第8話 勇者黒王、暁に死す
羽根を爆発で失い、地表へと降りた蟲が今度は地面を這って襲いくる。首から上は安定せず、ダラリと胴に接したまま、振動に対し不自然に揺れながら突撃を。
もはや頭部は使われていない。
「ぜんぜん弱まった様子もない?」
「見ろ、ちゃんと頭に大穴はあいてんだ、ダメージは与えた。そこに体を包むほどの大火球、頭の中はがらんどうになったとみていい」
「それがどうして動いているの!?」
「そんなのアタシが知るかよ。頭部がダミーだってのか? いったいどうなってやがんだ……?」
必殺技を放った直後、各勇者は体勢が悪く。とくに超雷神は、地面に自らを固定していたアウトリガーを引き抜くところ。そこへツノ無しの突進が炸裂する。
『ビビ!』
『ドライバーズ!?』
「ドライバーズが盾に!?」
ツールロボットたちが緩衝材になっている間に超雷神が退避、間一髪で逃れる。
「クソッ! あいつらにゃそれが任務って側面もあるにはあるが」
「そんなことって……! あの子たちも生きているんじゃないの?」
「準自動人形なんだドライバーズは。かんたんな命令にだけ従って動く。にしても、クソぅ。まるで紙クズみてえに粉砕するじゃねえか。さすがは超大型ってとこだぜ」
「いくら完全修復ツールズのドライバーズといっても、劇中みたいな修理機能までは持たされていない、でしょう?」
「ああそうだ。無からなんでも再生できる、そんな夢物語みてえな機能は持たされちゃいねえ。そのうえ修理や部品交換ができる工場はもう復旧不能だろ、あんだけ燃えりゃあ。当然撃破されたドライバーズも元にゃ戻らねえ」
「そんな……!」
マイを救うときにもし損傷していたらとは、詩音はおくびにも出さない。それは覚悟のうえだったし、実際には起きなかったのだから、伝える必要もまたない。
「こんな非常事態にゴールデンマーグの姿がないのはなぜ?」
マイは作品の要のひとつ、超必殺技を放つのに不可欠な追加戦士の存在を挙げた。
「たしかに、無邪気に聞いてみっか」『おい超雷神! ゴールデンマーグはどうした?』
『ゴールデンは戦死しました。ここに後送される少し前、シベリアの地で』
『シベリアで!? いまソ連っつったら昆蟲空白の地のはずなんじゃ?』
『それは古い情報です。先週から——隊長!?』
『グワァッ!』
前腕の大振りを避けたはずも、避けきれなかったのはライオタイガー。
体の動きに遅れて首が連動、そのぶん体ぜんたいが意図せず前へズレた。思考を伴わない、予想外の、これまでの流れとは異なる動き。
ズレたぶんが計算を越え、当たったのだ。
『隊長ッ!?!?』
胸のライオンを丸ごと削るようにえぐられて倒れる。
体積の大きい胴には動力炉と電子頭脳が組み込まれているため、即座に機能停止に陥ったのだ。
詩音にはそれが信じられない。
「まさか!!」
「直撃!? ライオタイガーまで!?」
「クソゥ……! そりゃあ必殺技が通用しなかったんだ、勝利するのは難しい局面だった。だが重合金魂だぞ? いくら10年以上前のロールアウトとはいえ、国内最高峰の戦士がたったの一撃とは……!」
「くぅッ!」
居ても立っても居られなくなったマイが走る。
「おいマイ!? アンタが行ったところで! おいってば! おいッ!」
たしかに勝つのは難しかった。そのうえドライバーズは数を減らし、ライオタイガーは斃れた。これ以降に戦況が自然と良くなることがあるだろうか。
だからマイは走る。
詩音は敢えて追わず、別の方向へ移動を開始しつつ。
『ここを支えるぞ超雷神! ライオタイガーから引き離す!』
『承知です。しかし長くはもちません……!』
『わかってる、それほどの難敵だ! 救難信号は打ち続けていてくれ! 応援が来るまでマイを守るぞ!』
『了解です!』
超長距離通信は途絶しており、救援を求める信号もごく短距離にしか届かない。しかし詩音はそう告げずにはいられなかった。それほどの状況。
これほどの難敵がただの1体のはずはないのだ。大きさがおよそ令数と比例する蟲は、不完全変態の脱皮の回数10令がおよそ最大級の頂点として、それ以下であれば数は格段に増える。
数で劣る最強の精鋭部隊が次々と落ちるのが視界の端に。
武装が対ロボトイ用のまま継戦しているのが裏目に出た。換装しようにも焼失したため今や不可能。ゆえに他は他で苦戦しており、遠目に味方が堕ちているところは、さらに状況が悪化していると考えていい。
だが、たとえ何があってもアフリカ種がここを脱することだけは防がねばならない。ここを脱して、もしもヒトに露見したなら。
アフリカではほとんどもみ消せた。ニンゲンが捕食されることがあっても失踪扱いになる方が多い。だがここは日本、壁に障子にスマホに目あり。
今はまだ、ジン類に正体を知られるわけには。だからここで倒しきるしか。
(マイのやつ……。にしても、黒衣の最強勇者ロボ軍団があそこまで苦戦する、だと? 超雷神に至っては2024年発売の新造機だぞ? 仮にライオタイガーと同時期に設計を終えていたとしても、生産は2023年に行われたはず。武装ふくめ素材についてはほぼ最先端にアップコンバートされているとみていい。それなのにイレイザーカプセルも効かないとなると……?)
頭部を破壊されて動きは緩慢にはなった。だが視神経と呼べるものは機能を停止していないらしく、おそらく視野角は狭まったが正面に見据えると突進してくる。
アフリカの最奥から飛来したと思しき強化種に対し、詩音はただただ戦慄する。
「本当に、ただの古参なのか?」
突然、走るマイに内側から声をかける者があらわれた。
『復旧作業を完了しました』
「は!? だれ!? 頭の中で? 声なんて?」
『状況は戦闘と認識、視界に表示せず、電脳のみにて伝達します——』
「何これ、頭に直接情報が!? 未応答領域!? 戦闘記録!? なにがなんだか! こんなときにッ!」
『——以上になります。これより状況開始。停止中の識別を友軍に対し開放します』
「数字を一気に羅列されて頭に入るわけないでしょ! いいから今は黙ってて!」
マイは墜落したライオタイガーの残骸に駆けよった。
なにもできはしない。手ぶらで、ただティッシュだけを纏って。
「君は? 先ほどの?」
「大丈夫ライオタイガー!? しっかりして!」
「君に味方識別信号が出ている。そうか、電脳が復旧したのか」
「うん、でもいろいろと壊れてはいるみたい」
「そうか、はは。では今のオレと同じだな」
胸のライオンと腰部の前半分がごっそり持っていかれている。そこには動力炉と電脳が組みこまれていたはずで、前者は跡形なく、後者があらわに。残ったほうも半分ほどを失った状態で。
「ッ……!」
マイは適切な言葉を見つけられず。
おもちゃといえど痛々しい。
致命傷である。先ほどの一撃は頭も掠めており、フェイス部の片側半分は無惨に削りとられている。
フィギュアのみならずロボトイも胴体は急所中の急所。即死へと至らずにまだ会話が可能なのは、体の各所を分担する、グレート合体マシン側からの動力を得ることができるから。
「クレアマリス、君は? 換装能力を持っている、しかも万能な?」
「なんのこと?」
「では君に、オレのマシンたちを託したい」
「!? なにを!?」
突然のライオタイガーの提案にマイは即応できない。託す、とは。
「オレはあいつを止めたい、だがもうそれはできない。だから、君が止めるんだ、この体を使って」
工場が永遠に失われたのは静岡で防衛に当たった兵であれば周知の事実。いずれこの先修理どころか給弾さえ、エネルギーの補充さえ窮する場面がくる。だから提案しているのだ。
今はまだ灰燼と化していない、残された武装だけが抗うための武器たりえる。
「君に成しとげたい何かがあるのなら、このオレの相棒たちを受け継いでくれ。叫ぶんだ、ベイルアウト」




