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Private Kingdom 5

5、

 「力」の話を少しだけしよう。


 我々アルトが持っている「力」はいわゆる超能力的なものから、明日の天気占いのようなものまで、とてもアバウトで幅がある。

 能力はうまれ持ったモノであり、学習して「力」が得るものではない。

 ノーマルな人間界の支配するこの街では異端である「力」を持つ「アルト」だが、ノーマルな人間、つまり「イルト」にとって本当に忌み嫌われるべき者なのかは疑問に思う。

 何故なら能力のあるアルトを使いこなすイルトこそ、成功する者だと言われているからだ。

 確かに多くの実業家や政治家の傍らには必ず、影のように魔法使いが寄り添っている。

 だが、魔法使いが自ら名を打ちだし、イルトの前に出た形跡は、殆どない。

 魔法使い、即ちアルトが何故イルトのしもべの如く扱われるのか。

 学者の間でも何度も問われてきた謎だった。

 俺の考えでは、アルトは同じアルトを心から信用することができないからだと思う。

 お互いの「力」の差をいつも気にしながら、相手の考えすら読むことができないなんて、傍にいるだけで疲れる果てる。

 またアルトの「力」の源は「senso」、感応力とも言われるが、それはお互いへの信頼する力とも言える。

 お互いを訝るアルト同士では折角の能力も生かしきれない。

 だが、もしアルトが信頼するイルトと出会い、イルトの愛を勝ち得たなら、「力」は膨大な魔力を得ることになる。

 魔法使いが望むものは自分の力を使いこなす受け皿の存在としてのノーマルな良きイルト、と、いう事にならないだろうか。


 「天の王」は多くのアルトが集まる場所だが、結局はイルト中心のこの街でアルトが生き残る為には、持っている「力」の暴走を押さえ、イルトと上手く共存していく為の方法を学んでいく場所…のように思えてならないのだ。

 事実、アルトの多くが、自分より弱く、純粋に自分を頼ってくるイルトの為に「力」を使いたいと思っている。つまりは自分の自尊心がそれで満たされるわけだ。

 いや、それだけではなく、アルトにはイルトに背けぬように仕組まれている何かがあるような気がしてならない。それが潜在的なものなのか、後天的に何かが仕組まれているのかはわからないが…


 例えていうなら、ベルだ。

 ベルは彼をレイプした叔父を最初から憎む気持ちはあまり生まれてこなかったと言う。彼を許して彼を支配することこそが、自分のするべきことだという。

 彼の叔父のエドワードはアルトだというが、力はベルと比較にはならない。(実際俺は彼と会ってその能力を見極めた。)

 自分より力のない者を守りたいという欲求(これはもうアルトの宿命かも知れない)は、アルトの生きていく糧になるのかもしれない。


 俺自身を問えば、他のやつらとはどうも違う気がする。

 それを上手く言葉で表せないのだが、守るべき家族もまた守りたいイルトもいない現在いま、有り余る「力」をどう使うかは、まだ定められていない。

 


 「力」は学習するものではないと学校では教えられるが、使いこなす技を知ることは必要だと、「力」を使い始めてわかってきた。

 天気や恋占いなど心理的な「魔法力」は直感だが、俺はPSI全部を使いこなす魔法使いを望んでいた。

 俺は自分の「力」を疑ったりしない。

 幼い頃からこの場所でセキレイやベル、そして仲間と「力」を試してきた。

 そしてそれを知りながらこの学校の教師たちは黙認している。

 これをどう取るかは、難しい話になる。

 つまり「アルト」の存在意味をどう捉えるかだ。


 彼らは(又は我々は)今まで通りの従属を願うのか、それともこの秩序をひっくり返す革命を求めているのか…

 

 いずれにしても、この話はまだ早い。

 俺はまだセキレイとの恋物語を話していない。


 今はここに居ないセキレイを想う時、どうしても別れの悲しさが襲ってくる。

 あの子を見つけた時から、俺はセキレイを一生の恋人であれば、と、願ったものだった。

 それを打ち明け、セキレイもまた、俺の傍にずっと居ると誓ってくれた日々を俺は信じていた。

 「愛している」と、言ってくれたじゃないか。「ずっと離れない」と…

 別れて随分経つけれど、想いは少しも減らず、悲しみもそのまま、ただ願いだけが膨らんでいく。

 俺は諦めたりしたくない。




 初等科を卒業して、西館の中等科に俺達は移った。

 制服も変わるし、今までとは違い寄宿舎もそれぞれひとり部屋になる。

 一年生は二階、二年は三階、三年は四階に別れていて、先輩方と顔を合わせるのは食堂や風呂場ぐらい。

 一学年しか違わないのに、彼らは皆大人びて、どことなく妖しい雰囲気が漂う。

 部屋の鍵や窓を閉めておかないと、発情した奴が夜這いに来るかもしれないと、冗談とも本気ともつかない忠告を耳元で囁かれる。


 ハイアルトである俺達には、力ずくで襲われることはないが、少なからずレイプされた奴の話を聞いていた。

 ところが、レイプされた奴もまた、上級になった途端下級生を同じように従わせたりするものだがら、弱い者がそのまま弱いだけでは無さそうだった。

 弱いままの生徒は、自分を守る為に強いアルトをものにして、自分を守る術を覚える。

 サマシティの縮図がここにあった。

 奇怪であっても平和に保たれている世界。

 

 入学式の折、すでに誕生日を迎えていたベルは、学長に「真の名」を与えられた。

 学長室に呼び出され、証人として数人の先生方の前でこの「真の名」を告げられるのだが、非公開のそのニュースは瞬く間に校内に知れ渡り、「真の名」を与えられた「ホーリー」はスターになる。


「ベル、凄い事じゃないか。え~と、ベルゼビュート・フランソワ・インファンテ…だったか?」

「そうだよ。良く覚えられたね、アーシュ」

「とってもかっこいいし、強そう~。ベルに似合ってるよ」

 学校の食堂の片隅で三人で昼食を取っていた。

 ベルはホーリーになってから、誰彼と無く付き合いを申し込まれて少々げんなりしていたから、目立たぬように隅で食事を取るようにしている。


「ありがとう、ルゥ。でももうずっと前から学長にこの名前を頂いていたから、あまり感動はなかったよ」

「いいなあ~、ベルがホーリーだなんて。ま、俺達も役得かもな。ベルの傍にいたら変な奴に迫られないで済むもん」

「そうだね。ベルが親友で良かったよ、ホント」

「おまえら、本気で言ってる?」

「「はあ?」」

「『真の名』をもらったって『力』の使い道が判るわけでもないんだよ。名前だけ先走りしているみたいで、身に付いてない感じだよ」

「そりゃそうだろうね。名前をもらっても中身が変わるわけでもないし…」

「でも羨ましいよ~。ホーリーって人の上に立つ為の条件みたいな感じじゃん。ベルはその権利を持ったってことだもん。ベルの理想に一歩近づいたって感じだね」

「うん。腐敗した貴族社会をどうにか建て直したいしね」

「貴族社会が何?」

 いきなり目の前に立った女子は同級生のリリだ。彼女もまた、ベルと同じく『真の名』を与えられホーリーとなった。

「え?別に?君の家のことを言ったつもりはないけれど…」

 貴族特有のドン臭さでベルがポツリと答える。

 リリもまた貴族子女だったが、彼女はサマシティ出身ではない。

「リリ、おめでとう。『真の名』を貰うなんてすごいじゃないか。女子では珍しいことだってね。良いホーリーになってね」

 例によってセキレイが極上の微笑みを返したおかげで、リリの鶏冠もそれ以上立たずに済んだ。


 リリが去った後、俺はベルにどうしてリリには冷たいのか、聞いてみた。

「別に冷たくしているつもりはないよ。でもサマシティの貴族でもないリリは本当の事情なんて何もしらないお嬢様なんだ。だから…俺の世界は知らなくていいんだよ」

「…」

 近頃、ベルは良く自分のことを「俺」と言うようになった。 なんだか大人に見えて俺も真似し始めた時期だった。


 その夜、ささやかなお祝いをやろうと、俺とセキレイはワインを手にベルの部屋で一晩中話し込んだ。

 大概はホーリーに関しての話が多かった。

「前の年は誰一人としてホーリーに選ばれなかったんだろ?」

「そうだってね。一昨年はひとりいたって」

「メルだろ。彼は俺らと同じ保育所で育ったから、顔馴染みだよ。な、セキレイ」

「…僕は、メルは苦手かな。何考えてるかわかんないもん」

「そう?俺は好きだけど。ああいうアウトサイダーって、すげえやーらしそうでいいじゃん」

「アーシュ、君もそういうとこあるよ」

「ああ、アーシュはアウトサイダーだね」

「ええ?俺のどこがいやらしいんだよ」

「全部」

「はは…」

「笑いすぎだよ、ベル」


「まあね、そうは言っても君達だって…」

「え?」

「ごめん、言わなかったけど、君達も多分ホーリーだと思うよ」

「え?え?」

「どういう事?」

「随分前に…俺が『真の名』を貰う事をトゥエに聞いた時、俺一人じゃなくて、傍にいる者も仲間だって…トゥエが教えてくれたんだ。あの意味は君達ふたりも同じく『真の名』をもらえるってことだと思う」

「そ、れ…ホントの話?」

 セキレイが興味津々にベルに顔を近づけた。

「本当さ」

「…それが本当だったら…凄く素敵だ。僕にも『真の名』を与えられて『ホーリー』になれるなんて、ね!アーシュ」

「…そうだね」

 宙に浮くぐらいに嬉しそうなセキレイには悪いが、俺はそんなに驚きはしなかった。

 俺が選ばれた者である事は、ずっと前から知っていたし、セキレイもまた他のアルトとは違うことは、彼を拾った時点で知っていた。

 だから「真の名」を貰おうとなかろうと、「ホーリー」になろうがなるまいが、実はあまり関心はなかったんだ。


 だが、セキレイは違っていた。

 その日から、「真の名」を貰う誕生日まで、心躍る期待の言葉を繰り返した。


「ねえ、アーシュ。僕らはどんな『真の名』を貰えるんだろうねえ。カッコいいといいけど…ダサいのはちょっと嫌だな。ね、アーシュはどんなのがいい?」

「え?どんなのだって別にいいよ。それで中身が変わっちまうわけでもないって、ベルも言ってたろ?」

「それはそうだけどさ。でもワクワクしない?」

「セキレイはワクワクし過ぎだよ」


 ひとり部屋になっても俺たちはどちらかの部屋に行き、ひとつのベッドで寝る。

 お互いのぬくもりが何よりの安眠だったからだ。




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