第23話 ソウル基地壊滅
ようやく詩音がマイに追いついて。
「このぉ!」
「ストップストップ! アタシだアタシ」
マイの手刀を詩音の槍がすんでで受けとめる。
「ご、ごめん!」
『わたくしが再三違うと申しましたのに』
「だからごめんったら!」
「ったく、先走んなっての。ひとりでできることなんてそんなに多くねえ」
「重ねてごめん」
甲蟲はあらゆる建物を貪り食い、あらゆる隙間に入り。
跳ね除け。
突き崩し。
こじ開け。
食い破る。
そのなかで目立つ2機は格好の標的、視認されるなり次々に襲撃を受ける。回避に徹しつつ、隙あらば撃破する姿勢。
数十万のうち数体を撃破したところで焼け石に水、今は1体でも多くの敵を引きつける、それだけがひとりでも多くのヒトを救うと信じて。
「ちゃんちゃらおかしいじゃねえか。ふざけんじゃねえ、この星を統べるのはアタシらだ! ヒトにも昆蟲にも邪魔はさせねえ。いつかロボトイもフィギュアも戦わずに暮らせるように!」
「詩音ちゃん後ろ!」
1メートル程度の中型甲蟲による完全に死角からの突進、詩音の迎撃は間に合わない。
『フレンドリーファイア警報、僚機が射線に入っています』
「そんなの見りゃわかるって!」
同士撃ちを承知でマイがスナイパーライフルを発射、運よく甲蟲だけを仕留める。
その勢いのまま二機が合流して。背中合わせになってそれぞれの正面からの攻撃を防ぐ。
「サンキュ。にしても、手がつけられねえ。なんなんだこの猛襲は。通り過ぎるだけじゃねえのか?」
「ううん、おそらく通り過ぎているだけなんだよ。それでこれだけの圧力。それだけでこの猛攻。見敵必食なんだろうけど」
「蟲どもの原種の凶暴さがこれほどまでとは。とんでもねえな、想像を絶する……! そりゃどこの隊だって保たねえはずだぜ」
マイはリフボードのほかに、時空超要塞ミクロスフロントラインのDX重合金VG-25用スーパーパーツを装着。ただし発射直後の肉薄で誘爆の恐れからミサイル類は出撃前に全撤去してある。フライト機能補助と防御に主眼を置いた、右腕の能力を最大限に活かす装備。
実はマイにダボ穴などない。部品の形状に合わせて自らを凹ませて横から締めつけることで固定、あるいは背面にあるサブアームを用いて強固に保持する。それらはフィーナが自動で行う。
詩音も今回かなりの重装甲、重武装の出で立ち。
原作である魔道大戦まどは⭐︎マジカルの主人公が纏うアルティメット装備、それに換装しての出撃。
撃つと無くなるミサイル類は最初からなく、ビーム射撃戦闘を主体とした。継戦力に全振りした仕様のため一撃一撃の威力はひかえめ。主武装は省エネで確実に両断できる超巨大ランス2刀流とした。通常の物理穂先でなくメガ粒子コーティング、つまりはビームランス装備。
だがそれでどうこうできる相手ではない。現実はヒトを助けるどころでなく、襲いくる巨蟲を斥けるだけで精いっぱい。視界の端では事態がとどまることなく進行しており。
ビル1棟が蟲で黒だかりの山になると、ものの数分で平らな地面と化す。跡には、糞ではなく資源に戻された超高圧縮の塊が残される。
火災はそこかしこで起きるも、蟲が集ってその身で封殺し窒息消火へ至らせる。資源保護の原則に則って。
ソウル市のジンコウは、観光客やこの日訪れていた者を含めるとおよそ1千万ニン。それもあとどれだけ残っているのか。建物の奥まったところ。地下。常日頃武装しており、抵抗を開始した韓国軍と在韓米軍。
混乱と阿鼻叫喚のなかヒトはヒトの足をひっぱり、ヒトがヒトを蹴落とす。
自ら高層階から身を投げる。
我も我もと速度を上げる自動車は、逃げまどうヒトビトをなぎ倒し。
ほんの数秒長く生き残るために、恐怖に駆られてヒトはヒトの仮面をはずす。まさに地獄。
「アフリカの大型も相当厚い外骨格だったがこいつはどうだ! 硬えってか、まるで金属の塊じゃねえか!」
「ただ手で刺しただけじゃまるで届かない、表皮を断つだけ程度なの」
マイは腕を瞬時に変形させて帯状にし、それを高速で振ることで蟲を斬り裂いてゆく。一時的に怯ませるも、絶命させるにはなかなか至らない。
「いや、それでいい! アンタがどんどんやつらを割ってくれ! アタシがその割れ目にビームを叩きこんでやるから!」
「了〜解! じゃあ前衛任せて!」
「こっちも後衛任せろ!」
いかに2機で遊撃したとしても到底護れない。たとえば1軒の家屋だけを衛ると仮定して、2機だけでは全方位から襲いくる蟲をすべて排除することは不可能。
ソウル市の全滅はすでに確定していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
接敵からのすべてを合わせると、ほんの4時間程度の出来事だった。
猛攻は過ぎていった。ふたりの他は何も残らない状態になってやっと。
「次は? 次はどこ!?」
「もういいマイ、終わったんだ。何も……
、残らなかった……」
「そんなことって……!」
疲労を感じない自動人形であっても徒労感を覚えないではない。
あれだけの自己犠牲をはらっても何も護れなかった。それが悔しい。今回は丸裸になることは避けられた。たったそれだけがプラスの要素。
あとには煙と、異臭と、資源に戻された塊。ひたすら黒紅梅の色をした、平らに変貌した地面だけが残った。
ソウルの地下基地の場所は目視では探せなくなっていた。競うように林立していたビル群は跡形ない。ランドマークは記憶の中にだけ残る。
ヒトのGPSを使えるようにはなっていないため、自らの移動記録を遡って入り口をあぶり出す。
見つけた。見る影のない、ほとんど地上階となってしまったそれを。
「…………」
無言のままホバリング、低速で垂直降下する。
先ほど使ったばかりのエレベーターシャフトは壁を失って若干太く、見違えるほど伽藍堂になり。
地下階に到達するも中に明かりはなかった。物音もせず、静かに煙が充満するばかり。目に沁みることはないのでそれを苦にすることはないが、視界は最悪。
隔壁は跡形もなかった。通路も地質が露出しており。
ロボトイもフィギュアもそこには残っていなかった。
あるのはかつて隔壁だった塊。
通路だった塊。
ロボトイだった塊。
フィギュアだった塊。
余分な液体や空間は圧搾されて除去、小さな塊に変換させられていた。
ふたりの他は自動人形の生き残りはいなかった。比較的広くとも地下の限定された空間では、攻めこまれた際に脆く、用いることのできる武器にも制限があり。
くり返し押し寄せる蟲の波は、給弾もしくはエネルギー切れの隙で容易に歩を進めた。
その日。ソウル基地はソウル市とともに消滅した。




