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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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第28話 突撃

 マイは思いを馳せる。

 ユーラシア大陸はもはや諦めるより他ない。地続きであるアフリカ大陸も過度の期待はできない。

 もしも甲蟲がベーリング海峡を渡ったら。いや渡る、必ず。渡らずとも永久凍土はカナダにもある。あそこでも氷の融解が進んでいるらしいが、その下に古代甲蟲が潜んでいたら。

 ユーラシアのものと時期はズレると仮定して、アジアでの惨状から学び探索からの先制攻撃。それが叶えばヒトだけでも撃退できる可能性はゼロではない。撃退したあとで世論からどのような非難が出るか、想像もできないが。

 心配なのは“いざダイバン”の影響がどうか。アメリカにはダイバン製のおもちゃが多数輸出されており、自然自動人形も多数配備されている。あの広大な土地を補給の断たれた自動人形が落とせるとは思えないが。

 マイはこの期に及んでまだヒトを諦めてはいない。

 自分たちがシベリアの巣を撃滅することができたなら、これ以降の新たな蟲の発生は防ぐことができる。その戦いにおいての自動人形の減少も見込める。

 自動人形の方はいずれ自然と瓦解する、クレアマリスが目指したとおりに。生産は絶たれ、ヒトとはすでに敵対した。今後はヒトからの加害がゼロであり続けることはできない。

 軍の大半を占めるフィギュアはプラスチック製、耐用年数は百年がいいところ。ロボトイもプラスチックを使用した製品が増えたため同じ末路。総金属製のロボトイはこの50年で数を大きく減らし、脅威にはなり得ない。

 ソウル市民は諦めることしかできなかった。ソ連はおそらく滅んだ。だがジン類は80億個体が世界中に散らばっている。オセアニア地域、絶海の孤島イースター島などはより期待できる。最悪の場合でも南極観測隊。

 せめてあれら飛び地を護れれば、種としてのジン類を明日へと繋ぐことは可能。

 職蟲、つまり古代甲蟲の働き蟲は、一度貪食を開始すると1年と待たずに絶命する。食事がエネルギーの摂取ではなく、物質の変換であるためだ。食べれば食べるほど体内に蓄えたエネルギーを消費し、稼働時間は短くなる。

 ゆえに女王蟲さえ打倒できればいいのだ。蟲の産卵能力さえ取り上げることができたなら。それさえ実現したなら明るい未来も描ける。


「世界の大半を護れなかったわたしたちの、せめてもの償いにいくらかヒトの住まう土地を残す。それがわたしたちにできる精いっぱい」

「ったく、ひとりで抱えこむんじゃねえよ。アンタのどこに償う点があるってんだ」

「ふふ、詩音ちゃんは優しいね」


 今作戦は劣勢を覆さねばならず、また退却も許されない。達成か全滅かの二者択一となる。そのため戦時特例がいくつも適用され、先のパッチインストールもそのひとつである。

 実質、乾坤一擲の自動人形軍団最後の作戦。


「全面戦争はこの際ジン類に任せて。ヒトを殺すためにせっせと蓄えた兵器は、せめて自分たちを救済するために使ってよ。わたしたちは行って帰らずの片道切符、密かに敵本拠地を目指す。一本の矢になろう。わたしたちこの半個旅団全体が嚆矢になって。ただただ北へ、南から北へ向かって貫く、巣窟を縦貫する一本の列車となる。名付けてシベリアン・エクスプレス作戦!」

「んま、方角は北西だけどなー」

「細かいところはいいから!」


 進めばそこかしこでジン類のかつて戦闘車輌だったものが転がる。

 建物と違い移動できて、ヒトと違い突破力があった。だが搭乗するヒトを明日へと残せなかったことだけは、損傷の度合いから見てとれる。

 あれらも近い将来に資源へと戻され、跡形もなくなるものだ。

 それを詩音が横目で見ながら。


「ジン類の兵力はヤワでしょうがねえな。古代の恐竜で勝てた相手だってのに」

「そうなの? 恐竜が?」

「だってそうだろ? 過去に古代甲蟲が今と同じに活動したとして、世界を蹂躙するに至らなかったってことはそれに拮抗する勢力がその当時にあったことを示唆する。つまりは甲蟲をエサにできるような動物の存在があったってことだよな。昔のことっつったら地層から推測できるのだとして、おそらく恐竜じゃねえかって。化石でも年代が合うしな」

「ふぅん」

「反応薄!」

「だって恐竜興味ないから」

「にしてもだ、普段ふん反り返っている連中がいざ攻め込まれるとここまで弱いとは。何のためにアタシらがコソコソ陰でやってたんだっていう」


 詩音が言うこともっともである。だがそれには理由があって、マイがちょうどよい回答を用意できる。


「ヒトはね、ヒトが食べられているところに砲弾を撃てないんだよ」

「愚かだよな。ヒトは、ヒトという種を護る気概がねえのか」

「あるんだよ。あるからこそ動けない。巻きぞえになってしまう他ニンを自分のことのように慮ってしまう。それがヒトなんだよ」

「そんなもんかね」

「そうだよ。護りたい、あの精神。そうじゃなきゃ——」

「おっと。ついに奴さんたちおいでなすったみたいだぜ」


 先頭艦が迎撃の準備にかかるのを視覚センサーが捉えた。

 艦首先端にビームが灯ったことから詩音が問う。


「まさかビームラム突撃すんのか?」

「ううん、ビームシールドを展開するの。ビームラムだと刺さってそれで終わりになっちゃうから。シールドでできる限り弾きながら突進する、一か八かの突撃作戦。祈ってて、無事に辿り着けるように」

「ああ、いくらでも祈ってやるよ、南無三んんんんんん!」


 いよいよ最初の接敵。そこで一番槍を任された艦船型ロボトイから、マイへ謝辞が贈られる。


『あんたには感謝する。数少ない艦船の自動人形は何かと温存にされて表には出られない。出られないまま格納庫の中で散っていった。だからこれが俺の初陣だ。初陣で最期の花道、せいぜい華麗に散ってやる!』

「なんてこと! ああ、なんてこと!?」

「アンタの発案だろうマイ。アンタがやれって言うから。超貴重な艦船型ロボトイ;リィンカーネイションJr、ここで使わにゃいつ使うんだ」

「だからって! まさかあの光景をこうして、別アングルから見ることがあるなんて!」


 今ふたたび、リィンカーネイションJrがビームシールドを展開して突撃する。いくつもの愛を重ねた突撃が虚構だけでなく現実でも。

 作品20周年記念展用に制作されたという巨大オブジェは、倉庫の中で場所をとり、埃をかぶるだけだった。これを密かに分解し、ヒト知れず地下へと持ち去ったのは自動人形。魔改造を施し、艦船型自動人形として仕立てた。

 甲蟲に正面からぶつかられたら隊列はすぐさま停止へと追い込まれる。重量差が大きくないためだ。そのため高速飛行ながら微妙に舵をとり、わずかに中心から逸らして船首に当てる。

 甲蟲がもし50センチ程度であれば弾き飛ばせる。

 1メートルならいい勝負、当たりどころが良ければ問題ない。

 1メートル50センチもあれば大きく軌道が逸れるため、進路修正の必要あり。


「ッ!!」

「今のはデカかったッ!」


 一度後方へやり過ごしさえすれば、踵を返しても追いすがることはできない。それほどの高速を出すがしかし、後方のアフターバーナーの灯りをめざした追尾する蟲は増える一方。巡航速度が落ちればいずれその集団に呑まれる。


「ひ、ひっくり返るかと思ったよ……」

『艦の傾斜は42度でした。ミノフスキークラフト自体は180度回転しても復元可能です』

「いやいやいや! そんなに傾いたら上に乗ってるわたしたちが落ちるから!」

「はは! アンタのサブAIって冗談も言うんだな!」


 光の盾を頼みにしての強行突破は多くの甲蟲を弾きながらも、その光と衝撃音で周囲の蟲を誘引する。

 艦上にはスナイパー部隊が鎮座。ビームシールドの光に釣られて寄ってくる甲蟲がいれば、関節や複眼をめがけて狙撃する。

 これで進行方向の甲蟲のほとんどは蹴散らすことができるも、徐々に進軍速度は落ちてくる。これほどに甲蟲の体当たりの反動は大きい。

 スピードが落ちるとやがて正面からだけでなく2時や10時ほどの斜めからの接近も許すようになり。後方は黒山の蟲集り。

 これまでで最大の衝撃が艦隊を揺らした。


『ウワァッ!?』

「くぅうッ!」

「振り落とされんなよッ! 二度と拾ってもらえねえぞ!!」

『リィンカーネイションのエンジンがやられた!?』

『右舷ミノフスキークラフトの機能停止! 機能停止! 落ちます!』

『支えろォ! 絶対に堕とすんじゃねえぞ!』

『右舷だ、艦の右へ向かえ!』

『そっち持て! 押せェ!!』


 自力飛行あるいはホバー移動できるロボトイが我先にと踊り出でてリィンカーネイションを支えに向かう。

 右舷が地面に触れるかに思われたとき、ロボトイの下支えが拮抗、元の水平状態へと持ち上げてみせた。


「助かった……?」

「大丈夫そうだな、戦艦といえどスケールが小さければあいつらロボトイだけでも担げるはずさ」


 しかしそこは接敵を許すビームシールドの恩恵に与れない場所、襲いくる甲蟲に体当たりされては脱落し、跳ね飛ばされては脱落する。

 後方はもう取りつかれつつあり、射撃でモグラ叩きせねばならない状況。


「ああ……、あああ……!」

「しっかりしろよ、今作戦でのリィンカーネイションその他の損失は織り込み済みだろ!」

「頭ではわかってるつもりだったんだけどね、いざ目の当たりにするとね……」

「頼むぜ大将、今からそんなじゃこれから先もたねえぞ」

「うん、それもわかってる。でもね、わたしはこの痛みを背負っていくよ。どこまでも。罪深きクレアマリスは背負わなきゃ、自動人形の最後の1機になるまで」

「アンタが始めた戦いじゃああるめえに」


 そう、始めたのはクレアマリス。マイは後を引き継いだだけ。

 詩音はクレアマリスに一言申したい、これも計算のうちですか、と。

 いつも生命に危険がおよび、いつも懸命にそれを超えるマイを支えるのは自分だ。


「オーケー、そしたらアタシは最後の2機になってやるよ」

『わたくしもお忘れなく』

「ALICEもだって言ってるぜ」

「詩音ちゃん……、みんなもありがとう」


 ビームシールド発生装置基部を破壊されて万事窮す。次々に甲蟲の体当たりを受けて容積を減らし、部品を後ろへ散らせ始めた。

 マイはもう、必要以上に悔やまない。胸三寸にとどめ。


「…………!」


 だが言葉にならない。だから詩音が代弁した。


「じゃあな! ここまでありがとよ!」


 ついに大いなる艦は全損へと至る。


『さらばだリィンカーネイションッ!』


 別れを告げたアルタイルの指示が飛ぶ。


『退艦せよ! 総員退艦だ!』

『脱出だッ!』

『進路そのまま、北西を目指せ!』


 飛行できる者も一旦徒で征く。

 遅い者と歩調を合わさねばならないし、敵想定本拠地まではまだずいぶんと距離があり、先ほど艦を支えるためにエネルギーを相当量消費した。そのための徒である。

 マイに至っては輪をかけて極端。彼女は自らの脚を用いない。強攻型アクエリオスのアルマゲドン形態を後背に装備、多脚戦車のようにして地面を高速で這う。

 マイにはそれが、どうにも身の置き場がないように感じられて仕方がない。


「これってさ、なんだか悪者っぽくない?」


 随伴する詩音がわき腹を突く。


「それよか蟲っぽいぜ。クモっぽい。蟲と間違われて味方から撃たれねえように注意しねえとだな」


 アクエリオスは全身を脚部に変形させており、合わせて6脚。それにマイの2脚を合わせればちょうどクモと同じ8脚になる。


「それ以上に変だよ、なんかこれ、ちがくない?」

「ん? どこがさ、いたって普通だろ」

『とてもよくお似合いです。出力317パーセント、機動力263パーセント、戦闘力499パーセント。非の打ちどころがありません』

「いやいやいや、おかしいよねこれ。このところ麻痺してきてたけど、気色悪いよね? やっぱどう考えても変だよねこれ!」


 マイは横になり仰向けである。それでいて走っている。

 つまりどういうことかというと、アクエリオスのアルマゲドン形態を背負うかたちで合体し、アクエリオスがもつ6脚を駆使して走っている。

 マイの2脚は地面にとどかず宙ぶらりん。その上で寝転がっている。


「しょうがねえだろ、アンタに今エネルギーを使われちゃあ困るんだ。女王蟲を前に電池切れになられちゃあ困るんだよ」


 強攻型アクエリオスは戦闘で撃破された過去があり、今日までに大規模改修を受けている。

 失った電脳の代わりとして新型の準AIが搭載されており、三位一体となることでひとつのAI相当の処理能力を得る新設計。そのためマイとは競合しない。フィーナの隷下に入り、マイを完璧にサポートする。


「さすがに今回ばかりは最期かもな。どうだマイ、何か言い残すことがあるか?」


 それはかつてマイ自身が戦友に向けて放った言葉。たまさか、奇しくも知らないはずの詩音の口から出た。もちろんマイはそれを思い出すことはできず、新鮮な心持ちで応える。


「そうだね、とくに言いたいことはないけれど。今この身になって気になることはひとつ。もし生きてたら聞いてみたかった、かな」


 マイがすでに他界した人物に聞きたいこと。


「? 誰にさ。何を?」

「おじいちゃんにさ。ヒトを滅ぼすのに賛成だったか、って」


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