第15話 ポッキーの箱炎上
火蓋が切って落とされた。即座にビームが幾筋もマイへ向かい、だが詩音のIフィールドが弾く。
「マイッ! アタシから離れんなよッ!」
「は、はいっ!」
ビームが効かないのは半ば織りこみ済み。放った方とて初弾は弾幕の認識、これを目くらましと肉薄し、それぞれの得物で刺突、あるいは斬撃にてかかる。
「わっと?」
「身を低く、じっとしてな……!」
詩音は片手でマイを抱き寄せ、敵の接近をゆるすもわざと間合いの外ギリギリまで引きつけ。
彼女は実弾系を先のツノ無し戦ですべて使い果たしていたが、ビーム系に関してはエネルギーを残していた。
出力は低く狙いもつけられない、ドレスの各所に設けたアクセサリーより放たれる緊急時防御魔法。実物的には、アクセサリーに内蔵の拡散メガ粒子砲。
「このォ!」
すなわち全方位へのゼロ距離射撃である。
ロボトイたちはすんでで転進、あるいは盾で受けて一旦離れる。
盾を失った者2、損傷した者無し。
『やるな。この数を一度に捌くとは』
『だがタネは割れた、いつまでもは続かぬよ』
スペック表には載っていない一撃にロボトイは警戒を強め。容易には第二撃に移れない。
武装や個々の外見が全軍で共有されることはない。情報統制、末端の兵士が敵に鹵獲された際に全軍の全容が漏れるのを防ぐためである。
『どうやらクレアマリスは戦闘に参加せぬようだ。見たところ、なんら武装を有していない』
『油断するな、やつにもなんらかの内蔵兵器の増設はあっておかしくない』
(次は左の防楯で受けつつ右で突く。援護を頼む)
(では盾持ちの某もそれで)
(承知した)
マイだって後ろで隠れているだけじゃない。彼女だって黙っていられない。
「昆蟲が攻めてきているんだよ? 仲間割れなんかしてる場合じゃないよ!」
『優先度のことなら心配無用。なぜなら第一にダイバン本社襲撃犯の撃滅、次にアフリカ残党昆蟲型テラフォーマーの駆除、第三に永久凍土から出でたと推定される新発見の昆蟲型。第四——』
『08、敵と戯れるな。任務に専念せよ』
『承知』
詩音は、自分たちが預かり知らぬ件が気になった。
「なんだそれは? 永久凍土から?」
『今より滅ぶ貴公には関係のないことだ』
「わたしを信じられないのは百歩ゆずって仕方がないとして、せめて昆蟲型を斥けてから、それからじゃダメ?」
『なにを悠長なことを。敵が待ってくれないのは世の常だ。どうして攻めこまれる側の立場に立ってやる必要がある? 攻めるのなら攻めこまれる側が一番困っているときに限る。最も脆く、最も弱いときにだ』
「いい性格してるよねぇえ!」
『褒め言葉として受けとろう』
『いざ尋常に』
ふたたび剣を交えようとしたその時、増援が現れた。当然ロボトイ側に与した集団である。
討伐対象に知己がおり、ためらう気持ちを口述せずにはおれない。
『少佐!?』
『まさか星ノ宮少佐が!? なぜそちら側に立っておられるのです!?』
「ウァサにアスタの隊か。済まねえ、惚れたモンの弱みってやつ、そうとしか今は言えねえ」
『訳がわかりませんよ!』
「ああ、知ってる。アタシもさ」
互いに携行する長得物を構えて。
『隊長、容赦はしませんよ?』
「ああ是非そうしてくれ。こっちもそうする」
『あなたは憧れであり、フィギュアという異物だった。ここで排除できることを残念に、そして嬉しく思います……』
絶体絶命の状況、戦力差は108対2。何機かが損傷するのを覚悟で前に出ればかんたんに圧しひしぐことが可能。相手になにもさせずに蹂躙できる。そうした物量にものを言わせる合理的判断を、なんのためらいもなく実行に移せるのが自動人形。
申し合わせた16機が一度に、2機に対して半球を押し潰すがごとく全方位から迫る。正面左右ななめ、後背、天頂から。
ただぶつかるだけでも原形を留めないような衝突を、すべての対峙者が長得物を携えて。
「クソッ!」
『終わりだ、あっけない』
『貴様らは撃破を確認ののち、拾えるだけ情報を拾ったらあとは燃やせ。ヒトに気取られるなよ』
『ハッ!』
詩音の短い嘆息が最期の言葉となった。
かに見えた。
今度は彼女が抱きかかえられ、マイの左腕にあり。
「大丈夫詩音ちゃん?」
「マイッ!?!?」
いまふたたびマイの右腕が鈍色に光る。
『作動限界まであと110秒です』
「うん分かってる、みんなには内緒ってことくらい」
取り囲み、ドームを形成していた16機は、動力炉か胴体を横断する傷を負って金属音とともに崩れ落ちる。
マイが手刀で切り裂いたのだ。
「ごめんね、あなたたちに恨みはないけれど」
低いブーム音が不気味さを醸す。例えるならライトセイバーの待機音に近い。
「おま、それ! そんなもん連発できんのか!?」
「わかんない。でもわたしがいま持っている力はこれだけだから。このまま戦わずしてやられるわけにも、詩音ちゃんにただ守られるわけにもいかないから」
自発光しているのにどこか鈍い、日の光を反射する満月のような右腕の耀き。
だけでは済まなかった。マイが身につけたポッキーの箱が盛大に燃える。
「わたた! わたたたっ!?」
『なんだ!?』
『遊んでおるのか? ふざけおって……!』
『残り90機からなる絶死の組手に勝利できるとでも言うか? テロリストども』
「そりゃあ、やってみなきゃわかんねえだろ」
『では。参る』




