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Private Kingdom 11

11


 俺とセキレイは文字通りつがいになることができた。

 その後は、三日と空けず、ふたりして「senso」を楽しむ事に没頭した。

 するとある事に気づく。

 セキレイとふたり、何回トリップしても同じ場所しか行けないのだ。

 即ち、あの宇宙の果てみたいなふたりきりの世界が待ち受けている。

 それはそれでロマンチックと言えるだろうが、同じ場所と言うのがどうも腑に落ちない。


 「天の王」の図書館で調べ尽くした知識では、「senso」は時間、場所、次元を超えて、関わった者の記憶のすべての場所へ移動できるはずだ。

 勿論これは「senso」の一部分の力の利用だ。

 「sanso」は一般的な超能力とされるPSIサイよりは、遥かに高度で、かつ難解な魔術と言って良かった。


 セックスで快感を得ることはお互いにとって大事な情感だ。

 お互いがオーガズムを感じる時、大抵誰もが真っ白になると言う。

 その暗闇から光を差し込む暁闇こそが、エクスタシーの到達点であり、「sonso」が発動する。

 甘美なまどろみに酔いながら、脳のある中枢の「力」を司るシナプスのネットワークを僅かな記憶のシグナルへと繋げる。しかも、リアルである「現身うつしみ」をも、移動させる力と制御システムは相当な魔力を使いこなす者で無いと到達することは難しいとされる。

 ハイアルトは「senso」の力を潜在的に持った人間だ。

 それを使いこなせる力量は勿論、それぞれの意識にある。

 だから「力」とは潜在的な能力と、それを使いこなせる「精神力」を持たなければ、意味が無いと言えるだろう。


 俺には目的があった。

 セキレイを本当の両親の元へ還したい。

 彼が望んでサマシティに現れたわけじゃない。

 もし両親が望んでこの街へ彼を導いたとしても、セキレイ自身はその理由が欲しいのではないか。

 俺は彼に「セキレイ」と言う名を与えた。

 トゥエはそれを承知した上で「ルゥ」と「真の名」を与えた。 

 何故、学長は俺の元に彼を置くことを承知したのだろう…

 俺が望んだからか。セキレイが「ルシファー」だからなのか。

 トゥエはセキレイの本当の姿を知っているのではないだろうか。


 俺はセキレイが自分の運命を自身で選んで欲しいと願っている。

 俺に引きずられる事無く、自分で掴まなければ、彼はきっと後悔する。

 俺を恨むかもしれない…そう感じていた。

 そして、セキレイ自身、悩んでいることにも気づいていた。

 俺達はもうすぐ13になる。

 もう自分が何者か知ってもいい年頃だろう。

 「ルシファー」と言う名が何の為に彼に与えられたのか、彼はそれを知りたがっている。


 俺はといえば、自分の力を疑ってはいない。

 その「力」がどこから来たのか。セキレイと同じく、両親は一体どんな奴らなんだろうとか…考えないわけでもない。

 だからこそ「senso」を自分のものにしたい。

 自分だけではなく、セキレイの本当に還りたいと願う場所に辿り着きたい。

 そこへ送り届ける事こそが、俺のセキレイへの愛情のような気がする。

 また、それを乗り越えなければ、俺達は本物の番いにはなれないだろう。


 大人になるには辛い事が山ほどある。

 力があればその力にこそ、傷つくことだろう。

 与えられた試練を楽しむ精神は、他人を傷つけても構わないぐらいに勇ましいものになる。

 「悪」とは何だ。「善」とは何だ。

 一方を救えば一方が倒れる。両方とも救おうなど、無理難題。

 「光」とは何だ。「闇」とは何だ。

 どちらが正しくて、間違いだと決められるはずもない。

 神話では「アスタロト」は天界と魔界を行き来し、最終的には魔界の王となった。

 彼はどうやって選択したのだろう…

 もし、俺が「アスタロト」ならば、と考える。

 即座に言えることは、俺は俺の大事な者を守る為に、どちらかを選ぶだろう。

 それが俺の求める未来だからだ。


 結局、セキレイとのセックスでは、求める場所を得られなかった。

 何故かはわからない。

 俺のようにここで生まれた者には、生まれてからの記憶はすべて取り出すことが出来るのに、ここに辿り着くまでの4歳までのセキレイの生きてきた記憶は一体どこにあるのだろうか。

 セキレイの脳に刻まれた記憶が、何かで封鎖されているとしか考えられなかった。

 その鍵を俺が開けるしかないなら、力のある者と交わって「senso」の力を導き出すしか、方法が無いのではないのか。



 「天の王」図書館の司書キリハラはエキゾチックな東洋人だった。

 彼は力のあるハイアルトだ。

 この街では珍しい黒髪であることも、俺にはなんとなく親しく感じられたから、彼との接触を試みた。 

 即ちセックスをしたいと申し出たわけだ。だが彼はのらりくらりと俺の誘いを断わりやがった。

 その理由を問いただすと、「学長から止められている」と、言う。

 なんでトゥエがキリハラとのセックスを止める。そんな勝手知ったことか!

 それを責めると今度は「君はまだ子供だから」と、来やがった。

 隣りに居たメルがニヤニヤしている。

 あんまりムカついたので、蹴りでも入れてやろうと思ったが、キリハラはカウンターの向こうで、知らんぷりを決め込んでいる。

 捨て台詞を吐いて図書館から出て行った。

 キリハラのバカ野郎!どうせ、すぐにメルとやるクセに。

 テメエから頭を下げてきたって、絶対寝てやらねえからなっ!

 

 頭に来たついでに、その足で隣りの聖堂へ向かった。

 この時間なら、トゥエはきっとここに居るだろう。

 聖堂の重い扉を開けて、光を集めて煌くステンドグラスにしばらくまどろんだ。

 何故か、ここに来ると懐かしい気持ちになる。

 俺がここで生まれたからだろうか。

 尖った心が穏やかになっていく。


「アーシュ、君なのか?」

「そうです」

 トゥエの俺を呼ぶ声はいつも暖かい。信用ならねえ奴と思いつつも、俺の心はいつだって、信頼を寄せているのだ。

「何か悪さでもしたのかい?」

「なんで?」

「反省の告解でもしに来たのかと思ったのだが…」

「俺が反省なんかするわけないでしょう。あなたの愛人のキリハラが俺に無関心を装うから、腹が立ってあなたに八つ当たりに来たんだ」

「…」

 適当な作り話を、交えたつもりだが、否定もしないところをみるとまんざらホラでもなさそうな雰囲気だ。

 俺はちょっとショックだった。父ちゃんを寝取られるってこんな気分なのかね。


「大体、学長はなんで俺とキリハラが寝るのを止めるんだよ。キリハラは求められれば誰でも寝てくれる良い先生なんでしょう?」

「アーシュは私の子供みたいなものだから駄目です。キリハラ先生にはあげられませんね」

「は?なんでだよ!あいつは、力の使い方を知っているハイアルトだ。どうしても俺は『senso』の導きを知りたいんだよ。あいつと寝れば…」

「…ルゥを還してあげたいのだね」

「…」

 やっぱりトゥエは知っているんじゃないか。だったら…

「キリハラが駄目なら、トゥエだっていい。俺に『senso』を教えてよ。セキレイの記憶を戻してやってよ。頼むから」

「…ルゥは無意識のうちに自分で記憶を閉ざしている。それを戻すやり方は幾らでもあるが、これはアーシュにしかできないことだよ」

「なぜ?」

「君が彼を選んだからだ」

「…だから、俺が還さなきゃならないんだろ?…わかってるよ…」

 トゥエは真実しか言わない。それが辛かった。


「アーシュならやれる。君の力は無限に等しい。天にも地下へも君は行ける者だからね」

「トゥエは口ばっかりだ…俺が本物の『アスタロト』みたいに言うんだから」

 俺は少し不貞腐れて、トゥエを責める。

 トゥエは優しく見つめたまま、黙って頷いた。




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