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Private Kingdom 7

7、

 互いのパジャマを脱がせ、身体の輪郭を確かめ合った。互いのものを握り、昂ぶるのを待った。

「俺が…入れる方でいいの?」

「…うん、その方が自然だろ?」

「…」

 どこが自然なのかさっぱりわからない。入れる側入れない側の決めてなんて一体あるのだろうか。


「アー…シュ」

 泣きそうな声で呼ばれた。

 セキレイの両膝を広げ、俺は自分の昂ぶったものをセキレイに押し付けた。

「…っ」

 俺の背中を抱くセキレイの指の強さが、拒否なのか期待感なのかいまいちわからない。


 この先どうしたらいいんだっけ…えーと…まずスムーズにいく様に、慣れさせなきゃならな…

 …あ!しまった!…ローション忘れた。

 なんてことだ。こんな急とも思わないからスキンすら用意してなかった。

 ベルなら持っているだろうが、こんな恰好で今更借りに行けるわけも無い。

 どうしよう…

 このまま、続けていいものだろうか…痛がったりしないものだろうか… 

 俺は滅茶苦茶焦っていた。


「アーシュ、どうしたの?」

「な、なんでもない。えーと…入れてもいい?」

「…う、ん」

 暗くて顔色までは良くわからないけど、声の加減でセキレイも不安なのがわかった。

 だけど俺が欲しいと言うセキレイの気持ちを裏切るわけにはいかない。

 俺は覚悟してセキレイの中に入り込もうとした。


「う…い、痛い…」

 噛み締めた唇から、悲鳴が漏れた。

 身体が捩れた。痛みに耐え切れず逃げる身体を引き戻していいものか、俺は悩んだ。

「セキレイ…やめようか」

「いやだ。いやだよ、折角アーシュとひとつになれるのに…」

「だって…泣いてるじゃないか。痛いんだろ?」

「…」

 セキレイは黙ったまま目を閉じた。目じりから零れる涙が見えた。

 

 …なんだか可哀想になってしまった。

 これ以上続けても今の俺にはセキレイを気持ち良くさせてやることはできないと、わかってしまったんだ。


「ゴメン、セキレイ。やめよう」

 俺はセキレイの身体から離れた。

「え…どうして?」

 先程とは比べ物にならないほどの、しょぼくれた声だ。

「アーシュ、怒ったの?僕が泣いたから?痛がったから?」

「そうじゃないよ。俺の方が拙かったんだ。ごめんね、セキレイ。…ごめん」

「…」

 セキレイはもう何も言わず、裸のまま毛布を摺り上げて俺に背中を向けた。

 セキレイもそうだろうが、俺の方もかなりのダメージで、その背中にどう言葉をかけていいのかわからない。


 お互いを繋げるのがこんなに難しいなんて…思いもよらなかったから、俺はこの状況にどう立ち向かっていけばいいのか、正直自信をなくしてしまった。

 静まり返った暗闇の中、セキレイの鼻を啜る音だけがいつまでも響いて、俺は後悔と自信喪失とセキレイへの同情で居たたまれずに、とうとうベッドから抜け出し、部屋を出た。


 深夜の徘徊なんて珍しいことじゃない。

 今日は満月だから、皆それぞれに盛っているに決まっている。あられもない嬌声だって聞きたくなくったって自然に耳に聞こえてくる。

 なんだか自分がつまらないものに思えた。

 寄宿舎の一階の食堂に行き、テラスへ出る扉を開けた。

 眠れる気分になるまで月でも見ていようと思ったんだ。


 テラスの向こうに芝草のベンチに座る月影が見えた。

 影の長さから上級生だろうと思った。変な奴に声をかけられるとやばいと思って、引き返そうと踵を返した。

「誰?」

 声を掛けられる。

 逃げるにしても一応挨拶だけはしておこうと、できるだけ近寄らずに「一年のアーシュです」と、応えた。

「アーシュか。なにを遠慮しているの?こちらへおいでよ」

「いや、いいです。お邪魔でしょうから」

「アーシュ、僕だよ。メルだ」

 メル…保育所で一緒に過ごしたふたつ上のメルなのか?

 半信半疑で姿を確かめるためにそっと近づいた。


「君も月光浴を楽しんだら?空気は冷たいけれど、澄んでいるから気持ちがいい…なおざりなセックスよりもね」

 メルが笑ったような気がした。同時にメルの言葉はなんだか俺の心を軽くした。

 

 すらりとした痩身でアッシュブロンドの長い髪、幼い頃から無口でおとなしく人と交わらない印象がある。

 久しぶりにメルを見た気がした。

 隣りに座るように薦められ、言うとおりに座った。

「君、そんな恰好で寒くないかい?」

「ああ…」

 何も考えずパジャマのまま部屋から出てきたんだ。

「これを貸してあげる」

 メルは首に巻いていたマフラーを外して、俺に巻きつけてくれた。

「少しはマシだろ?」

「ありがとうございます」

 メルはふふと笑い、また月を仰ぎ見る。

 俺はその横顔を見つめた。

 俺は今までこの先輩をよく知ることはなかったが、こんなに傍にいて少しも不快感はなかった。


「どうしたの?僕の顔に何か付いてる?」

「不思議だなって思ったから」

「なにが?」

「同じ寄宿舎に居るはずなのに、あまり見かけないから。昔からそうだったけど、俺、あなたと遊んだ印象がないんだけど」

「それは、君の視界に僕が居なかったからだよ。自分が必要とする時にしか見えない、見ようとしない。そんな人は多いからね」

「そうかなあ」

「昔から君にはルゥしか見えていなかった…だろ?」

「…そうかもしれない」

「僕はいつだって君を見ていたのにね…いつも残念に思っていたよ」

「え?」

「でもこうやって今、君は僕を捉えた。君が僕を必要としているって事かしら」

「…」

 心を見透かされているようできまりが悪かった。


「いい満月だ。『力』が満ち溢れてくる」

 メルの言葉に俺も夜天を仰いだ。

「月は何も求めないでも、こうしてエネルギーを僕らに与えてくれる。ねえ、駆け引きもテクニックもパッションもいらない。ただ『官能』を感じていればいい…」

 月にかざしたメルの両手が白く光っている。

 「官能」のエネルギーって…一体なんなんだろう。


「…俺にも、それを受け取ることができる?」

 メルは驚いたように俺を見た。

「君に出来ないことなんて、あるのかい?」

 首を傾げて俺に微笑むメルに、すべてを委ねてしまいそうになる。

 セキレイはひとりで泣いているのに、自分だけ楽になろうなんて、なんて身勝手なんだろう。

 しかもセキレイを泣かせている原因は、浅はかな俺の行動なのに…

 今の自分には月の光でさえ、眩しすぎて見上げられない。


「俺はね、メル…今日まで自分にできない事なんて無いなんて、思ってた。でも本当はなんの力もない。…つまらない男なんだ」

「何かあったのかい?」

「…」

「なんて聞かないよ。誰だって落ち込む時はあるものだもの。無理に浮上しなくてもいいんだよ。なんにしたって、明日はやってくるからね」

「…うん」

 メルは黙って震える俺の身体を抱きしめてくれた。

 気紛れな同情でも、この夜の俺はその温もりがありがたかった。




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