、アーシュ」

「今日は三人で秘密基地で過ごそうって約束してただろっ!」

「あ、ゴメン。忘れてた」

「ずっとふたりで君を待っていたんだからね」

「だからさ…」

「高等科の寄宿舎で何してたか、白状しないと、君とはもう絶好だから」

「セキレイ…」

「ルゥの怒りはもっともなので、右に同じでよろしく」

「ベルまで~。言うよ。正直に言うから、許してくれよ」


 俺にとってセキレイとベルはこの世で一番大事な絆で、彼らが望むならなんでもしてやりたい。

 彼らを傷つける者から守ってやりたい。

 それが俺の望みだからだ。

 だからさ、その為の力を得るために、俺は誰にも負けない力を得たいんだ。





アルト…魔力を持つ者。

イルト…魔力を持たない者。

ホーリー…「真の名」を持つ魔力の強いアルト。




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