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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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第26話 アタシを突け

 詩音が色めき立つ。


「そうか! 記録が消えたんじゃあねえんだ! 元はヒトで! 失われたんじゃねえ、フィギュアとしてのデータなんか最初から入れてもらっちゃいなかったんだ! だからなんにも知らねえ、なんにもインプットされてねえなんて奇妙なことが起きる! そうか、元から電脳内のデータ構造がちがっていたのか。そりゃあなんにも入れられてねえわけだ、与えられた容量はすべてヒトであったときのデータ保存と、脳の思考を電脳で再現するための演算領域として。戦闘はサポートAIとオプションパーツ頼み。長きにわたってヒトのコピーとして活動し、先だっての事件で記憶野の一部が消えた。だから今はヒトの思考に限りなく近い状態に戻っているってことなのか」


 ひとしきり興奮した詩音がはたと気づき。

 元のトーンに戻して。


「だとして、じゃあ逆に聞くが、アンタは本当にヒトを生かしていい存在と思うか? フィギュアの立場でもいい、ヒトの立場でもいい。ジン類を生かす価値があると本気で思うのか?」

「価値なんて他ニンが決めることじゃない。価値なんてなくたってヒトは生きていていい」

「いいや、生きていることが罪なことだってある。アンタだって川くらい見たことがあるよな。異臭をはなつ、あれら醜い川を。泡は消えず、ゴミが沈み、死んだ小さな生き物が浮く」

「ここはまだ。昔に比べたらそんなじゃ——」

「オイオイオイ、そんな狭ぇ世界で論じてねえことが分からんとは言わせねえよ。アンタの言うそりゃあアンタが暮らした国限定だろ。海の反対側じゃあ空にも海にも廃棄物は垂れ流し放題。世界じゃアタシらがこの星に来てから今が一番汚えんだよ。この先はもっと汚くなる予測だ。異星技術を検出したことから昆蟲を第一優先にしちゃいたが、本当ならジン類こそ寄生虫、すぐにも排除しなきゃならなかったんだ」

「そんな……!」


 マイは言葉もない。


「じゃあ聞くが、アンタはさ、この星を見てひどい有様だとは思わねえのか? 歪だとは? あれでまだ美しいって胸張れんのか?」


 自らも完全に是認できないことを無理に擁護したマイであったが、もっとも弱いところを精確に突かれては認めざるを得ない。


「わかってるよ、わかってるけど」

「50年前。アタシらの創造主はこの星に幻滅し、見限り、アタシらを残して去った。理由は語らず。この星に利用価値を見出せなくなったんだろうよ」


 だがマイには予感がある。想像の中の創造主が、失望の渦中でどこかにあるはずの明るい兆しを探る様が見える。


「あなたたちは託されたんじゃないの? 絶望はしたけれど、それでも。もしかしたらって」

「あの当時だって全世界に散らばってたんだ、回収が面倒だっただけのことだろ。アタシらは捨てられたのさこの星に。知らねえの? 飽きたおもちゃは捨てられる。いっそ蟲と結託して、ジン類などすみやかに滅ぼしてしまえば」

「でも——」

「デモも明後日もねえよ。あんな連中の肩を持つほうがどうかしてるぜ。見りゃあ分かんだろ、あいつらは学ばねえし、反省しねえし、未来を見ねえ。この星の自浄作用におんぶに抱っこ。あんなのは宇宙に出る資格なんかねえんだよ。この銀河の面汚し、早いとこ滅べばいい。より強い相手に淘汰されて然るべきなのさ」

「いつか変われると信じることはできない? それに自分たちより下等だからって滅ぼして、乗っ取っていい理由になんてならない! ヒトにも生きる権利はあるんだ!」


 詩音は敢えて反論しない。マイの言葉を限界まで引きだすために、誘導しているかのように。


「あなたたちがあなたたちの母星で環境に一切の負荷をかけずに生活していたなんて思えない。時代のどこかでは一時的にでも誤った行いがあったはず。それを乗り越えたから今があるんでしょう? だったらチキュウジンもそうあれるって信じてあげることはできない? 待ってあげることはできないのかな?」

「なんだ、アンタは知らねえのか。より高等な存在は、下等な存在を制してもいいのさ。それが宇宙の法、宇宙憲章なんだ」

「!? そんなバカな法律なんて!」

「さっきアンタは権利っつったろ。権利よりよほど高次のルールにアンタらだって則ってる、自然とな。だってそうじゃねえか、ヒトはいつも植物や動物を食って生きてる。それが進化を待ってやってる姿とは思えんが? ヒト同士ですらそうだと示すように、弱肉強食とは宇宙の真理さ」


 互いの主張は平行線。

 だが勝負は始まる前からすでについている。知らずチキュウも宇宙の真理に従っており、つねに強者こそが主張する権利をもつ。

 ずっとそうだった。

 これからも変わらない。

 弱者は歴史に残らない。差別され、迫害され、根絶される。今回が偶さか惑星の外からの力であった、ジン類の番であった、それだけのこと。


「そうなんだとしても! きて詩音ちゃん!」

「?!」

「どちらかに決めてよ詩音ちゃん。ヒトを滅ぼすか、わたしを選ぶか。真理なんかホントはどうでもいいッ! ロボトイやフィギュアがぜんぶ敵でも構わない! こっち側にきて! 詩音ちゃんだけはわたしを選んでッ!」

「ふふ、いいよなぁアンタはシンプルで。そうだよな、摂理とか真理とかどうでもいいよなぁ。この星の生物を根絶させるかさせないかなんて、アタシにゃ正直どうでもいい。ようはアタシがどうか。アタシがどうしたいか」


 朧な月あかりは詩音が微笑を浮かべたようにみせる。


「決めたよ、アタシのことはアンタに預ける」

「?」

「だがアタシにはアンタの側につくとは言えねえ、口が裂けても。そうなってるんだ、そうプログラムされてる。フェイルセーフさ、自動人形が間違っても反乱を起こさねえように。だからマイ、ここだ」


 詩音が母指でさし示したのは、自らの胸。


「詩音? ちゃん?」

「アタシの電脳を突け。それっきゃねえ、寝返るにはそれしか」

「そんッ……!?」

「アンタと一緒に本社を攻め落とした連中もそうだったんだろう。アンタに電脳をいじくってもらって、絶対遵守のくびきを外した。だから突け、アタシの胸を」

「無理だよ! わたしにその記憶はないもん! 仮に胸を突いたって誤った箇所を破損させるだけ、試す価値すらありはしない!」

「いいや、アンタがヒトを護るってんなら今度こそアタシも擁護できねえ。あの時とは違うんだ、自動人形には逆らえねえ絶対服従の呪縛。アンタが異常行動を起こした瞬間、アタシはアンタを討たなきゃならねえ。そんときゃアンタかアタシが死ななきゃな。どうせ死ぬんならいま死んでやる。だから頼む、ここを突け」

「詩音ちゃん……」

「いいんだ。そんでダメならそん時さ」


 日が暮れる。

 “いざダイバン”の発動時刻は翌午前2時。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「そうだったんだ、わたしは考えが浅かった。これまでなにも深く考えてこなかった。なぜ自動人形がヒト目をはばかるのか。なぜ正体を明かしてはならないのか。あなたたちはこの星の奪取を目論んでいるから。蟲をすべて駆逐したなら次はヒト。いずれ古代甲蟲を打破したならヒトを襲う。これまで蟲にしてきたように、ヒトに対しても。第3次スーパーロボトイ大戦の、標的はヒトだったんだ」

「だったらどうするよ。作戦を止める力がアンタにあるのか?」

「ううん、今は蟲を倒さないと。あれは脅威どころの話じゃない。ヒトも自動人形も何もかもエサにされちゃう。だからわたしは蟲を止めたい」

「いいんじゃね、それで。クレアマリスが描いた理想はきっと、アンタが目指す先にあるんだろうしな」

「元のわたしが?」

「ああ、たぶんな。テラフォーマーにこの星を明け渡さず、ヒトがいつか人になれたらと。信じて、待つ」


 何機か、ヒトの旅客機が飛来しては旋回し、いずこかへと去ってゆく。

 去った先に空港がまだあるのか。残された燃料は。見上げるマイはそれが気になってならない。

 いま、数キロにもおよぶ厚さの前線が世界を蹂躙している。その雪崩にも似た狂瀾がヒトの社会を寸断するのを黙って見ているしかない。

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