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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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第21話 紛糾

 数を大きく減じたソウル基地の、決戦に向けた会議が開かれる。

 元々の戦力は1個師団およそ400機超。本社には1個旅団、甲蟲には合わせて3個旅団を向かわせており、現状残るのは1個旅団と守備隊のみ。兵站が専門の準自動人形を除けば総勢70にも満たない寡兵となる。

 どんな重装備をさせてもわずか畳1畳に集まれるほどの軍勢で、これから1メートル50センチの体躯からなる巨兵群を迎え撃たねばならない。

 そんな絶望的状況にも関わらず、詩音の気分は晴れ晴れ。特攻に挑むにも似た、清々しさで参画している。

 電脳を突き合わせて会議するのが自動人形の通常、しかし通信を失ったのであればジン類よろしく顔を突き合わせて議論をせねばならない。


(なるほどな、通信が分断されると会議の形はこうなるのか)

『あれらは遠くシベリアの奥地より飛来した新種のもの。永久凍土が融解し、下から古代の営巣地が活動を再開したものと推定されます』

『まさかそのようなものが現存したとは。それも最悪の時機での復活』

『現在は夜間の気温低下により浸透は停止しているもよう。昨日の進軍速度から予測しますと、昨夜時点でこの赤い線の辺りにまで甲蟲は迫っているものと考えられます。すでにヒトがよぶ北朝鮮という土地全域と連絡が取れない状態に陥っており、今日にも朝鮮半島全域が、および海岸線沿いにペキンにも進出するのではと』

『恐らく根拠地から放射状に展開しているのだとして、ソ連はどうなっている?』

『不明です。およそ同程度浸潤しているとして、今日にもモスクワに到達するのではないかと』

『フランス基地に連絡が取れればな。救援は送れずとも身構える時間は作ってやれた』

『フランスに蟲どもが到達する前にここは廃墟だぞ。まずはここ、今この難局をどう打開するかだ』

『左様、西へ逸れた群れに関しては気を揉んでいる状況ではない。もはや我々でどうこうできるものではないのだ。欧州についてはフランスやスペイン、アジア圏についてはシンガポールや深センに任せるよりない』

『情報が共有されにくい地方都市を抜けて大都市へ、か。いよいよだな』

『ダイバン社全体として考えるならば、本社を失った今、日本へ流入する蟲を押しとどめる意味はない。むしろ素通りさせ、日本へ入るだけ入った時点で海上封鎖する方が効率的だ。今後水際作戦で事足りるからな』

『だがオーサカやナゴヤの物資はどうなる。あの地にあるものをいくらか融通してもらわねば』

『それとて一時のこと。すぐに倉庫は空になるぞ』

『ちょうどよいではないか、この戦いで間違いなくロボトイの口は減る。減れば——』

『減ったところで供給は尽きているのだ、いずれすべての自動人形は動かなくなる。早いか遅いかだけの話だ』

『だとしてどうする、蟲は。次は古代甲蟲などと。本社襲撃犯はこの状況を想定していたのか? これを予測できていたのか?』


 会議は進む、文字通りロボトイの間で。

 マイと詩音は参画してはいるが発言できる立場にない。テーブルにつけてはいないのだ、部屋には入れてもらえただけ。

 事実マイと詩音以外は蚊帳の外、出撃に際してはフィギュアの方が大多数を占めるにもかかわらず。戦う方針に決定権をもつのはロボトイのみ。

 詩音の名声とソウル司令の口添えがあって初めて末席に加えてもらえている。最初に自分たちから告げた手前、少尉扱いのマイは補佐官の位置づけ。

 それゆえの手持ち無沙汰。マイは自らのかかえる懊悩を打ち明ける。


(ねえ詩音ちゃん)

(んう?)

(本社さえ無事なら武器弾薬や自動人形そのものの生産で対抗できた、よね)

(あ? まあな)

(だったらこの絶望的な状況って本当はわたしのせいなんじゃないのかな? 記憶を失っただけで、本当はわたしが本社を)

(それを今さら考えたってしょうがねえさ。アンタはあの件の被害者で、いまは追われてて。多少戦ってやればあいつらも納得する。日本から追っ手が来りゃ逃げればいい)

(それでいったい何になるんだろ。わたしひとりが討たれればそれで丸く収まりそうな気がするのは気のせい?)

(おいおい、ふざけんのもいい加減にしとけよ……!)


 詩音は怒髪が天を衝くところを、しかし会議の邪魔をするので爆発すんでで収めて。

 一拍おき、わずかに冷静になってから続ける。


(いいか、少なくともあの場においての正義はこちら側にあった。それを信じて戦ったアタシにこんなこと言わせんな)

(ごめん……)

(謝るくらいなら最初から言うんじゃねえ。それに今、あの時だって、アンタひとりが事後に討たれたところで古代甲蟲は止まっちゃくれねえ。だったらただの1兵としてでも参戦しなきゃな。1体でも多くの古代甲蟲を倒せ。アンタが本当にクレアマリスなら、かの英雄クレアマリスってんならさ、アタシらフィギュアの可能性を今一度示してくれ。一度はできたことなんだ、もう一回くらいできっだろ?)

(詩音ちゃん……)


 静岡で40センチ級を打ち破った程度でなく。

 かつて全戦闘用フィギュアを救ってみせたほどの。

 ほぼフィギュアのみが参加した戦役であったためにナンバリングに加えられてはいないが、かつてあった大戦に引けをとらないほどの一大作戦が過去にあった。彼女の台頭以前のフィギュアは準自動人形扱いであった。


『——無いものから順に弾薬、武器、予備の四肢。逆にあるのは生産機だ。最悪共食いしていけば前線は保てる。保てるだろうが、いつか各基地で胴体が余ってしょうがなくなるぞ』

『いいや、そうはならん。たしかに市販品を流用することはできん。携えたところで、接続したところで動きだしはせんからな。だが、これからの戦場では腕や脚を残して死ぬことも増えるだろう。共食いを前提とするならば、むしろ腕や脚は余るのが未来だ。武器も同じだとして、しかし弾薬は近い将来に尽きる。各基地に十分な量が保管されているとしてもいずれは。やがて兵士の命よりも弾薬のほうが価値がある、そんな冗談も現実になるかもしれん』

『ッハ、そうなれば世も末だ』

『全員になけなしのAPFSDS弾を配布して、いったいどれほどの効力があるか。使われないままに減損する数を考慮すると』

『その通り、ある程度の集約は必要だろう。まったく持たない誘導班と、遠くから仕留める狙撃班、それぞれの役割に徹すればあるいは』

『自由に戦場を渡り戦う遊撃班も必要だな』

「それでも蟲の津波は止まりませんよ。わたしたちを容易く食い破ります」

(マイ!?)


 全員の視線がマイを向く。


「無慈悲に、執拗に——」

『黙れ副官! 発言を許した覚えなどない!』

『本来なら貴様のような者はここに入ることもできんのだぞ!』


 それでもマイは怯まない。


「冷静に、わたしの話を聞いてもらっていいですか」

『フィギャーごときがなにを』

『この場で発言権があると思うな外様め』

「ッ……!」


 詩音が助け舟を出そうとしたその時、あらぬ方向から救援がでた。


『いや、むしろ聞こう』

『司令!?』

『我ら自動人形は今や存亡の危機に瀕している。補給物資は永遠に届かず、新兵の補充もまた永遠にない。この基地の一線級はすでにこの世になく、二戦級が残るのみ。ここに在るだけだ、ここに在るロボトイとフィギュアが倒れればそれまで。倒れずとも、弾薬を使いきれば戦えなくなる者は多く出よう。考えねば。これからどうするか。何を為すか。だが何をするにせよ、時間が足りない。あと3時間で夜が明ける。明ければ蟲どもが攻めてくる。考えるための時は稼がねばならない。時を稼ぐには、何者の意見であっても私は妨げない』

『ムゥ……』


 マイにはヒトであったときの記憶がある。アフリカで何もかもを失ったあの日の光景を、彼女は少ないながら思い出せた。それは強烈な衝撃、本来なら思い出したくもない過去。

 自動人形は撤退できるから。形勢を立て直して再侵攻できるから。

 ヒトはいつも襲われる側だった。逃げ場などなかった。国境という線で土地に縛られていた。天災という理不尽にされるがままだった。

 マイはわざとらしく瞬きをし、ぐるりと見渡してから。


「かつていた国境のない医師団のメンバーを親にもつヒトの子ども、その者の話をします。彼女が見た地獄絵図。あの小さなバッタですらヒトを食べることがあるそうです」

『なにを話すかと思えば。関係のない——』

「関係があるか無いかはマイが決めることだ。アンタらは今は黙って聞けよ、頼むから」


 ロボトイの身でありながら舌打ちを。せめてもの抵抗といったところか。


「あなた方の議論は戦術しか見ていない。ただの一度破って見せたところでどうするんですか。向こうは波のように繰り返し繰り返し押し寄せます、まるでスチームローラーのように。この中にヒトの間で昔から恐れられる天災のひとつ、蝗災こうさいを知るロボトイはいますか。虫へんにおうと書くそれは正しく蟲の王による大災害。津波ってわかります? 容赦ないんです、根こそぎ、あらゆるものを掻っ攫ってゆく。まさにそれは蟲の津波。その原種とでも呼ぶべきあの古代種……。20センチ級であれだけの被害、それが1メートル50センチ級であったなら……」


 マイはひと息入れたが誰も発言をしない。誰も彼女を妨げない。


「わたしはかつていなごの生態を調べたことがあります。定住する種の中からある日を境に突然生じる強化種。生息密度の高まりから諍いが起き、仲間同士が衝突することで体組織は強化され、体色は黒色ないしは黄色化。そのほとんどは黄と黒のまざった警戒色を帯び、攻撃的になり。群れをなして移動を開始します。新しい定住先と、食料を求めて」

「……」


 内容については居並ぶ全員がインプットされるものだとして、マイのヒトとしての語りを正確に捉えられたのは詩音のみ。


(そうか、ヒトは数百年ものあいだ昆蟲を観察してきたか。対して我らは50年。効率よく数を減らすための研究はすれど、その詳しい生態までは。しかもこれまでに経験のない原種となると。にしてもマイのヒトとしての記憶、あれは本物である可能性が? ある?)

「あれらがもし波として襲ってくるのなら。大顎おおあぎとによる咀嚼はヒトも建物も、あらゆる物質をエサにするでしょう。もちろん自動人形も」

「天より来たりてあらゆるものを更地に還す、宙よりの使者、か。縁起でもねえ」

「古代種が現代種と同じ行動をとるのなら勝機はあります。彼らは通り過ぎるのみ、極論前に進むだけ。もどり蝗は少ない。まったく生じないとまでは言えませんが。同じ生態ならという前提ではありますけども」

『そのような不確かな情報で軍が動くとでも? ハッ、話にならんな』

『して対策は? それがあらねば戦えん』

「おそらく全てを迎えうつのは難しいでしょう。善戦を期待するとして、まともに戦えば最後の一兵がどちらの陣営かという戦いになる。だから受け流しましょう後ろへ、それしかない」

『誇りある我らが蟲どもに負ける? だと?』


 ソウル司令は1枚の画像を全電脳に転送した。


『初めて目にしたとは言わせんぞ。これが現実だ。たったの1枚の画像でここに居並ぶ自動人形の10分の1は存在する。ほんの一角、街の片隅で、だ。いち都市を襲う規模はおそらく、数十万個体にも達する』

『数十万……!?』

『朝鮮半島を通過中の全体ならその百倍に達するだろう。シャンハイにも同数が向かっているはずだ。モスクワにも、インドにも。数十万で済むんなら御の字だな』

「ではどうやってその数の差をひっくり返しますか? 体格だってわたしたちよりよほど大きいのに? これまでに投入した3個旅団で勝てなかった相手にどうして1個旅団で勝てると? 負けるかもじゃないんです、すでに負けたんです。勝てない。だったら」


 今一度全体を見渡し。

 今度は目が合う。一堂に会した面々はマイの一挙手一投足に関心をはらう。


「どう負けるかを議論しませんか」

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