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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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第4話 生還者

 緊急事態である。このままでは無事だった中身も燃える。

 しかし詩音は動けない。黒焦げのロボトイはヒトの目には映らなくとも、肌が多く露出した、明るい配色の自分が出ていけば発見される恐れはある。


「ウ……」


 ただひとつだけのうめき。

 聴覚センサーがそれを捉えた瞬間、彼女は吹っ切れた。自分がやらねばと覚った。

 駆け寄って。

 声をかけるのは無駄だとわかっている、なぜなら回線が閉じているから。個体識別信号すら出ていない。

 だが戦闘による損壊や故障で出なくなることはままあること、理由が引っかかるも一刻を争うとき。納得し救命にあたる。


「ええいこの際だ、腕部はダメになったっていい!」


 自身も損傷を負う可能性をかえりみない。スピードが命、1秒でも速く。

 燃え盛る部分を優先して、熱を持った外装を迅速にとり払う。


「ム?」


 足首が露出したのを確認するやひっ掴んで、中身を乱暴に残骸から引きずりだした。


「重んも……?!」


 そこで驚いた。


「はぁ!? フィギュアだって!? じゃあこいつ、いったい何でできてやがんだ?」


 ロボット・トイだと思っていた相手はフィギュアだった。焦げた外装の中から現れたのはプラスチック製のフィギュアだったのだ。

 身体の炎は外骨格と共にとり去ることができたが、とくに軽装だった頭部が依然燃えさかる。

 手がつけられない。髪はもう、明らかに助からない。あとは頭部と髪が一体成型かどうか。仮に接着されていても剥がせる勢いで。


「たのむぞ、別パーツであってくれよ! 南無三!」


 熱で接着剤が弛んでいたか、手刀で勢いよく払いのけた髪パーツは思いのほか遠くまで飛び、炎の中へと消えた。


「ふぅ、運よく別パーツだったか。首なしになることだけは避けられたが。……髪は人形の命だってのに、悪ぃな」


 髪がヘルメット代わりになってくれたおかげで、フェイスパーツにはダメージが見てとれない。

 あられもない肢体、一糸纏わぬ女性のフィギュア素体が横たわる。


「おいおい、アタシはキリコ・キュービィーかっての」


 外装のおかげで断熱されており、素体の温度は比較的あがってはいなかった。そのため詩音の腕もまた深刻なダメージを受けず、素体もきれいな状態をたもつ。


「なんだこいつ……、超かわいい」


 スキンヘッドになってしまってもわかる、端正な顔立ち。愛玩が目的のフィギュアであるから当然ではあるものの、それにも増して造形師の腕前が知れた。


「『ないはずの部屋』は燃えたのか?」


 それは不意の素体からの問いかけ。

 まるで感情を乗せない機械的で、しかし戦いに身をおく緊張に満ちている。

 機能停止には陥っていなかったと安堵しつつ、応える。


「? ああ。アンタたちが守ろうとした工場はぜんぶ燃えちまったよ、あれじゃ跡にゃなんにも残りゃあしねえ」

「ふ。そう……か」

「——は?」


 まるで安堵したような返答に驚いた。

 以降はピクリとも動かない。


「ふむ、死力を尽くしたが力足りず、ということか。にしても。ないはずの部屋、ね。なんのこっちゃ」


 詩音は素体について検索をして、すぐにデータベースにはない製品と判明した。ただし本社工場から焼け出されてきた個体と考えられることから推測はできる。

 複製された量産品ではない。造形師みずからの手による一点ものの原型。つまりは試作品である。それがこの素体であると。


「ふぅん? 流通させねえ試作品を、戦地へ送る消耗品の自動人形にわざわざ改造なんてするかね? ここの防衛用? にしても替えパーツの問題だってある。そもそも何のキャラだ? アニメでもマンガでもない、小説にも該当なし。オリジナル? 服もぜんぶ外装式なんてめずらしいやつ。下着すら直接造型されてねえとか——」


 その時。ヒトの消防隊が驚いて一時後退するほどの、まあまあの規模の爆発が起こった。と同時に、破片にまぎれて多数のロボトイが飛び出す。


「守備隊!? 直掩のか!」

『む、博多の識別だと? ずいぶんと早いが』


 一団を見上げつつ詩音は問う。


『無事だったのか!? 戦況は?』

『九州が応援によこしたのがフィギュアだと? しかも2体だけ。フッ、武器も持たずに』

『手を出すな、その損傷機とともに戦場から消えろ。プラッチックのフィギャーごときが出る幕ではない』

『く!』


 武器は持ってきたのだ。しかし着地のためにすべて失った。

 詩音はそれを弁明したかったが、役に立たないのは厳然たる事実。動けない素体を抱えて参戦できるはずもなく。

 問うた戦況も共有してはくれなかった。どのみち武器を貸与してもくれまいとあきらめる。

 それ以上守備隊は詩音を相手しない。これまでの会話は準備が整うまでの戯れ事であった。


『外装の冷却、完了いたしました』

『同じく』

『こちらも』

『再突入だ、行けるか』

『応さ!』

『では我に続け!』


 彼らは嵐のように現れ、雷のように去った。

 また、炎の中へと。

 詩音は言われたまま、素体を抱えて避難する。


「すんげぇやつらだったな、終始空中で静止したまんまかよ。あの渦中でも行動できるとか、いったいどんな装備してやがんだ?」


 感心はしつつ、同時に不快にも感じていた。


「にしてもあいつら、アタシの撃墜スコアくらい見えてんだろうに、ひとっつも驚きゃしねえでやんの。あれがうわさの、本社秘蔵の精鋭部隊ってやつか」


 ロボトイの市場が減少し、代わりに隆盛したのがプラスチックフィギュア市場。

 ロボトイの個体数が減っては戦線を維持できず。苦肉の策として戦地に投入されたのが完全自律稼働型フィギュア。戦線はすでに、フィギュアなしでは維持できない時代に突入していた。

 数を減らしたロボトイは、戦場を支えるために重武装化の一途をたどり。いわゆるロボトイの恐竜的進化である。

 ロボトイに比べプラスチックフィギュアの歴史はさらに浅い。ジェネレータが小型なため非力で、反動に関節が耐えられないことから武装の威力は低く、弾数や武器携行数は少なく、細い関節は損傷しやすく、戦地投入は近年になってから。

 長年戦場を支えてきたロボトイにとって、フィギュアは後からきた異質な存在に映る。敵ではないが、味方でもない。優れた個体であるとの自負から、フィギュアに対する差別はここを起点に自然発生した。


「さっきの振動、あれは……」

『残念ながら。おそらく』


 詩音のセンサーは捉えていた。先ほどの爆発の爆心地が、実は地下深くであったこと。詩音がもっとも守りたいと願い、誰しもが無事を願った場所を襲った破滅的破壊。

 音だけでさとった、願いは叶わなかった。

 だがたったのひとつ、1体のフィギュアだけは救えたから。だから必要以上に悔やまない。


「あれだけ急いでもけっきょく間に合わなかったということか。にしてもフィギャー、ね。か~な~り~久々に聞いたぜ。てか、やっぱ重すぎんだろこいつ」


 素体を抱えて移動する。

 詩音は、その差別とは博多でも、派兵先のアジア太平洋地域でも戦ってきた。戦って今の立ち位置を勝ちとった。

 それでも認めようとしないロボトイは認めないし、彼女も別に、かかわる全員を納得させようだなんて考えていやしない。

 ただ、あの日あの場所で達成されるべき命令のために戦った。となりで前進する仲間のために戦った。そこにフィギュアとかロボトイとかの区別はなかった。

 本社工場の一角にある、地球上唯一の超小型自律稼働自動人形製造工場。そこが今事件の火元であった。

 それをふくむ静岡工場が盛大に燃えて、失われた。クレアマリスたち一派の謀反によって。破壊され尽くし、以降二度と元に戻ることはない。

 異星よりもたらされた唯一無二の科学技術は、この日を境にチキュウ上から永遠に失われた。これより先は生産もできなければ修理もできない、遠大な消耗戦へと移行することが予想される。

 それを真に理解するのは現状クレアマリスその人のみである。

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