第三話 ~悟side~
それから20分後。
俺は町の広場の大きなクリスマスツリーの前に立っている晴香を見つめていた。
「…早く来ないかな」
晴香はそう呟きながら、手をこすり合わせて息をはぁっと吹きかけている。
俺はそんな晴香に触れたくて、晴香の手をぎゅっとつかむ。
「…晴香」
「悟っ…。もうっ。遅かったじゃない」
晴香はぷぅっと頬を膨らませる。
晴香が起こるのは当然だろう。
なんてたって、俺は約1時間遅刻しているのだから。
「悪い…」
俺はそう言ってほほ笑んだ。
これが最後かと思うと、怒っている晴香でさえ愛しい。
「…ねえっ。早くお店行こっ?」
晴香は妙に浮ついた様子で、俺の腕を引っ張る。
ダメだ。
これ以上、晴香と一緒にいたら、晴香と離れたくなくなる。
バシッ!
思わず俺は、引っ張る晴香の手を叩いた。
「痛っ!…悟?」
晴香は呆然として、俺を見つめる。
「…悪い。お店には行かない」
俺はあえて冷たい声で言った。
俺を、嫌ってくれ。晴香。
「どうして…?」
晴香は泣きそうな顔をして、か細い声で俺に聞いた。
「話が、あるんだ」
俺の声が微かに震える。
ははっ。
ダメだ。
俺は、まだ晴香と別れたくないらしい。
でも、『別れよう』って晴香に言わなければ。
俺は自分を叱咤して、再び口を開いた。
「別れよう」
俺は静かに言った。
あぁ。
ついに言ってしまった。
晴香の眼から涙がこぼれおちる。
晴香。
俺はズキンと胸が痛んだ。
けど、すぐに晴香はこぼれおちた涙を乱暴にぬぐって、俺に笑いかけた。
無理して作っているのが、見え見えの笑顔。
「…そっか。他に好きな人、出来たの?」
晴香は俺に聞いた。
バカか。
他に好きな奴なんて、出来るわけがない。
俺には、晴香だけだ。
けど、俺が他に好きな奴がいるって聞いたら、晴香はすんなり納得するだろう。
「あぁ」
嘘をついてしまった。
好きな奴に。
すぐに俺は晴香から顔をそむける。
ガシッ!
いきなり、晴香が俺の顔をつかんだ。
そして、俺は晴香の方に無理やり顔を向けさせられた。
「ねぇ。なんで、顔をそむけるの?悟は、悪いことしてるの?」
…悪いことしてる。
「悟は、悪いことしてないよ。自分の気持ちに正直になっただけでしょう?」
そう言って晴香は、俺に優しく微笑んだ。
微笑まないでくれ。
俺は、自分の気持ちに正直じゃない。
嘘をついているのに。
「私は、大丈夫だよ。今までありがとう。大好きだよ」
晴香はそう言って、俺の唇に素早くキスをした。
そして、驚いている俺を尻目に、晴香は踵を返して走り出した。
「晴香っ…!」
俺は晴香の名を呼ぶ。
そして、俺は晴香を追いかけようとした。
が、ぐっと思いとどまる。
ここで晴香を追いかけて行ったら、台無しだ。
あぁ。
でも、今晴香を追いかけていきたい。
そして、抱きしめたい。
「くそっ…!」
俺は声を押し殺して泣いた。
さっきからずっと降っている雪は、容赦なく俺の体を冷やし始めた。
寒さが、身にしみる。
「晴香っ…!」
俺はいつまでも、晴香の名を叫び続けた。
「…晴香」
俺は今、部屋の中から外の雪を眺めている。
…あれから、俺は命拾いした。
手術は一応、成功した。
だが、まだガンは取り除き切れてはいない。
そのガンを無理に取り除こうとしたら、命に関わるらしい。
ガンがよっぽど、大きくなっているのだ。
まぁ、どっち道、俺は今まで生きてきたが、もうすぐ死ぬだろう。
医者の顔や、勘でわかる。
「会いたい…!晴香…!」
晴香に会いたい。
もう、晴香の隣に立つことはできないとしても。
せめて、遠くで晴香の笑顔を見たい。
「あの、広場に行ってみよう」
あの、5年前に晴香と別れた広場のクリスマスツリーのところに。
晴香に会えるかどうかはわからない。
けど、いてもたってもいられない。
何かが、俺を突き動かす。
大分、投稿遅れてしまいました(+_+)
いろいろと忙しくて…。
こんな私に最後まで付き合ってくだされば、ありがたいです(*^_^*)
この小説は、後5回ぐらいの投稿で終わると思います(^.^)/~~~