悲しい過去
~悲しい過去~
『ねえ、はやくはやくぅ!』
『あ、亜実、そんなに急がなくてもいいって!』
『だって、今日は由実と亜実の誕生日だよ!おすし食べに行くし、プレゼント買ってもらえるし、遊園地にも行くんだよ!亜実、とっても楽しみなんだもん!』
『おいおい、亜実。誰も遊園地に行くだなんて言ってないだろう?』
お父さんが、こまったようにいった。
『いいの!絶対行くんだもん!』
『まったく、亜実はわがままなんだから…』
お母さんは、そう言って肩をすくめた。
お父さんもお母さんも、亜実がどんなわがままを言ってもいうことを聞いてくれた。
それは、亜実が可愛くて、いい子だったからかもしれない。
『あーおいしかった!ねえお父さん、次は遊園地だよ?』
『わかったよ。まったく、亜実にはかなわないなあ』
お父さんは、笑いながら言った。その横で、お母さんもほほえんでいた。
幸せな時間だった。私は、亜実の天使のようなかわいい横顔をみて、思わずほほえんだ。
でも、悪夢は突然やってきた。
ほとんど車の通らない道。ここは、お父さんお得意の、遊園地への近道だった。お父さんは、なれた手つきで曲がり角を左に曲がる。
その瞬間、目の前がカッと光り、私は痛みに目をおさえた。一瞬、なにも見えなくなった。
キキィィィィィィィッ!
耳ざわりな音が聞こえ、私は意識を失ってしまった。
次に目が覚めたときには、私は病院のベットの上にいた。左目には、包帯がまかれている。
理解できなかった。
なんで?何で私、病院にいるの?この包帯はなに?私どうしちゃったの?亜実は?亜実はどこ?
そんなことばかり考えて、グチャグチャに混乱してしまったところに、医者が来た。
医者の話が進むにつれ、私の心は灰色にくすんでいった。
うそ…うそでしょ……
私の左目は失明した?みんな亡くなった?私だけ奇跡的に生き残った?
うそだ……絶対……
『うわあああああ!』
まだ小4の私には、あまりにも残酷すぎることだった。。目の前がどんよりとした灰色になり、次の瞬間には真っ白になった。
私の世界から、色がなくなった。
小4の夏、7月8日。私はひとりぼっちになってしまった。