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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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第9話 マオマイマー

「ファ?」

「いいから叫べ!」

「べ、ベイル、アウトぉ?!」


 気圧されて、望まれたままに発声した。

 認証主からのシークエンススタートの発令に各マシンが反応し、ライオタイガーから速やかにドッキングアウトする、砂塵を伴って。


「うわっぷ!」


 後にはより無惨な姿のコアロボットだけが残った。


「君の電脳信号を確認、移譲完了。……こぶしは挙げなくてもいいんだ」

「なによ! こっちはこっぱずかしいのをガマンしてやったのにその言いぐさ!?」

「フ……では頼んだぞ……」


 他のマシンの動力と演算域を借りて、かろうじて稼働していたタイガーが停止する。


「ライオタイガー? ねえ、タイガー!?」


 揺らして縋るマイをサポートAIがなだめる。


『もう旅立たれたのです。どうかそのままに』

「うん……!」


 電源さえつなげばまた起動はできる。しかし修理は永遠に叶わない。クレアマリス一派によってその設備が永久に失われたから。それを引き起こした張本人、しかも主犯は今、ただの一兵が失われた事実に対して義憤に燃えている。この矛盾。

 そのマイを中心にして今、合体を解除したマシン3台が宙を旋回する。

 肩と腕部となる500系新幹線型マシン。

 脚部となるドリル型マシン。

 背面に接続し飛行を可能とするステルス爆撃機型マシン。


「なんだかすごい……」

『合体プログラムを受領しました。どうぞ、ファイナル・フォーメーションと発令を』

「ファイナルフォーメーション? 言うとどうなるの?」

『音紋確認、500系きます』

「え!?」


 マイの側面から、新幹線マシンが高速で迫る。

 彼女は可動域最大でのけ反り、すんでで衝突回避に成功した。


「攻撃してきたァア!?!? なんなのあの新幹線!? 殺意マンマンでつっこんできたんだけど!」

『避けてどうするのですか。合体をしてください。今はとにかく、再度ファイナルフォーメーションの再号令を』

「イヤイヤイヤイヤイヤ!! なに言っちゃってんのさ、あんな殺意の塊にぶつかられたら即死だよ、即死! わたしの胴体はタイガーみたく空洞なんてない! ん? ないのかな? とにかく、腕なんて外れないから! ほらァ!」


 マイは二の腕をつかむと捲る仕草で主張するも、内なる自らに諌められる。


『今すぐご決断ください。このまま傍観するのか、ファイナルフォーメーションすることで戦いに加わるのかを』

「っそんな急に言われても……。だってほら、あれって重合金魂なんだよ? こっちはただのプラスチックだもん、むりなんだって。はぁ、自分で言ってて悲しくなってきちゃった、プラスチックなんだ今のわたし……」


 手を見やり、幻滅する。ただバランスよく成形されただけの手のひら。

 意識さえすれば関節を逆に曲げることすら可能であろう。玩具なのだ。おもちゃなのだ。

 突然、内なるもうひとりの自分が視界の角に投影される。


『機械が惑うなどと、ご自身も自動人形でしょうに』

「映像が!? あなたそんな見た目を!? 網膜投影ディスプレイ!?」

「電脳をハックしてリアルタイムで直接描画しているに過ぎません。この方が圧力を感じてくださると思いまして。さ、今すぐご決断を。各マシンはそう長時間単独飛行できませんし、なにより撃破されてしまっては。あの子たちは完全な無防備で飛んでいるのです。準自動人形とはいえ、意思は持たされている。あの子たちの命をなんだとお思いですか』

「いのち……? マシンの生命? 思考して? 喜んで? 悲しむ?」

『それはおかしい、でしょうか?』


 いまだマイには機械を、おもちゃを生命あるものとは認識できていない。だが同じものに触れては同じに感じ、同じ戦場で困難に陥っている。

 少なくとも、わかり合える、寄り添える隣ジンには違いない。


「そうだったんだ、そうか。ロボットのみんなにも生命があって、……機械になってしまったわたしにも、生命がない、わけじゃない……。ライオタイガーは死んじゃって、詩音ちゃんだって超雷神だって危ない。わたしだってもうすぐ。だったら迷ってる場合じゃないよね、戦わなきゃ拓けない道ってあるんだってこと、わたしにだって!」


 いまだ理解の及ばない現況も。

 なにゆえかも分からない転生も。

 放り投げ、今だけは守るべきものたちのために。

 

『では?』

「やろう合体! もう一度ォ! ファイナル・フォーメーションッ!」


 その英断を後押しするのは内なる声。


『音紋確認。承知いたしました。今度は後ろに逃げるのではなく、前へ避けてください。わたくしが受け止めますので』

「はあ? 受け止め!? なにをさ!?」

『シークエンスを共有します。直前で、早すぎず遅すぎず、先ほどのようなタイミングで』

「どんなムチャ振りよ! 串刺しになる直前で避けろ、だなんて。本当にニッポンが販売している、ニッポンのおもちゃなの?」

『ご準備を。タイミングはこちらで、行動はそちらが』

「ったく、いったい——」


 後背。サポートAIの操りで、肩甲骨のあたりからサブアームがヌルリと立ち上がる。


「ウエッ!? なにこれ! 超ォ絶キモ! 背中から!? 腕が生えたァ!?」

『集中してください、今です!』

「ッハ!?」


 新幹線マシンをすんでで避けたマイ。彼女のサブアームが、500系新幹線を背中で羽交い締めにした。


「アツッ! 熱い!」

『? 触覚は搭載されていませんが?』


 金属同士が激しくこすれた音、それとともに舞ったのは盛大な火花。アームが強引に掴まえたかっこうのため、500系の外壁は大きく損傷している。


「そうなの!? でもたしかに熱さが?」

『ふむ、幻肢痛の一種でしょうか』

「本当に機械なんだ、わたし……。いや、こんなに小さい時点でニンゲンじゃあないのはわかりきってるんだけども!」

『そんなことより、かかとを曲げたままですと両機とも損壊します。つま先を前方に伸ばして、お早く!』

「ドリ? ルが!? わたし先端恐怖症なのに!?」

『続いてドリルマシンきます、今!』

「でも! 一度やるって決めたァ! 黒くて四角いソックスだと思ってェ!」


 ドリル部分が上方へスライドすれば空洞があらわれ、そこに足を差し入れると固定される。右脚、次いで左脚。

 それを終えたなら、背中からもう一本、より太いサブアームが隆々と、中央からたち上がる。そこは本来最重要器官があるはずの場所。

 マイは自らに戦慄をおぼえた。


「ウソでしょ……。背骨すらないのわたし……!」


 その大型サブアームが蛇のように飛行機マシンの操縦席を大顎で咥え、ただの一点で強引に保持する。

 新幹線マシンから腕の基部が展開、そこへ飛行機マシンの外付け懸架エンジン部が接続され、中から拳が出てくる。


「新幹線のほうに付くんだ腕」

『はい、外骨格腕になります。全接続完了』

「そりゃそっか、あんなタルみたいな太いのに腕なんかつっこんで振りまわすとか。最悪肘からもげちゃう。それはいいとして、なんか複雑」

『?』

「ライオタイガーと足の太さがおんなじって……」

『お察しいたします』

「ねえちょっと、なんであなたは他人事なの? あなたの身体でもあるわけでしょ?」

『あくまでサポートAIですから』

「こんの…………あれ? 続きは?」


 合体の続き、飛行機マシンからヘルメットが出てこない。

 あれはライオタイガーといっしょに果てていたのだと思い出す。


「そっか——」

『防御してください。攻撃きます』


 防御技プロテクトシャットは間に合わない。


「うわっぷ!?」

「マイッ! 無事か!?」

「防御ったって、体液? 少々の酸なんかじゃこの体は……って!」


 プラスチックには耐酸性があれど、ティッシュにそれは持たされていない。


「あああ!! ティッシュアーマーがぁああああ!?」


 主な配合物であるセルロースは容易に加水分解され、巨大な帯であったティッシュがはらはらと。

 まるで春の雨で散る桜ふぶき、千々になって脱落してゆく。

 マイの方は気が気でない。手にしたままのハイマッキーと余ったほうの腕でそれぞれ、双丘と秘所を隠すのが精いっぱい。


『ですから防御をと』

「合体中に攻撃してくるなんて! ルール違反!」

『いいえ、すでにシークエンスは完了しています』

「そうか! ライオンの顔部分はコアロボットの自前! だから立て髪しかないのか! あーもう、あったまきた!」


 さっきまで彼岸島の丸太のように振り回していたハイマッキーの、比較的太いほうのキャップの隙間に貫手を叩きこみ。


「こんんのッ!」


 第一関節を引っかけて強引にキャップを抜き、そのままなげ捨てた。


「こうなりゃヤケだよ! マジックで……! こうッ!」


 切腹のようにペン先を我が身に突き立てたなら、一気呵成に描いてみせた。

 顔を。

 自らの胸と腹をキャンバスに、ライオンの顔を。

 その行為には友軍から、とくにロボトイから嫌悪の声がもれる。


『なんの? つもりだ?』

『忌まわしき油性マーカーで己が身を汚染するなどと。理解し難いな』


 美少女フィギュアが雄々しく、巨大外来生物に向けて啖呵をきる。


「できた、うおおおおお! ライオ……っとと、コアロボットがマイだから、ライオまいガー? マオマイマー?」

『さあ?』

「なんだっていいや! 来るならきなさいってのよ! こっちだって覚悟完了しちゃってるんだから!」


 デリケートな部分は乱暴ながらボディペイントで隠せた。ゆえに空中で仁王立ち。

 ハイマッキーがまるでビームスマートガンのよう。腰のまえに両手でたずさえ、さながらExーSの威容。


『ですが、なぜ猫をお描きに?』

「ラ・イ・オ・ン!!」


 マイはそう言い張るがしかし、ヒゲすらない。胸に目、へそから下には舌。さながらにゃんこ大戦争である。


「これは覚悟の証なんだ! 戦闘のボディペインティング!」

『それは消えないこと込みでのお覚悟と捉えてよろしいでしょうか?』

「え」

『驚くのも結構ですが右前方にご注意ください』

「うわぁっ!? アドバイスだけじゃなくて緊急回避くらいしてくれてもいいでしょっ!?」

『その権限を持たされてはいませんので』


 相談しながら回避する。

 問答しながら反撃を。しかし徒手空拳では空を切るだけ。


「ったく。それでどうしたらいいんだろ、ゴールデンがいないからゴールデンハンマーもできないし」

『防御は硬くなりました』

「って言っても胸丸出しじゃない! せめて超雷神みたいな別パーツの胸板があれば」

『しかしヘルオアヘヴンはできます』

「効かなかったけどね。でもあれは頭部に放ったから。もし胴体だったら可能性はあるのかも」

『好機と感じたなら両の手のひらを合わせてください。サポートはこちらで』

「う、うん。4本の腕を動かすのってなんだか新鮮」

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