第一話 ~晴香side~
窓の外は雪。
そういえば、昨日天気予報で「雪」って言ってたっけ…。
私は雪に触りたくなって、窓を開ける。
すると、一気に冷たい空気が部屋に入り込んで来た。
「寒っ…」
すぐに私は雪を触るのをあきらめて、ガラガラと窓を閉める。
だけど、雪は見ていたい。
私は頬杖をついて、窓から雪を眺める。
そういえば、雪といえば…。
私は昔を思い出して、ふっと微笑む。
元気かな…。
悟…。
五年前の、クリスマス。
私は町の広場の大きなクリスマスツリーの前で、彼氏の悟を待っていた。
「寒っ…」
ただでさえ、寒い十二月。
それにプラス、雪までも降ってきたから、たまったもんじゃない。
他の恋人たちはホワイトクリスマスとか言ってはしゃいでいるけど、寒がりの私にとっては、これは拷問としか思えない。
「…早く来ないかな」
手袋をしてたって、手が冷える。
私は手をこすり合わせて、息をはぁっと吹きかけた。
「晴香」
私の名前を呼んで、誰かが私の手をぎゅっとつかむ。
顔を上げなくたって、誰かはわかる。
悟だ。
「悟っ…!もうっ。遅かったじゃないっ」
「悪い…」
悟はそう言って悲しそうにほほ笑む。
この頃、悟は元気がない。
なんでだろう?
悟の彼女なのに、それがわからない。
「…ねぇっ。早くお店に行こっ」
私はそう言いながら、悟の腕を引っ張った。
悟がなんで元気がないのかはわかんないけど、せめて悟を元気づけてあげたい。
バシッ!
「痛っ…!」
…今、何が起こった?
悟に、手を、叩かれた…?
いや、手を、はたかれた…。
「悟…?」
私は今起こったことが信じられなくて、呆然《ぼうぜん》とした。
さっきの悟が私の手をはたいた力は、すごく強くて…。
私を、拒絶しているようだった。
「…悪い。お店には行かない」
そう言っている悟の声はすごく冷たくて。
私は、泣きそうになった。
「どうして…?」
私は蚊の鳴くような声で言った。
悟が、わからない。
「話が、あるんだ」
悟の声は、微かに震えている。
その悟の様子に、私の胸がドクンッと鳴った。
その話の内容は、なんとなくわかるような気がした。
「別れよう」
悟は静かに言った。
…こうなることは、なんとなくわかっていた。
この頃、悟は私といても、なんか上の空だった。
私が何か面白い事を言っても、笑わなくなった。
自然に私の眼から涙がこぼれおちる。
あわてて、乱暴に涙をぬぐう。
「…そっか。他に好きな人、出来たの?」
私は無理矢理、笑顔を作って聞く。
「あぁ」
悟は気まずそうに、私から顔をそむける。
なんで?
私はそんな悟の顔をガシッとつかんで、私の顔に向けさせる。
「ねぇ。なんで、顔をそむけるの?悟は、悪いことしてるの?」
私の問いかけに、悟は顔を歪める。
「悟は、悪いことしてないよ。自分の気持ちに正直になっただけでしょう?」
私は、悟に優しく微笑んだ。
さっきより、うまく笑えたような気がする。
「私は、大丈夫だよ。今までありがとう。大好きだよ」
私はそう言って、悟の唇に素早くキスをした。
そして、驚いている悟を尻目に、私は踵《きびす》を返して走り出した。
「晴香っ…!」
悟が私の名前を呼ぶ。
けど、私は決して振り返らなかった。
今振り返ったら、泣いている顔を見られてしまうから。
冷たい雪が、顔にバシバシ当たる。
私はその冷たさに耐えかねて、走るのをやめた。
私が走るのをやめると、あんなに私の顔をバシバシ叩いていた雪は、私の体を優しく包んでくれた。
「大好きだよっ…。悟…」
私は何度もそう呟いた。
この想いは、一生変わることはないだろう…。
「懐かしいな…。久しぶりに思い出したかも」
私は舞い落ちる雪を見ながら、にっこり笑った。
前はこの日を思い出すと、悲しくなったけど…。
今は、懐かしいって笑える。
久しぶりに広場のクリスマスツリーに行ってみるか…。
私は窓から離れて、クロ-ゼットから上着を取り出して着る。
そして、私は小走りで部屋を出て、玄関に行く。
「行ってきます」
私はリビングにいるであろうお母さんに言うと、玄関の扉を開けて、走り出した。
こんにちは~(^v^)
この小説は感動ものにするつもりなので、どうぞ最後までお付き合いください(^^♪