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第三次スーパーロボトイ大戦  作者: おれごん未来


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18/30

第18話 ソウル基地

 ダイバンの工場は世界広しと言えど静岡のみ、この星にひとつ。栄や梅田、博多には地下基地があるものの、製造設備はない。それらは言うなれば保管庫、そこを拠点として海外へ派兵している。

 マイと詩音が選んだ方角は東。静岡から西へ逃走するのは敵の只中、自殺行為と判断しての東走。

 そこに広がるのはダイバンの空白地帯。東京にヒトの本社機能はあれど自動人形のものはない。それはジンコウ密度もさることながら、第2次スーパーロボトイ大戦の結果が影響している。

 そのため彼女らは東へと向かい、密かに空路で海を渡り。

 ソウル市に来た。


「だがまあ、変わり映えしねえなあ」

「そりゃあそうだよ、街路樹の中を通ってるんだから」


 マイと詩音はボックス様に剪定された街路樹の中を歩いている。日本でもこれが常套手段で、自動人形の移動といえばこれ、とされるくらいには常態である。

 交差点毎に尽きる街路樹ではあるが、ソウル基地の兵も平時に用いており。端部までくるとほぼ地下通路が用意されていて、これは万国共通である。

 フィギュアの身では街路樹はまるで林か森。その枝の隙間から垣間見える街並みは、やはり異国なのだと感じさせるにはじゅうぶんで、マイのあごは先刻から上がりっぱなし、左右に振りっぱなしである。


「ここが韓国なんだ、初めて来た。一番近い未知の外国」


 一方の詩音は心底興味ない。


「何がそんなに珍しいんだか。ヒトが住まう集落なんて一緒じゃね?」

「集落! 都市って言ってよ寒村じゃあるまいし。すごいんだから、ジンコウ密度なんて東京の3倍あるらしいよ?」

「フゥン、東京なんてさっきトラックで通っただけだからわかんねえ」


 だが浮かれてもいられない。彼女らは追われる身なのだ。


「大丈夫かなぁ、近すぎない?」

「しょうがねえさ、ここが一番便数が多かった。すぐに飛ぶのがあの便で、ちょうど拾ってもらえそうな女児がいたのも幸運で。ぜいたくは言ってらんなかったろ?」

「まあね。飛行機を降りたらさっそくお人形を無くしちゃって。悪いことしたかなぁ」


 後ろへ目線をやるマイの眼差しが淋しそうに見えたから、つい。


「あのまま、あの子のお人形のままでいられたらよかったのか?」

「うん、想像はしてみたんだよね。でも迷惑はかけらんないから」


 詩音は正確に予想できていた、マイの返答内容を。わかっていてもわざわざ口に出して確認したのは彼女の嫉妬ゆえ。自分たちは追われる身なのだと、マイの口からきちんと言ってほしかった。

 だがその無駄な作業は同時に罪悪感も生む。不必要なそれはまったく詩音を癒すことなく、マイの表情を曇らせただけ。

 本当は心底女児といっしょにいたかったのだ、マイも、詩音すらも。そうした選択をする権利がもしあるのなら。

 コソコソ充電して、遊び遊ばれて。いずれ捨てられるのだとしても。期間が長いか短いかの違い、極論トイレットペーパーも宝飾品さえもいつかはゴミになる。買い取りという名の捨て方かもしれない。いずれにせよ、そのときがくるまでは平穏でいられた。


「さようなら日常。ううん、目覚めてからこっちずっと変なことばっかなんだけどね。ほんとは胸が張り裂けそう。でもね、どうしてかな。涙は出す機能がないんだって」

「マイ……」


 女児へのアプローチが空振りに終わった場合も一応は代案を考えていた。それは単純、旅客機の胴体に掴まる。

 トラックの天面ですら辟易していたところ、いくら1時間程度のフライトとはいえ、関節に不調を来している詩音には堪えたであろう。あるいは途中で肘か手首がついに捥げ、墜落の恐れも。

 ともあれ女児には狙いのとおり拾ってもらえ、短絡な行動でリュックにイン、両親に明かされる前に搭乗して以降は意識の外へ。

 空港に到着してやっと彼女が思い出し、リュックを開けたときにはふたりは消えていた。


「あれぇ〜? おにんぎょうさんがいない? なんで?」

「機内じゃ遊んでいなかったでしょう? ほら、ちゃんとあるじゃない、いつもの子たち」

「ううん、ジャパンのくうこうでね、あたらしくおともだちになったのがね、あれぇ〜?」


 ふたりが密航までして目指していたのはダイバン社の施設。

 ようやく着いたのはソウル市にあるダイバンの支社。ここにも博多などと同様で地下に基地があり、製造はしていないものの整備や修理のための部品の在庫や設備があり、補給を行える駐屯地の役割を担っている。

 この基地を最重要拠点として、かつてソ連極東に存在した巣の世界初の撃滅に成功してから50余年。日本以外の前線基地としては最古のもので、基地機能としては形骸化しており、もっぱら中央アジアへの陸路の輸送拠点としての意味合いが強い。

 総勢420機からなる機甲師団が常駐するも、旧式化して一線を退いた退役予備役のロボトイで構成されている。

 そんな基地をマイと詩音は訪れた。

 ビルのすきま、幅15センチ、高さ30センチ。それ以上の大きな自動人形は通行できない秘密の入り口、そのひとつ。

 1メートルほど奥へ進むと行き止まり。そこで電脳を介して認証が行われ、エレベーターのドアが開く。

 箱に乗り、地下57メートル。


『補給と修理ですか。どうぞお進みください』

「ありがとうございます」

「ご苦労さん〜」

(さっすが詩音ちゃん、少佐殿なんでしょ? 顔パス?)

(んなわけねえだろ。自動人形なら誰だって出入り自由に決まってら。あれは蟲や小動物なんかを先へ行かせないためのゲート)

(ふぅん)


 すべての自動人形が通信手段を失ったいま、もはや情報の伝達はほぼ口述共有しか残されていない。ジン類の通信網を密かに活用するには、送る方も受け取る方もしばし時間がかかる。

 それを逆手にとり、マイと詩音は追っ手が及ぶより先に地方の基地へと向かい、整備や充電、修理に部品交換を受けることにした。


「やっぱり詩音ちゃんのと近いパーツはないんですね」

『申し訳ありません、所属基地とアジア圏では事情が異なりまして。ご本人には憚られるのですが、月ノ宮少佐の原作は発表から10年以上が経ち、自動人形の生存数が減少していまして』

「へぇ、昔は詩音ちゃんの同型機がたくさんいたんだ」

『はい、今やあの方が星ノ宮詩音型の最後の1機です。まず一般販売の生産数があり、魔改造される自動人形数があり、その下に用意できる交換パーツ数があるんです』

「だから今の作品の部品しか無いんですね」


 マイが細かく区切られた棚から掛け軸のように引きだしては仕舞うのは、各種フィギュアの脚。これからそれを装着するはずの当の本人は意外にも興味がない。別の懸念について思索中。

 太さや長さ、肌の色に違いがあり、あれでもないこれでもないと義肢保管庫担当官の補佐のもと、マイが代わりに選んでいる。


『フィギュアのかたが羨ましいですよ、手足であれば完全互換でなくともそれなりのパーツが手に入りますから。我らロボトイはそうは参りません。同じダイバン製品であっても原作やデザイナーが異なれば大きく機能を損ねます。外見だけならまだしも、左右の長さや重量バランスが狂えば戦闘にも影響しますので』

「考えたこともなかったです。あ、もしかして、フィギュアに肌面積が多いのは」

『そうです、調達性。フィギュアの自動人形化は商品市場の拡大が最大の要因ではあるものの、部位交換の容易さ、緊急時における抜群の互換性は数多の戦場で我々を勝利へと導きました。っと、ありましたね24J-3969、こちらです』


 マイは預かった詩音の左脚と、型番を告げられた方とを見比べ。


「ははぁ。ムムム、これか。これだと長さは一緒っぽいけど色がだいぶ違うから。決めました、じゃあやっぱりさっきのにします」

『承知しました。では同型の左脚をお持ちしますね』

「お願いします」


 担当官が左脚の棚へと向かい、マイは脚を外して動けないでいる詩音に見せにいく。


「ね、詩音ちゃん、ちょっと違うけどこれ、いいと思わない?」

「なんでもいいっつったがそれか!? いやでも、なんか太すぎくねえ?」

「太くないって! むしろ今はこっちの方が流行りなんだから」

「そうかぁ?」

「そうだよ」


 心底疑う詩音の声音に、半ば確信犯的にマイは全面肯定してみせる。

 この際だから彼女をプロデュースしてみたい。もはや博多にある彼女のパーツストックには拝むことすら許されないのだから。


「詩音ちゃんの場合は胸が控えめなんだし、こっちでアピールしないと」


 またかと、詩音は首をぐるりと回してから反論する。


「あのさマイ、ヒト目をはばかる戦闘用自動人形がいったい何にアピールするってんだよ」

「そりゃあ敵と味方でしょ。戦国武将は着飾って戦場に出てたって言うし。西洋は甲冑がまるで美術品のよう。なにも権力や財力を誇示するためだけじゃなくて、その側面はありつつも、死装束っていうか、生き様と、死に様を魅せるための戦闘装束なんだよ」

「ほ」


 わずかに感嘆、妙にマイの説明が腑に落ちた。

 これまでこの類いの口論では一切なかった、矛盾を抱えた電脳内でカチリと回路が繋がった感覚。なるほど、博多の戦友の説得よりはよほど合点がいく。

 あらためて思い起こせば詩音にもおぼえがあった。いつ死ぬかもわからない兵のただひとつのこだわり。どうせ同じに果てるのであれば、果てるのを心待ちにするほどの見事な傾奇っぷりで。


(……なるほどな)


 ただ剣山のように武装を外付けするのは違うと常々感じていた。出撃に際しては必要な戦術に向けて、自分らしく、かつ格好よく、できうるなら世界観も作品準拠で。

 それが自分なりに我が身を着飾ることにも通ずるのであれば、是非もない。

 いや、詩音の美的感覚はマイのそれに近い。おそらくは死生観がそうさせる。兵士の本質、魂の色みたいなところでもこの娘とは繋がり合えるのだと。嬉しくもあり。

 それはおくびにも出さず、仕方がない感を大いに装いながら。


「アタシの場合ほとんどスカートで隠れるのにさ、そんなもんかねえ。貸してみな、適合するかチェックすっから」


 本来これほどゆったりはしていられないのだ。適合するのならすぐにここから離れたほうがいい。

 なぜなら、あまり時間をかけているとニンゲンが使う通信手段によりマイのことが周知されてしまうから。

 静岡の残存兵がヒトの通信手段を用いて全世界へクレアマリスを指名手配するのはおそらくもう行われている。あとは情報を受け取る側がいつ動くかだけ。

 通信が途絶えていることを不審に思ってヒトの通信手段にアクセスするか、伝令兵が直接飛来して口述するかのいずれかで、追っ手は彼女らに迫る。

 とくに後者はすでに発っているに違いない。ソウルであればほんの数時間、その数時間をフライトで費やしたためおそらくはあと数十分。

 マイと詩音が残されたわずかな時間をいかに武装するかに迷うなか、整備場に基地司令が姿を見せた。

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